メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

子宮内膜症

子宮内膜症は,機能性の子宮内膜組織が子宮腔外に播種される非癌性疾患である。症状は播種の部位によって異なり,月経困難,性交疼痛,不妊,排尿障害,および排便時の痛みなどがある。診断は生検(通常は腹腔鏡による)により行う。治療には,抗炎症薬,卵巣機能および子宮内膜組織増殖を抑制する薬物,子宮内膜播種組織の外科的焼灼および切除,重度の疾患に対する(妊娠が計画されていない場合)子宮摘出と卵巣摘出がある。

子宮内膜症は腹膜や腹腔臓器の漿膜表面に通常限局し,一般的には卵巣,子宮広間膜,ダグラス窩,子宮仙骨靭帯に生じる。頻度は少ないが,小腸や大腸の漿膜表面,尿管,膀胱,腟,子宮頸部,手術創,胸膜,心膜でも発生する。腹腔内播種組織からの出血が炎症反応をもたらし,その後,フィブリン沈着と癒着形成が生じて,最終的に瘢痕化(臓器の腹膜面および骨盤内構造を歪める)が起こると考えられている。

病因と病態生理

最も広く受け入れられている仮説は,子宮内膜細胞が子宮腔から運ばれ,異所へ播種されるというものである。月経により剥離した子宮内膜組織は,卵管を通って逆流し,腹腔内に子宮内膜細胞を運びうる;リンパ系や循環系によって遠隔部位(例,胸膜腔)へ子宮内膜細胞が運ばれる可能性もある。また別の仮説は体腔上皮化生である:体腔上皮が子宮内膜様の腺へと変化する。

顕微鏡的に,子宮内膜症の播種組織は子宮内内膜と同質の腺と間質からなる。これらの組織には, エストロゲン およびプロゲステロン受容体が含まれているため,通常,月経周期に伴うホルモンレベルの変化に対応して増殖,分化,および出血を起こす。

子宮内膜症の発生率は,子宮内膜症女性の第1度近親者において高く,このことは遺伝がある種の要因となっていることを示唆している。 発生率はまた,出産を遅らせる女性,月経の周期が短く(27日未満)月経が異常に長い(9日以上)女性,またはミュラー管異常のある女性において高い。

報告されている発生率には幅があるが,月経が活発に起こる25〜44歳の女性のうちおそらく約10〜15%にみられる。診断時の平均年齢は27歳であるが,子宮内膜症は思春期の女児でも起こる。不妊症女性の約25〜50%に子宮内膜症がみられる。重度の子宮内膜症で骨盤内構造に歪みのある患者では,卵の取り込みと卵管内輸送の機構が障害されるため,不妊症の発生率が高くなる。微症子宮内膜症で骨盤内構造が正常な患者であっても,不妊症となる場合がある。これらの患者で妊孕性は低下することがあるが,それは,黄体期不全や黄体化未破裂卵胞症候群(卵母細胞が捕捉される)の発生率上昇,腹膜におけるプロスタグランジン産生や腹腔マクロファージ活性の増大(結果的に食作用を引き起こす),または子宮内膜の非受容性による。

予防因子として,複数の妊娠歴,低用量経口避妊薬の使用(持続的または周期的),定期的な運動(特に,15歳以前に開始していた場合や週に7時間以上行っている場合,またはこれら両方の場合)が考えられる。

症状と徴候

骨盤内痛,骨盤内腫瘤,月経の変化,および不妊が典型的にみられる。広範囲に子宮内膜症のある女性でも無症状のことがある;疾患が微症でも耐え難い痛みを伴うことがある。性交疼痛および月経前や月経中の正中線上の骨盤内痛が,特に数年間無痛の月経があった後に,起こることがある。こういった月経困難症は,重要な診断の手掛かりとなる。

大腸の播種組織は,排便時の痛み,腹部膨満,または月経時の直腸出血を引き起こす場合がある;膀胱中の播種組織は,排尿時の排尿困難,血尿,恥骨上部痛,またはこれらの併発を引き起こす場合がある。卵巣の播種組織は,2〜10cmの卵巣に限局した嚢胞性腫瘤(子宮内膜腫)を形成することがある;付属器の播種組織は付属器の癒着を引き起こし,骨盤内腫瘤を形成しうる。ときに,子宮内膜腫の破裂または漏れにより,急性の腹痛および腹膜症状が起こる。骨盤外の子宮内膜症は漠然とした腹痛を引き起こしうる。

内診では正常なことがあるが,まれに,外陰部や頸部,腟,臍,手術創に病変がみられる。所見として,後傾して固定された子宮,卵巣の腫脹,固定された卵巣腫瘤,肥厚した直腸腟中隔,ダグラス窩の硬結,あるいは子宮仙骨靱帯の結節がみられる場合がある。

診断

診断は典型的な症状に基づき疑われるが,生検(通常は骨盤内腹腔鏡による,ときに開腹,腟内診,S状結腸鏡,または膀胱鏡による)によって確定すべきである。子宮内膜症の診断には,子宮内膜の腺および間質の両方の存在が不可欠である。播種組織の肉眼的外観(例,透明,赤,褐色,黒)や大きさは,月経周期の間に変化する;しかしながら,典型的には,骨盤腹膜の子宮内膜症部位に5mmを超える赤,青,または紫褐色の点状斑点がみられ,しばしば散布状黒斑病変と呼ばれる。

他の手法(例,超音波検査,バリウム注腸,静注尿路造影,CT,MRI)は,子宮内膜症の範囲を確認したり,疾患をモニタリングするのに役立ちうるが,診断には特異的でなく適切でない。子宮内膜症に対する血清検査マーカー(例,血清CA125[ > 35U/mL],抗子宮内膜抗体)は,疾患を監視する手助けになることもあるが,ルーチンに使用されるまでにはさらなる改良を要する。他の不妊症に対する検査が適応となる場合がある(不妊症を参照 )。

この疾患を病期分類することは,医師が治療計画を練り,治療への反応を評価するのに有用である。米国生殖医学会(American Society for Reproductive Medicine)によると,子宮内膜症は,播種組織の数,部位,深さおよびフィルム様または強固な癒着の存在に基づき,第Ⅰ期(微症),第Ⅱ期(軽症),第Ⅲ期(中等症),第Ⅳ期(重症)と分類される( 子宮内膜症: 子宮内膜症の病期表 1: 表参照)。これとは別に主として骨盤内痛に基づいた病期分類法もある。しかしながら,病期分類法に関して,観察者内および観察者間での変動が高いことから,より信頼できる病期分類法が探索されている。

表 1

子宮内膜症の病期

病期

疾患の程度

説明

微症

浅層にわずかな播種組織

軽症

やや深い層にさらに多くの播種組織

中等症

深層に多くの播種組織,一側または両側の卵巣における小さな子宮内膜腫,およびいくつかのフィルム様の癒着

重症

深層に多くの播種組織,一側または両側の卵巣における大きな子宮内膜腫,および多くの強固な癒着,ときに子宮後部に直腸癒着がみられる

治療

対症療法をNSAIDで開始する。さらなる決定的な治療法は,患者の年齢,症状,妊孕性温存の希望の有無,および疾患の程度に基づき個別に決めなければならない。選択肢としては,卵巣機能および子宮内膜播種組織の増殖と活性を抑制する薬物,可能な限り多くの子宮内膜組織に対する保存的外科手術,および保存的手術と薬物の併用がある。重症である場合,または患者が閉経間近であるか,閉経を迎えている場合には,両側卵管卵巣摘出術を伴う腹式子宮摘出術を施行する。薬物による治療や保存的手術は対症療法であり,卵巣機能が永久的かつ全面的に排除されない限り,大部分の患者で治療を止めると子宮内膜症が再発する。

卵巣機能および子宮内膜組織の増殖を抑制する薬物としては,連日投与の経口避妊薬(一般的に使用される),ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作用薬,およびダナゾールがある( 子宮内膜症: 子宮内膜症の治療に使用される薬剤表 2: 表参照)。GnRH作用薬は エストロゲン 産生を一時的に抑制する;しかしながら,長期的に使用すると骨塩減少を引き起こしうるため,治療は6カ月間までとする。治療が4〜6カ月以上続く場合には,add-back療法(通常は低用量経口避妊薬の連日投与)を行う。ダナゾールは,合成アンドロゲンかつ抗ゴナドトロピン薬であり,排卵を阻害する。しかしながら,アンドロゲン性の副作用により使用は制限される。ダナゾールやGnRH作用薬の後に経口避妊薬を周期的または持続的に投与すると,疾患の進行を遅らせることができ,妊娠を遅らせたい女性に妥当であろう。薬物治療後の妊娠率については,40〜60%の幅がある。微症あるいは軽症の子宮内膜症を治療して,妊娠率が改善されるかどうかは明らかではない。

表 2

子宮内膜症の治療に使用される薬剤

分類

薬剤

用量

副作用

エストロゲン/プロゲスチン混合型経口避妊薬

エチニルエストラジオール30-35μg+プロゲスチン

1錠,1日1回,4〜6カ月間

腹部膨満,乳房圧痛,食欲亢進,浮腫,悪心,突発的出血,深部静脈血栓症

プロゲスチン

酢酸メドロキシプロゲステロン

20-30mg,経口,1日1回,6カ月間,次に100mg,筋注,2週間毎,2カ月間,その後200mg,筋注,1回/月,4カ月間

突発的出血,情緒不安定,抑うつ,萎縮性腟炎

アンドロゲン

ダナゾール

100-400mg,経口,1日2回,3〜6カ月

体重増加,ざ瘡,声低音化,男性型多毛症,のぼせ,萎縮性腟炎,浮腫,筋痙直,突発的出血,乳房サイズ縮小,情緒不安定,肝機能障害,手根管症候群,脂質値への副作用

GnRH作用薬

ロイプロリド

ロイプロリドデポー剤

ナファレリン

1mg,皮下,1日1回

3.75mg,筋注,28日毎または

11.25mg,筋注,3カ月毎,6カ月を超えない

200-400 μg,鼻腔内,1日2回

のぼせ,萎縮性腟炎,骨脱灰,情緒不安定

GnRH = ゴナドトロピン放出ホルモン。

中等症〜重症の症例では,妊孕性を保持しつつ可能な限り多くの播種組織を焼灼したり,切除したりする治療が最も効果的である。手術の適応となるのは,子宮内膜腫,顕著な骨盤腔内の癒着,卵管の閉塞,耐え難い骨盤内痛,および妊孕性温存の希望である。マイクロサージェリー手技を使用して癒着を防ぐ。腹腔鏡を使用し,病変を切除する場合がある;腹膜または卵巣の病変を電気焼灼したり,レーザーで蒸散または切除したりすることがある。この治療後の妊娠率は40〜70%で,子宮内膜症の重症度に逆比例する。切除が不完全な場合,経口避妊薬またはGnRH作用薬を使用することにより,妊娠率が向上することがある。電気焼灼やレーザーによる子宮仙骨靭帯の腹腔鏡下切除術が,正中線上の骨盤内痛を軽減する場合がある。仙骨前神経切断が必要な患者もいる。

子宮摘出術は,難治性の骨盤内痛があり出産を終えた患者にのみ施行すべきである。子宮および両卵巣を摘出したら術後にエストロゲンを開始してよいが,大量の子宮内膜組織が残っている場合には,4〜6カ月投与開始を遅らせる場合がある;その期間中に,抑制薬を必要とすることがある。エストロゲンを単独で投与すると残存組織が増殖し,過形成や癌が発症する恐れがあるため,プロゲスチンの連日投与(例,酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mg,経口,1日1回)をエストロゲンと併用すべきである。

最終改訂月 2007年5月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ
イラスト
個人情報の取扱いご利用条件