手術治療を行う疾患の中には,妊娠中の診断が困難なものがある。強く疑ってかかる必要がある;腹部症状が全て妊娠に関連したものであると判断するのは誤りである。
大手術(特に腹腔内)により切迫早産および胎児死亡のリスクが増大する。しかしながら,適切な支持療法および麻酔(血圧と酸素飽和度を正常レベルに維持しながら)が行われれば,妊婦および胎児は十分手術に耐えられるため,医師は手術に対し消極的になるべきではない;外科的緊急事態の治療を遅らせる方がはるかに危険である。
虫垂炎
虫垂炎 虫垂炎 虫垂炎は虫垂の急性炎症で,典型的には腹痛,食欲不振,および腹部圧痛を引き起こす。診断は臨床的に行い,しばしばCTまたは超音波検査で補完する。治療は虫垂の外科的切除である。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 米国では,急性虫垂炎は外科手術を要する急性腹痛の最も頻度の高い原因である。一般集団の5%以上がいずれかの時点で虫垂炎を発症する。10~20歳代に最も多く発症するが,あらゆる年齢層で起こりうる。... さらに読む は妊娠中に起こりうるが,出産直後の方が多い。妊娠の進行に伴って虫垂が腹部を上昇していくため,疼痛および圧痛が右下腹部の古典的位置で起こらないことがあり,さらに疼痛が軽度で,妊娠関連症状に類似する場合がある。 また,妊娠中の白血球数は正常でもある程度上昇するため,妊娠中の白血球数測定の有用性は通常よりさらに低くなる。一連の臨床的評価および段階的圧迫を併用した超音波検査が有用である。
診断がしばしば遅れるため,虫垂破裂による死亡率は,妊娠中,また特に分娩後に上昇する。したがって,虫垂炎が疑われる場合は,直ちに外科的評価(妊娠の段階に応じて腹腔鏡下または開腹下)を行うべきである。
良性卵巣嚢胞
良性卵巣嚢胞は妊娠中によくみられる。妊娠の初めの14~16週の間に生じる嚢胞は 黄体嚢胞 機能性嚢胞 良性卵巣腫瘤には,機能性嚢胞と腫瘍が含まれる;ほとんどは無症状である。治療は患者の生殖に関する状況によって異なる。 機能性嚢胞には以下の2種類がある: 卵胞嚢胞:グラーフ卵胞から生じる。 黄体嚢胞:黄体から生じる。これらは嚢胞内腔に出血し,卵巣被膜を膨張させたり,腹膜腔内に破裂することがある。 大部分の機能性嚢胞は直径1.5cm未満である;5cmを超えるものはほとんどない。機能性嚢胞は通常,数日~数週間で自然に消失する。機能性嚢胞は閉経... さらに読む であることが多く,自然に消失する。 付属器の捻転 付属器の捻転 付属器の捻転とは,卵巣およびときに卵管のねじれであり,動脈の血流を妨げ,虚血を引き起こす。 付属器の捻転はそう多いものではなく,妊娠可能年齢で最も起こりやすい。通常は卵巣の異常を示す。 付属器捻転の危険因子としては以下のものがある: 妊娠 排卵誘発 さらに読む が起こりうる。付属器の捻転が解消しない場合は,付属器のねじれを戻す,または切除するための外科的治療が必要となることがある。妊娠12週以降になると卵巣は子宮とともに骨盤から出て上昇するため,嚢胞の触診は難しくなる。
卵巣腫瘤 良性卵巣腫瘤 良性卵巣腫瘤には,機能性嚢胞と腫瘍が含まれる;ほとんどは無症状である。治療は患者の生殖に関する状況によって異なる。 機能性嚢胞には以下の2種類がある: 卵胞嚢胞:グラーフ卵胞から生じる。 黄体嚢胞:黄体から生じる。これらは嚢胞内腔に出血し,卵巣被膜を膨張させたり,腹膜腔内に破裂することがある。 大部分の機能性嚢胞は直径1.5cm未満である;5cmを超えるものはほとんどない。機能性嚢胞は通常,数日~数週間で自然に消失する。機能性嚢胞は閉経... さらに読む は,初めに超音波検査により評価する。確定的な評価(例,切除)は以下のいずれかが起こらなければ,可能であれば14週以降まで延期する:
嚢胞が持続的に増大する。
嚢胞に圧痛を認める。
嚢胞がX線上のがんの特徴(例,充実性成分,表面の突出物,6cmを超える,不整形)を有する。
胆嚢疾患
胆嚢疾患 胆道機能の概要 肝臓では1日に約500~600mLの胆汁が産生されている。胆汁は血漿と等張の液体で,主な成分は水と電解質であるが,胆汁酸塩やリン脂質(大半がレシチン),コレステロール,ビリルビン,その他の内因性に産生または摂取された化合物(消化管機能を調節するタンパク質や薬物とその代謝物も含む)などの有機化合物も含有する。... さらに読む はときに妊娠中に生じる。可能であれば,治療は待機的に行う;改善しない場合は手術が必要となる。
腸閉塞
妊娠中, 腸閉塞 腸閉塞 腸閉塞は,腸の閉塞を引き起こす病態によって,腸内容の腸管内通過の有意な機械的障害または完全停止が引き起こされた状態である。症状としては痙攣痛,嘔吐,重度で持続性の便秘,放屁の消失などがある。診断は臨床的に行い,腹部X線検査により確定する。治療は,輸液蘇生および経鼻胃管吸引により行い,完全閉塞のほとんどの症例で手術を施行する。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 機械的閉塞は,小腸閉塞(十二指腸を含む)と大腸閉塞に分類される。閉塞は,部分または... さらに読む は腹膜炎を伴う腸管の壊疽,および母体または胎児の罹病あるいは死亡を起こしうる。危険因子(例,腹部手術の既往,腹腔内感染症)を有する妊婦に腸閉塞の症候がみられる場合は,迅速な試験開腹の適応となる。