メルクマニュアル18版 日本語版
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卵巣癌

卵巣癌は通常,診断時には進行しているため,致死的となることが多い。通常症状は早期にはなく,進行期にも非特異的である。検査として通常,超音波検査,CTまたはMRI,および腫瘍マーカー(例,癌抗原125)の測定を行う。診断は組織学的に行う。病期分類は外科的に行う。治療として,子宮摘出術,両側卵管卵巣摘出術,可及的な浸潤病変の切除が必要であり,癌が限局性である場合を除き,化学療法が必要である。

米国において,卵巣癌は2番目に多い婦人科癌であり(約70人に1人が罹患),最も死亡率が高い(全女性の1%が卵巣癌で死亡);女性の癌関連死の原因としては5番目である。発生率は先進国で高い。

病因と病理

卵巣癌は主に閉経期と閉経後の女性に生じる。未経産,高齢での出産,および閉経の遅れによりリスクが高まる。経口避妊薬の使用によりリスクは低下する。

子宮内膜癌,乳癌,もしくは結腸癌の個人歴または家族歴があるとリスクが高まる。卵巣癌症例のおそらく5〜10%は,常染色体優性BRCA遺伝子における突然変異に関連している。XY性腺形成異常は卵巣胚細胞癌の素因となる。

卵巣癌は組織学的に多様である。少なくとも80%は上皮に由来する;これら癌の75%は漿液性嚢胞腺癌であり,残りには,粘液癌,類内膜癌,移行上皮癌,明細胞癌,分類不能の癌,ブレンナー腫瘍などが含まれる。卵巣癌の残りの20%は,主に卵巣胚細胞や性索-間質細胞に由来するか,卵巣への転移である(最も一般的には,乳房や消化管からの転移)。胚細胞腫瘍は通常30歳未満の女性で生じ,未分化胚細胞腫,未熟型奇形腫,内胚葉洞腫瘍,胎児性癌,絨毛癌,多胎芽腫などがある。間質(性索-間質)癌には,顆粒膜-莢膜細胞腫とセルトリ-ライディッヒ細胞腫がある。

卵巣癌は,直接進展,腹腔への細胞脱落(腹膜への播種),骨盤と大動脈周辺へのリンパ行性播種,またそれほど多くないが肝や肺へ血行性によって拡散する。

症状と徴候

早期癌は通常無症状である;付属器の腫瘤(しばしば充実性,不整形,固着している)が偶発的に発見されることがある。内診および直腸腟診で,広範性の小結節形成が発見される。少数の患者では,卵巣腫瘤の捻転に続発して重度の腹痛が生じる(良性婦人科病変: 付属器の捻転を参照 )。進行癌の患者では非特異的な症状(例,消化不良,鼓腸,早期満腹感,ガス痛,背部痛)が現れることが多い。末期には,卵巣腫大や腹水により骨盤痛,貧血,悪液質,腹部膨隆が生じる。胚細胞腫瘍や間質腫瘍は,機能的影響を及ぼすことがある(例,甲状腺機能亢進,女性化,男性化)。

診断

卵巣癌は,原因不明の付属器の腫瘤,原因不明の腹部膨満,排便習慣の変化,意志的でない体重減少,または腹痛のある女性で疑われる。卵巣腫瘤は高齢な女性ほど癌である可能性が高い。良性の機能性嚢胞(良性婦人科病変: 良性卵巣腫瘤を参照 )は,若年女性では機能性の胚細胞腫瘍や間質腫瘍と似ていることがある。

癌が疑われる場合には,最初に超音波検査を実施する;癌を示唆する所見としては,充実成分,表面の突出物,大きさが6cm以上,不整形,および経腟ドプラ血流検査における低い血管抵抗などがある。腹水を伴う骨盤内腫瘤は卵巣癌を示唆するが,meigs症候群(腹水と右胸水を伴う良性の線維腫)でも認めることがある。CTやMRIは,手術前に癌の拡がりを決定するのに実施される。ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(β-hCG),LDH,αフェトプロテイン,インヒビン,および癌抗原(CA)125などの腫瘍マーカーも測定する。CA 125は進行性上皮性卵巣癌の80%で上昇するが,子宮内膜症,骨盤内炎症性疾患,妊娠,子宮筋腫,腹膜炎,または非卵巣性腹膜癌などでも軽度に上昇することがある。閉経後女性における,充実性と嚢胞性が混合した骨盤内腫瘤で,特にCA 125の上昇がある場合には卵巣癌が疑われる。付属器腫瘤の組織学的分析は,それらが良性と思われる場合を除き必須である。良性に見える腫瘤には,良性の嚢胞性奇形腫(類皮嚢胞),卵胞嚢胞,または子宮内膜腫がある。良性に見える腫瘤については再度の超音波検査を6週間後に行う。手術が適応とならない場合には,腫瘤に関しては針生検,腹水に関しては針吸引により検体を採取する。

病期分類: 疑わしい卵巣癌や確定された卵巣癌には,外科的に病期分類を行う( 婦人科腫瘍: 卵巣癌の外科的病期分類*表 1: 表参照)。上腹部へ十分に到達可能な腹部正中切開が必要である。全ての腹膜面,横隔膜,腹部および骨盤内臓器を視診し,触診する。骨盤内,腹部腹腔内,横隔膜洞からの洗浄物を採取し,中央と外側の骨盤部および腹部の腹膜について多数の生検を行う。早期癌については,大網部分切除術を行い,骨盤部と傍大動脈のリンパ節を生検とする。

表 1

卵巣癌の外科的病期分類*

病期

説明

卵巣に限局した腫瘍

ⅠA

片側の卵巣に限局した腫瘍;外表面に腫瘍はなく,被膜は変化せず

ⅠB

両側の卵巣に限局した腫瘍;外表面に腫瘍はなく,被膜は変化なし

ⅠC

ⅠA期かⅠB期であるが,片側または両側の卵巣表面に腫瘍がある,被膜が破綻している,または腹水や腹腔洗浄液に悪性細胞が含まれる†

片側または両側の卵巣に拡がる腫瘍で,骨盤内への進展や転移を伴う

ⅡA

子宮か卵管,または両方への進展および/または転移

ⅡB

他の骨盤内組織への進展

ⅡC

ⅡA期かⅡB期であるが,片側または両側の卵巣表面に腫瘍がある,被膜が破綻している,または腹水や腹腔洗浄液に悪性細胞が含まれる†

組織学的に確認された骨盤外の腹膜播種性転移,肝表面への転移,後腹膜リンパ節または鼠径リンパ節陽性,または真骨盤に限局する腫瘍であるが組織学的に確認された小腸や大網への進展を伴う

ⅢA

真骨盤に限局する肉眼的腫瘍で,リンパ節は陰性であるが,骨盤外に組織学的に確認された顕微鏡的腫瘍を伴う

ⅢB

骨盤外に進展した,直径<2cmの組織学的に確認された腹部の腹膜播種性転移で,リンパ節陰性である

ⅢC

骨盤外に進展した直径>2cmの腹膜播種性転移で,後腹膜リンパ節か鼠径リンパ節,あるいは両者が陽性である

肝実質転移などの遠隔転移;胸水でⅣ期を示すためには,細胞学的検査で陽性でなければならない

*国際産婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics[FIGO])および対癌米国合同委員会(American Joint Committee on Cancer[AJCC]),1999,2002により定められた病期に基づく。

†ⅠC期およびⅡC期では,被膜破裂は自然発生的なものであったか,または外科医によって引き起こされたものであったか,悪性細胞が腹水に含まれるのか,腹腔洗浄液に含まれるのかを知ることは,予後の決定に有用である。

癌は組織学的にも1(侵襲性が最も低い)〜3(侵襲性が最も高い)に分類される。

超音波検査や血清中CA 125測定値により無症状の女性をスクリーニングすることで,一部の卵巣癌症例を検出できるが,高リスクのサブグループにおいてさえ,予後を改善するとは証明されていない。

予後と治療

治療を行った場合の5年生存率は,Ⅰ期では70〜100%,Ⅱ期では50〜70%,Ⅲ期では15〜35%,Ⅳ期では10〜20%である。腫瘍の組織学的分化度が低いとき,または手術で明らかに浸潤している組織を全て切除できないとき,予後は不良となる;浸潤組織が直径1cm未満にまで減少できると,予後は最良となる。Ⅲ期およびⅣ期では,再発率は約70%である。

通常子宮摘出と両側の卵管卵巣摘出が適応となる。例外には,若年患者における非上皮性癌やlow gradeの片側性上皮性癌がある;罹患していない卵巣および子宮を温存することにより,妊孕性が保持できる。可能であれば,明らかに浸潤している組織は全て切除する。完全に切除できない場合には,可能な限り切除すること(腫瘍縮小手術)により他の治療法の有効性が向上する。腫瘍縮小手術としては通常大網部分切除術を行い,ときに直腸S字結腸の切除(通常は一次再吻合を伴う),根治的腹膜剥離,横隔膜切除,または脾摘出を併せて行う。

IA期またはIB期/グレード1の上皮性腺癌では,術後療法は必要ない。IA期またはIB期/グレード2または3の癌およびⅡ期の癌では,化学療法が6コース必要である(典型的には,パクリタキセルとカルボプラチン)。

Ⅲ期またはⅣ期の癌では同様の化学療法が6コース必要である。骨髄移植を併用する腹腔内化学療法や高用量化学療法が研究されている。放射線療法はあまり行われていない。

臨床的に化学療法が著効しても(すなわち,身体診察が正常,血清CA 125が正常,腹部と骨盤のCTスキャンが陰性),Ⅲ期やⅣ期の癌患者のうち約50%に腫瘍が残存する。CA 125が持続的に上昇している患者のうち,90〜95%に腫瘍残存がある。

癌が再発または進行した症例で,以前化学療法が有効であった場合には,同じ化学療法を再開する。その他の有用な薬物には,トポテカン,リポソーマルドキソルビシン,ドセタキセル,ビノレルビン,ゲムシタビン,ヘキサメチルメラミン,および経口エトポシドなどがある。

悪性胚細胞腫瘍またはⅡ期やⅢ期の肉腫である患者には,通常ブレオマイシン,シスプラチン,エトポシドによる併用化学療法で治療することが多い。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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