メルクマニュアル18版 日本語版
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妊娠中の貧血

妊娠中には正常でも,骨髄の赤血球過形成が起こり,RBC量は増加する。しかしながら,血漿量の不均衡な増加により血液希釈(妊娠水血症)が生じる:Hctは妊娠していない健康な女性の場合38〜45%であるが,単胎妊娠後期では約34%,多胎妊娠後期では30%に減少する。したがって,妊娠中の貧血はHbが10g/dL未満(Hctは30%未満)と定義される。妊娠開始時のHbが11.5g/dL未満であれば妊婦は予防的に治療を受けるが,これは,引き続き起こる血液希釈によって,Hbが通常10g/dL未満まで減少するからである。血液希釈にもかかわらず,O2運搬能力は妊娠期間を通して正常のままである。Hctは正常では出産後速やかに上昇する。

貧血は妊婦の80%にまで生じることがある。最も一般的な原因は,鉄欠乏および葉酸欠乏である。

初期症状は通常存在しないか,または特異的ではない(例,疲労,脱力感,立ちくらみ,軽度の労作性呼吸困難)。他の症状および徴候として蒼白があり,貧血が重度の場合は頻脈または低血圧を伴う。

診断はCBCから始める;通常患者に貧血があれば,二次検査はMCVが低値(79fL未満)または高値(100fLを超える)かどうかに基づいて行われる。小球性貧血に対する評価として,鉄欠乏検査(血清フェリチン測定)および異常ヘモグロビン検査(ヘモグロビン電気泳動を使用)がある。これらの検査で診断がつかず,経験的治療への反応がみられなければ,血液病専門医との相談が通常必要となる。重度の全身症状(例,立ちくらみ,脱力感,疲労)または心肺系の症状や徴候(例,呼吸困難,頻脈,頻呼吸)がある場合,通常は輸血の適応となる;その決定はHct値に基づくものではない。

鉄欠乏性貧血: 妊娠中の貧血症例の約95%は,鉄欠乏(赤血球産生低下による貧血: 鉄欠乏性貧血を参照 )に起因している。原因は通常,不十分な食事摂取(特に10代の少女において),以前の妊娠,または月経血における正常な反復的鉄分喪失(毎月正常に取り込まれる量とほぼ等しいため,鉄貯蔵の蓄積が妨げられる)である。典型例では,Hctは30%以下,MCVは79fL未満となる。血清鉄ならびに血清フェリチンの低下,および血清トランスフェリンレベルの上昇によって診断が確定される。

硫酸鉄325mg 1錠を午前中に服用すると通常効果的である。高用量で頻回の投薬は胃腸の副作用(特に便秘)を増加させ,また1回の投薬が次の投薬の吸収を阻止するために取り込み率は減少する。約20%の妊婦において補充経口鉄剤が十分に吸収されない;そうした者のうち少数で非経口的治療が必要となり,通常デキストラン鉄100mgを隔日に,3週間で合計投与量が1000mg以上となるように筋注する。HctまたはHbを週1回測定して反応を確認する。鉄分補充の効果がみられなければ,葉酸欠乏を疑うべきである。

鉄欠乏性貧血の母親から生まれた新生児は通常正常なHctを示すが,総貯蔵鉄は減少しており早期の食事からの鉄分補充が必要となる。

鉄分補充(通常には,硫酸鉄325mg,経口投与,1日1回)は通常ルーチンに妊婦に行われ,体内の鉄貯蔵量枯渇を予防し,異常出血または以降の妊娠より起こりうる貧血を予防するが,その実施については議論の余地がある。

葉酸欠乏性貧血: 葉酸欠乏(ビタミンの欠乏症,依存症,および中毒症: 葉酸欠乏症および赤血球産生低下による貧血: 巨赤芽球性大球性貧血を参照 )は神経管欠損および,おそらく胎児アルコール症候群のリスクを増大させる。欠乏は妊婦の0.5〜1.5%に生じる;大球性貧血,巨赤芽球性貧血は,欠乏が中等度または重度の場合に起こる。まれに重度の貧血および舌炎が生じる。CBCが大球性の指数や赤血球分布幅(RDW)の大きい貧血を示す場合は,葉酸欠乏が疑われる。血清葉酸レベルの低値によって診断が確定される。治療として,葉酸を1mg,1日2回経口投与する。重度の巨赤芽球性貧血は,入院して骨髄検査およびさらなる治療を行うことが必要となる場合がある。予防として,全ての妊婦に葉酸を0.4mg,1日1回経口投与する。二分脊椎の胎児をもった経験のある妊婦は,受胎前から葉酸を4.0mg,1日1回服用するべきである。

妊娠中の異常ヘモグロビン症

(囲み解説1:溶血による貧血: 異常ヘモグロビン症も参照 囲み解説

妊娠中の異常ヘモグロビン症,特に鎌状赤血球症,HbS-C病,βサラセミア病,およびαサラセミアは,母体および周産期の転帰を悪化させうる(遺伝スクリーニングについては,出生前遺伝カウンセリングおよび評価: 特定の民族集団に対する遺伝学的スクリーニングを参照 表 1: 表)。

既存の鎌状赤血球症は,特に重度の場合,母体感染(ほとんどの場合,肺炎,尿路感染症,および子宮内膜炎),妊娠高血圧,心不全,および肺梗塞のリスクを増大させる。胎児発育遅延,早産,および低出生体重がよくみられる。貧血はほとんどの場合,妊娠が進行するに従ってより重度となる。

妊娠中の鎌状赤血球症の治療は複雑である。疼痛発作は積極的に治療すべきである。Hb Aを60%以上に維持するための予防的交換輸血は,溶血クリーゼおよび肺合併症のリスクを軽減するが,輸血反応,肝炎,HIV伝播,および血液型同種免疫のリスクが増大するためルーチンには推奨されない。治療的輸液療法は,症候性貧血,心不全,重症の細菌感染,および分娩や出産に関する重度の合併症(例,出血,敗血症)に適応となる。

Hb S-C病は妊娠中に初めて症状を呈することがある。この疾患は,ときに骨片塞栓形成を引き起こして肺梗塞のリスクを増大させる。胎児への影響はまれであるが,生じた場合,胎児発育遅延をしばしば伴う。鎌状赤血球βサラセミアはHb S-C病と似ているが,頻度は低く,より良性である。αサラセミアは母体の罹病を引き起こさないが,胎児がホモ接合体の場合,第2,または第3トライメスター早期に水腫および胎児死亡が起こる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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