メルクマニュアル18版 日本語版
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女性の生殖内分泌学

視床下部,下垂体前葉,卵巣間でのホルモンの伝達により,女性の生殖系は調節されている。視床下部は,黄体形成ホルモン放出ホルモンとしても知られるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)という小ペプチドを分泌する;GnRHは,下垂体前葉内の特異的細胞(ゴナドトロピン産生細胞)からのゴナドトロピン(黄体形成ホルモン[LH]および卵胞刺激ホルモン[FSH])の放出を調整する(女性の生殖内分泌学: 中枢-視床下部-下垂体-性腺-標的器官軸。図 1: イラストおよび内分泌学の原則: 黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)を参照 )。このようなホルモンは短いバースト(パルス)で1〜4時間毎に放出される。LHおよびFSHは排卵を促進し,卵巣からの性ホルモン,エストラジオール(エストロゲンの一種)とプロゲステロンの分泌を刺激する。

図 1

中枢-視床下部-下垂体-性腺-標的器官軸。

中枢-視床下部-下垂体-性腺-標的器官軸。

卵巣ホルモンは,他の組織(例,骨,皮膚,筋肉)に直接的および間接的な作用を及ぼす。FSH= 卵胞刺激ホルモン,GnRH= ゴナドトロピン放出ホルモン,LH= 黄体形成ホルモン。

エストロゲンおよびプロゲステロンはほとんど全て,血漿蛋白に結合した状態で血流中を循環する。 結合していないエストロゲンとプロゲステロンのみ,生理活性をもつようである。両者とも標的器官である生殖系(例,乳房,子宮,腟)を刺激する。これらは通常ゴナドトロピン分泌を抑制するが,特定の状況下(例,排卵前後)では促進することがある。

思春期

思春期は,小児が成人の身体的特徴と生殖能力を獲得する一連の事象である。LHとFSHの循環レベルは出生時に上昇しているが,数カ月以内に低レベルに落ち,思春期前まで低いレベルにとどまる。思春期まで,生殖系の標的器官に質的変化はほとんど起こらない。

主に健康状態および栄養状態が改善されたため,ここ150年にわたって思春期の始まる年齢が低下してきたが,この傾向に歯止めがかかってきている。思春期は,中等度の肥満女児では平均より早く始まり,極度の低体重や栄養不良の女児では遅れることが多い。このような観察結果から,思春期には体重が重要な要素と考えられる。思春期は,母親が性的に早熟であった女児,原因不明だが都市部に住む女児や盲目の女児では早く始まる。

思春期の身体的変化は青年期に連続的に起こる(女性の生殖内分泌学: 思春期-女性の性徴が進む時期。図 2: イラスト参照)。乳房発育の開始(女性の生殖内分泌学: ヒトの乳房成熟に関するタナー段階(Ⅰ〜Ⅴ)の模式図。図 3: イラスト参照)と急速な身体発育の開始が,通常最初に認められる変化である。その後,陰毛と腋毛が生じ(女性の生殖内分泌学: 女児の陰毛発達に関するタナー段階(Ⅰ〜Ⅴ)の模式図。図 4: イラスト参照),急速な身体発育はピークに達する。初経(初めての月経)は,乳房発育の開始からおよそ2年後に起こる。身長の伸びは思春期初期にピークに達するが,初経後には限られたものとなる。体型が変化する;骨盤および殿部が大きくなる。体脂肪が増加し,殿部および大腿に蓄積する。

図 2

思春期-女性の性徴が進む時期。

思春期-女性の性徴が進む時期。

バーは正常範囲を示す。

図 3

ヒトの乳房成熟に関するタナー段階(Ⅰ〜Ⅴ)の模式図。

ヒトの乳房成熟に関するタナー段階(Ⅰ〜Ⅴ)の模式図。

From Marshall WA, Tanner JM: “Variations in patterns of pubertal changes in girls.” Archives of Disease in Childhood 44:291–303, 1969; used with permission.

図 4

女児の陰毛発達に関するタナー段階(Ⅰ〜Ⅴ)の模式図。

女児の陰毛発達に関するタナー段階(Ⅰ〜Ⅴ)の模式図。

From Marshall WA, Tanner JM: “Variations in patterns of pubertal changes in girls.” Archives of Disease in Childhood 44:291–303, 1969; used with permission.

思春期が始まる機序はよく分かっていない。中枢性作用により,小児期にはGnRHの放出が阻害されているが,その後青年期初期に放出が開始されて思春期を誘発すると考えられる。思春期初期に,視床下部からのGnRHの放出は,エストロゲンおよびプロゲステロンによる抑制に対して感受性が低くなる。その結果GnRHの放出が増加して,性ホルモン(主にエストロゲン)の産生を刺激するLHおよびFSHの分泌が促進される。エストロゲンは第二次性徴の発達を刺激する。陰毛および腋毛の成長は,副腎アンドロゲンのデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)およびDHEAサルフェートによって刺激を受けると思われる;このようなアンドロゲン産生は,思春期前の数年間,アドレナルケ(副腎皮質性思春期徴候)と呼ばれる過程で増加する。

卵胞の成長

女性がもつ卵子前駆細胞(生殖細胞)の数は,生来決まっている。生殖細胞は,在胎4カ月までの間に原始卵原細胞として有糸分裂により著明に増殖し始める。在胎3カ月目の間には,一部の卵原細胞が減数分裂(染色体数が1/2に減少する)を始める。7カ月までに,発育可能な全生殖細胞が周囲に一層の顆粒膜細胞を発達させ,原始卵胞を形成し,減数分裂前期で停止する;これらの細胞が一次卵母細胞である。在胎4カ月が過ぎてから,卵原細胞(およびその後の卵母細胞)は閉鎖と呼ばれる過程で自然消失する;最終的には99.9%が消失する。母親が高齢であると,残存する卵母細胞が減数分裂前期でとどまっている期間が長くなり,遺伝的に異常な妊娠の発生率が高くなる原因となりうる。

各月経周期の間に,3〜30個の一群の卵胞が急速に成長する。通常は各周期で,1個の卵胞だけが選択されて排卵が起こる。この主席卵胞は排卵時に卵母細胞を放出し,他に成長していた卵胞の閉鎖を促進する。

月経周期

月経は,血液および脱落した子宮内膜(月経血または経血と総称される)の腟からの周期的排出である;女性の生殖期間を通して妊娠していない場合に起きる。閉経は永久的な月経停止である(閉経を参照 )。

平均的な月経期間は5(±2)日である。毎周期当たりの失血量は平均30mL(13〜80mL)で,通常は2日目が最も多い。生理用ナプキンやタンポンの吸収量は5〜15mLである。通常月経血は凝固しないが(出血がそれほどひどくない限り),これはおそらくフィブリノリジンや他の因子が凝固を抑制するからである。

月経周期の中央値は28日である(およそ25〜36日)。一般的に,排卵が不規則に起こりがちな初経直後や閉経直前の数年間では,月経周期の変動が最大となり間隔も最長となる。月経周期は,月経初日(第1日)から次の月経初日までをいう。

月経周期は,卵胞期(排卵前),排卵期,黄体期(排卵後)に分けられる(女性の生殖内分泌学: 正常な月経周期に生じる,下垂体ゴナドトロピン,エストラジオール(E2),プロゲステロン(P)および子宮内膜の理想的な周期的変化。図 5: イラスト参照)。

図 5

正常な月経周期に生じる,下垂体ゴナドトロピン,エストラジオール(E2),プロゲステロン(P)および子宮内膜の理想的な周期的変化。

正常な月経周期に生じる,下垂体ゴナドトロピン,エストラジオール(E2),プロゲステロン(P)および子宮内膜の理想的な周期的変化。

月経出血のある日はMで示した。FSH=卵胞刺激ホルモン,LH=黄体形成ホルモン。

(Adapted from Rebar RW: “Normal physiology of the reproductive system.” In Endocrinology and Metabolism Continuing Education Program, American Association of Clinical Chemistry, November 1982. Copyright 1982 by the American Association for Clinical Chemistry; reprinted with permission.)

卵胞期: 卵胞期の長さは他の2つの周期よりばらつきがある。卵胞期の前半(卵胞期初期)における,主たる事象は一群の卵胞の成長である。この時点では,下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞はLHおよびFSHをほとんど含有せず,エストロゲンおよびプロゲステロンの産生量は少ない。その結果,総体的なFSH分泌がわずかに増加し,一群の卵胞の成長を刺激する。さらに,循環血中のLHレベルが,FSH増加の1〜2日後から徐々に増加する。一群の卵胞はやがてエストラジオールの産生を増加させる;エストラジオールはLHおよびFSHの合成を刺激するが,分泌は抑制する。

卵胞期の後半では(卵胞期後期),排卵のために選ばれた卵胞が成熟してホルモン分泌性の顆粒膜細胞を蓄積する;卵胞腔が卵胞液により増大し,排卵前には18〜20mmに達する。FSHレベルが下がる;LHレベルへの影響は少ない。FSHおよびLHレベルに相違がある理由の1つは,エストラジオールがLH分泌よりもFSH分泌を抑制するためである。さらに,発育した卵胞がインヒビンを産生するが,これはFSH分泌を抑制するがLH分泌は抑制しない。他の要因として,半減期の違い(LHは20〜30分;FSHは2〜3時間),および未解明の因子があると考えられる。エストロゲン(特にエストラジオール)レベルが急激に上昇する。

排卵期: 排卵(卵子の放出)が起こる。エストラジオールのレベルは通常排卵期が始まるときにピークを迎える。プロゲステロンのレベルも上昇し始める。貯蔵されていたLHが,通常36〜48時間にわたって大量に放出され(LHサージ),FSHはわずかに上昇する。LHサージがこのとき起こるのは,多量のエストラジオールがゴナドトロピン産生細胞によるLH分泌を惹起する(正のフィードバック)ためである。LHサージはまた,GnRHおよびプロゲステロンによって刺激を受ける。LHサージの間,エストラジオールのレベルは低下するが,プロゲステロンのレベルは上昇し続ける。LHサージにより約16〜32時間以内に,卵胞壁の崩壊と成熟した卵子の放出を生じさせる酵素が活性化される。さらにLHサージがきっかけとなり,卵母細胞の第一減数分裂が約36時間以内に完了する。

黄体期: 卵胞は黄体へと変化する。黄体期の長さは最も変動が少なく,平均で14日であり,その後黄体は退縮する。黄体は主にプロゲステロンを漸増的に分泌し,その分泌量は排卵の6〜8日後にピーク(約25mg/日)に達する。プロゲステロンは,胚の着床に必要な分泌期子宮内膜の発達を促す。プロゲステロンは体温上昇作用をもっているため,黄体期では基礎体温が0.5°C上昇する。黄体期のほぼ全体を通じてエストラジオール,プロゲステロンおよびインヒビンの血中レベルが高いため,LHおよびFSHのレベルは低下する。エストラジオールおよびプロゲステロンのレベルは,黄体期後期に低下する。

着床が起これば,黄体は退縮せずに存続し,発育する胚によって産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピンによって維持される。

その他の生殖器官における周期的変化

子宮内膜: 腺と間質からなる子宮内膜は,基底層,中間の海綿層および子宮腔を裏打ちする緻密な上皮細胞層をもつ。海綿層および上皮細胞層は月経中に脱落し,厚さ約2mmとなった子宮内膜には,密な間質と,低円柱状上皮で裏打ちされた細くまっすぐな腺が残される。エストラジオールのレベルが上昇するに従って,残存する基底層は子宮内膜を再生し,卵胞期後期には内膜の厚さが最大11mmとなる。粘膜は厚くなり,管状腺は長く伸びてらせん状となる。黄体期には,プロゲステロンの刺激により管状腺は拡張し,グリコーゲンが充満し分泌を起こすようになるが,間質では血管新生が促進される。黄体期後期には,エストラジオールおよびプロゲステロンのレベルが低下するため,間質は浮腫状となり,子宮内膜およびその血管が壊死を起こし,出血して月経に至る。

子宮内膜の組織学的変化が月経周期中の周期によって特異的なものであるため,周期や性ホルモンに対する内膜組織の反応は,子宮内膜生検によって正確に決定できる。子宮内膜は経腟式超音波検査を用いて観察できる;卵胞期後期には,特徴的な三層パターン,高エコーの基底層と管腔層,およびその中間の低エコー層をもつ。排卵後,子宮内膜は均質なエコー輝度を示す。

子宮頸部: 卵胞期には,エストラジオールレベルの上昇により,頸部の血管分布,浮腫,頸管粘液量,弾性およびNaCl濃度が増加する。外子宮口はわずかに開き,排卵時には粘液で満たされる。黄体期には,プロゲステロンレベルの上昇により,頸管粘液は濃くなり,伸びが悪くなる。月経周期が,スライドガラス上で頸管粘液を乾燥させて行う顕微鏡検査により明らかになることがある;シダ状結晶形成(粘液のシュロの葉状の分岐)は,頸管粘液中のNaCl量の増加を示す。シダ状結晶形成は,エストロゲンレベルが高い排卵直前に際立ち,黄体期にはごくわずかになるか全く見られなくなる。

腟: 卵胞期初期で,エストラジオールのレベルが低いときには,腟上皮は薄く蒼白である。卵胞期後期に,エストラジオールレベルが上昇するにつれて,扁平上皮細胞が成熟して角化し,腟上皮は厚くなる。黄体期には,角化前の中間細胞の数が増加し,成熟した扁平上皮細胞が脱落するにつれて白血球の数や細胞残骸の量が増加する。腟上皮の変化を組織学的に定量化し,エストロゲン活性の定量的指標として用いうる。

最終改訂月 2007年3月

最終更新月 2005年11月

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