高血圧性細動脈腎硬化症

執筆者:Zhiwei Zhang, MD, Loma Linda University School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 3月
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高血圧性細動脈腎硬化症は,コントロール不良の慢性高血圧を原因とする進行性の腎障害である。慢性腎臓病の症候が出現することがあり(例,食欲不振,悪心,嘔吐,そう痒,傾眠,錯乱),また高血圧に続発した末端臓器障害の徴候も出現する可能性がある。診断は主として臨床的であり,超音波検査およびルーチンの臨床検査の所見によって裏付けられる。治療は厳格な血圧コントロールおよび腎機能の維持である。

高血圧性細動脈腎硬化症は,慢性高血圧が微小血管,糸球体,尿細管および間質組織を障害することに起因する。その結果,進行性の慢性腎臓病が発生する。

高血圧性細動脈腎硬化症から末期腎臓病には,ごくわずかの割合の患者のみが進行する。しかしながら,慢性高血圧および高血圧性腎硬化症は一般的にみられるため,高血圧性細動脈腎硬化症は末期腎臓病患者における最も多い診断の1つである。同疾患は,悪性細動脈腎硬化症から区別するためにしばしば良性と表現される(悪性細動脈腎硬化症は高血圧緊急症と同義語である)。

危険因子としては以下のものがある:

  • 高齢

  • コントロールが不良な中等度~重度の高血圧

  • 他の腎疾患(例,糖尿病性腎症

黒人はリスクが上昇しており,高血圧の治療不十分が黒人でより多くみられることに起因するのか,あるいは黒人が高血圧性腎障害に対して遺伝的に高い感受性を有することに起因するのかは不明である。

症状と徴候

慢性腎臓病の症候,例えば食欲不振,悪心,嘔吐,そう痒,傾眠または錯乱,体重減少,口腔内の不快な味などがみられることがある。高血圧関連の末端臓器障害の徴候が眼の脈管構造,皮膚,中枢神経系,末梢に起こりうる。

診断

  • 高血圧の既往

  • 腎不全を示唆する血液検査

  • 高血圧による末端臓器障害の徴候

  • 慢性腎臓病のその他の原因がないこと

診断は,高血圧患者のルーチンの血液検査が腎機能の増悪(例,クレアチニンおよび血中尿素窒素の上昇,高リン血症)を示唆する場合に疑われることがある。診断は通常,病歴に加えて,身体診察で高血圧に関連する末端臓器障害の所見(例,網膜変化,左室肥大)を認めることで推測される。高血圧がタンパク尿および腎不全の出現前から存在している必要があり,他に腎不全の原因となる病態が臨床的に疑われてもならない。

また尿検査により腎不全のその他の原因(例,糸球体腎炎,高血圧緊急症)が示唆されてもならない。尿検査では,尿沈渣にわずかながらの細胞または円柱が認められるはずで,タンパク質排泄量は通常1g/日未満である(ときにより高く,ネフローゼレベルである)。

腎不全の他の原因を除外するため,超音波検査を施行すべきである。腎臓の縮小が明らかになることがある。腎生検は依然として診断がつかない場合にのみ施行する。

予後

予後は,通常血圧コントロールの適切性および腎不全の程度により異なる。通常,腎障害は緩徐に進行し,患者の1~2%のみが5~10年後に臨床的に有意な腎機能障害を発症する。

治療

  • 血圧コントロール

治療は厳格な血圧コントロールである。血圧の目標は< 130~140/80~90mm Hgである。ほとんどの専門家は,タンパク尿を呈する患者にアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)またはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を使用することを提案している。カルシウム拮抗薬およびサイアザイド系利尿薬を第1選択薬として用いることができ,ほとんどの患者は血圧コントロールのために併用療法を必要とする。体重減少,運動,塩分および水分の制限もまた血圧コントロールに役立つ。慢性腎臓病は管理されるべきである。

要点

  • 慢性高血圧は高血圧性細動脈腎硬化症を引き起こす可能性があり,それにより慢性腎臓病や,まれに末期腎臓病につながることがある。

  • 慢性高血圧が腎機能不全の発症に先行している場合は,本疾患の可能性を疑う。

  • 腎不全の他の原因を検出するため,超音波検査を施行する。

  • ほとんどの患者はACE阻害薬またはARBで治療するが,他の薬剤も使用することがある。

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