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陰嚢痛

執筆者:

Geetha Maddukuri

, MD, Saint Louis University

レビュー/改訂 2021年 1月
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本ページのリソース

陰嚢痛は,新生児から高齢男性に至るまで,あらゆる年齢の男性で発生する可能性がある。

陰嚢痛の病因

陰嚢痛の最も頻度の高い原因としては以下のものがある:

比較的まれな原因がいくつかある(陰嚢痛の主な原因 陰嚢痛の主な原因 陰嚢痛の主な原因 の表を参照)。年齢,症状の発症,およびその他の所見が原因の特定に役立つ可能性がある。

陰嚢痛の評価

病歴

現病歴の聴取では,疼痛の部位(片側性または両側性),発症(急性または亜急性),および持続期間を明らかにすべきである。重要な随伴症状として,発熱,排尿困難,陰茎分泌物,陰嚢腫瘤の存在などがある。外傷,いきみ,重い物の挙上,性的接触などの先行事象について患者に尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,原因疾患の症状がないか検討すべきであり,具体的には紫斑性発疹,腹痛,および関節痛(IgA血管炎 IgA血管炎(IgAV) IgA血管炎(以前はヘノッホ-シェーンライン紫斑病と呼ばれた)は主に小型の血管を侵す血管炎である。小児に最も多く生じる。一般的な症状としては,触知可能な紫斑,関節痛,消化管の症候,糸球体腎炎などがある。小児では診断を臨床的に行うが,成人では通常は生検が必要である。通常,小児では自然治癒し,成人では慢性化する。コルチコステロイドで関節痛および消化管症状を低減できるが,疾患の経過が変わることはない。進行性糸球体腎炎は,高用量コルチコステロイ... さらに読む IgA血管炎(IgAV) [ヘノッホ-シェーンライン紫斑病]);間欠性の陰嚢腫瘤,鼠径部腫脹,またはその両方(鼠径ヘルニア);発熱および耳下腺腫脹(ムンプス精巣炎);側腹部痛または血尿(腎結石 尿路結石 尿路結石とは,泌尿器系内に存在する固形の粒子のことである。結石は疼痛,悪心,嘔吐,および血尿を引き起こすことがあるほか,続発性の感染から悪寒および発熱がみられることもある。診断は尿検査および放射線学的検査のほか,通常は単純ヘリカルCTに基づく。治療は鎮痛薬,感染に対する抗菌薬療法,および薬剤による排石促進療法のほか,ときに衝撃波砕石術また... さらに読む )などが挙げられる。

身体診察

身体診察はバイタルサインの評価と疼痛の重症度評価から始める。診察では腹部,鼠径部,および性器に焦点を置く。

腹部を診察して,圧痛および腫瘤(膀胱拡張を含む)がないか確認する。側腹部を打診して,肋骨脊柱角に圧痛がないか確認する。

鼠径部および性器の診察は,立位で行うべきである。鼠径部を視診および触診して,リンパ節腫脹,腫脹,または紅斑がないか確認する。陰茎の診察では,潰瘍,尿道分泌物,ならびにピアスおよび刺青(細菌感染症の発生源)に注意すべきである。陰嚢の診察では,非対称性,腫脹,発赤,変色,および精巣の向きと位置(水平か垂直か,高位か低位か)に注意すべきである。両側で精巣挙筋反射を検査すべきである。精巣,精巣上体,および精索を触診して,腫脹および圧痛がないか確認すべきである。腫脹を認めた場合は,嚢胞性か充実性かを判定する上での参考にするため,透光性の有無を確認すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

所見の解釈

直ちに治療が必要な原因をそれ以外と鑑別することに焦点を置く。臨床所見から重要な手がかりが得られる(陰嚢痛の主な原因 陰嚢痛の主な原因 陰嚢痛の主な原因 の表を参照)。

重度の疼痛の突然の発生は,精巣捻転または 腎結石 尿路結石 尿路結石とは,泌尿器系内に存在する固形の粒子のことである。結石は疼痛,悪心,嘔吐,および血尿を引き起こすことがあるほか,続発性の感染から悪寒および発熱がみられることもある。診断は尿検査および放射線学的検査のほか,通常は単純ヘリカルCTに基づく。治療は鎮痛薬,感染に対する抗菌薬療法,および薬剤による排石促進療法のほか,ときに衝撃波砕石術また... さらに読む を示唆する。精巣上体炎,嵌頓ヘルニア,または 虫垂炎 虫垂炎 虫垂炎は虫垂の急性炎症で,典型的には腹痛,食欲不振,および腹部圧痛を引き起こす。診断は臨床的に行い,しばしばCTまたは超音波検査で補完する。治療は虫垂の外科的切除である。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 米国では,急性虫垂炎は外科手術を要する急性腹痛の最も頻度の高い原因である。一般集団の5%以上がいずれかの時点で虫垂炎を発症する。10~20歳代に最も多く発症するが,あらゆる年齢層で起こりうる。... さらに読む 虫垂炎 に起因する疼痛は,より緩徐に発症する。精巣垂捻転の患者では,中等度の疼痛が数日かけて発生し,疼痛の部位は上極に限局する。両側性の疼痛は感染(例,精巣炎[特に発熱およびウイルス感染症状を伴う場合])もしくは関連痛を引き起こす病態を示唆する。陰嚢に放散する側腹部痛は腎結石または(55歳以上の男性では)腹部大動脈瘤を示唆する。

陰嚢および会陰部の診察での異常所見から,しばしば原因が示唆される。ときに,精巣上体炎の早期には,圧痛および硬結が精巣上体に限局することがあり,また捻転の早期には,精巣が明らかに高位にあって水平方向を向いており,かつ精巣上体には特に圧痛を認めないことがある。一方で,精巣および精巣上体の両方に腫脹と圧痛がみられる場合も多く,また陰嚢浮腫が生じることで,触診では捻転と精巣上体炎を鑑別できなくなることもある。しかしながら,精巣挙筋反射は捻転では認められず,また 性感染症 性感染症の概要 性感染症(sexually transmitted diseas:STD)(sexually transmitted infection[STI]と呼ばれることもある)は,いくつかの微生物によって引き起こされ,それぞれの病原体は大きさ,生活環,引き起こす疾患および症状,ならびに治療法に対する感受性が大きく異なる。... さらに読む (STD)の所見(例,膿性尿道分泌物)も同様であり,これらの所見が両方認められる場合は精巣上体炎である可能性が高い。

ときに,ヘルニアに起因する陰嚢腫瘤を鼠径管で触知できる場合があるが,それ以外の症例では,ヘルニアと精巣腫脹の鑑別が困難になることがある。

血管炎性の発疹,腹痛,および関節痛を認める場合は, IgA血管炎 IgA血管炎(IgAV) IgA血管炎(以前はヘノッホ-シェーンライン紫斑病と呼ばれた)は主に小型の血管を侵す血管炎である。小児に最も多く生じる。一般的な症状としては,触知可能な紫斑,関節痛,消化管の症候,糸球体腎炎などがある。小児では診断を臨床的に行うが,成人では通常は生検が必要である。通常,小児では自然治癒し,成人では慢性化する。コルチコステロイドで関節痛および消化管症状を低減できるが,疾患の経過が変わることはない。進行性糸球体腎炎は,高用量コルチコステロイ... さらに読む IgA血管炎(IgAV) 結節性多発動脈炎 結節性多発動脈炎(PAN) 結節性多発動脈炎は,典型的には中型の筋性動脈およびときに小型の筋性動脈を侵す全身性壊死性血管炎で,組織の二次的虚血を来す。腎臓,皮膚,関節,筋肉,末梢神経,および消化管が侵される頻度が最も高いが,どの臓器も侵される可能性がある。しかし,肺は通常障害を免れる。患者は典型的には全身症状(例,発熱,疲労)を呈する。診断には生検または動脈造影を必要とする。コルチコステロイドおよび免疫抑制薬による治療がしばしば効果的である。... さらに読む などの全身性血管炎症候群の臨床像と一致する。

検査

通常は検査を行う。

  • 尿検査および培養(全ての患者)

  • STD検査(尿検査陽性,分泌物,排尿困難のいずれかを認める全ての患者)

  • 捻転を除外するためのカラードプラ超音波検査(他に明確な原因がない場合)

  • 所見から示唆される原因に応じて,その他の検査(陰嚢痛の主な原因 陰嚢痛の主な原因 陰嚢痛の主な原因 の表を参照)

尿検査および培養は常に必要である。尿路感染症(UTI)の所見(例,膿尿,細菌尿)は精巣上体炎を示唆する。UTIを示唆する所見を認める患者と尿道分泌物または 排尿困難 排尿困難 排尿困難とは,排尿に疼痛または不快感を伴うことであり,典型的には鋭い灼熱感が生じる。一部の疾患では膀胱または会陰部に強い疼痛が生じる。排尿困難は女性では極めて頻度の高い症状であるが,男性にもみられ,年齢を問わず生じる。 排尿困難は膀胱三角部または尿道の刺激によって生じる。尿道の炎症または... さらに読む がある患者には,STDの検査とUTIを引き起こす他の細菌に対する検査を行うべきである。

陰嚢痛の治療

治療は原因に対して行うが,具体的な対応には緊急手術(精巣捻転 精巣捻転 精巣捻転とは,精巣が回転して絞扼が起きる結果,血液供給が遮断されることで生じる,緊急を要する病態である。症状は陰嚢の急性疼痛および腫脹と悪心および嘔吐である。診断は身体診察に基づき,カラードプラ超音波検査により確定される。治療は即時の用手的整復とその後の外科的介入である。 精巣鞘膜および精索の発生異常によって,精巣鞘膜への精巣の固定が不完全になることがある(bell-clapper変形―... さらに読む )から床上安静(精巣垂捻転)のみまで幅がある。精巣捻転が認められる場合は,一般に迅速な手術(受診後12時間以内)が必要となる。手術の遅延は,精巣梗塞,長期の精巣障害,または精巣の喪失につながる可能性がある。精巣の捻転を外科的に解除することで,疼痛は直ちに軽快し,同時に両側精巣固定術を施行することにより,捻転の再発を予防する。

急性疼痛の緩和には,モルヒネやその他のオピオイドなどの鎮痛薬が適応となる。細菌性 精巣上体炎 精巣上体炎 精巣上体炎は精巣上体の炎症で,ときとして精巣の炎症を伴う(精巣精巣上体炎)。陰嚢の疼痛および腫脹が通常は片側性に生じる。診断は身体診察に基づく。治療は抗菌薬,鎮痛薬,および陰嚢サポーターによる。 大半の精巣上体炎(および精巣精巣上体炎)は細菌感染によって引き起こされる。炎症が精管に及べば,精管炎となる。また全ての精索構造が侵されれば,診断は精索炎となる。まれに精巣上体膿瘍,陰嚢の精巣上体外部の膿瘍,膿瘤(陰嚢水腫内での膿の蓄積),精巣梗... さらに読む 精巣上体炎 または 精巣炎 精巣炎 精巣炎は精巣の感染症で,典型的にはムンプスウイルスに起因する。症状は精巣痛および腫脹である。診断は臨床的に行う。治療は対症療法による。細菌感染が同定された場合に限り,抗菌薬を投与する。 単独の精巣炎(すなわち,精巣に限局した感染症)はほぼ常にウイルスに起因し,ほとんどの症例で原因はムンプスである。まれな原因として,先天梅毒,結核,ハンセン病,エコーウイルス感染症,リンパ球性脈絡髄膜炎,コクサッキーウイルス感染症,伝染性単核球症,水痘,B... さらに読む 精巣炎 の症例には抗菌薬が適応となる。

老年医学的重要事項

精巣捻転は高齢男性ではまれであるが,発生すると通常は非典型的な臨床像を呈するため,診断の遅れが生じる。高齢男性では,精巣上体炎,精巣炎,および外傷の方がより頻度が高い。また高齢男性では,ときに 鼠径ヘルニア 腹壁ヘルニア 腹壁ヘルニアは,腹壁の後天的または先天的な脆弱または欠損部位から腹腔内臓器が脱出した状態である。多くのヘルニアは無症状であるが,一部のヘルニアは嵌頓または絞扼状態となり,疼痛を引き起こし,直ちに手術を行う必要がある。診断は臨床的に行う。治療は待機的な外科的修復である。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 腹部ヘルニアは,極めて頻度が高く,特に男性に多くみられ,米国では毎年約70万件の手術が施行されている。... さらに読む 腹壁ヘルニア 結腸穿孔 消化管の急性穿孔 消化管の穿孔はいずれの部位にも生じる可能性があり,胃や腸管の内容物が腹腔内に放出される。原因は様々である。症状は重度の疼痛を伴って突然出現し,その直後にショックの徴候が出現する。診断は通常,画像検査で腹腔内に遊離ガスが認められることで下される。治療は輸液蘇生(fluid resuscitation),抗菌薬,および手術による。死亡率は高く,基礎疾患および患者の全体的な健康状態によって異なる。... さらに読む 消化管の急性穿孔 ,または腎仙痛によって陰嚢痛が生じることがある。

陰嚢痛の要点

  • 急性陰嚢痛を呈する患者(特に小児および青年)では,常に精巣捻転を考慮する;迅速かつ正確な診断が不可欠である。

  • その他に頻度の高い陰嚢痛の原因は,精巣垂捻転および精巣上体炎である。

  • 診断が不確かな場合には,通常はカラードプラ超音波検査を施行する。

  • 陰嚢および会陰部の診察所見が正常な場合は,関連痛が示唆される。

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