メルクマニュアル18版 日本語版
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危険因子

危険因子として,母体の既存疾患(妊娠中の合併症を参照 ),身体的および社会的特徴,年齢,以前の妊娠における問題(例,自然流産),妊娠中(妊娠の異常を参照 )や分娩および出産時(分娩および出産時の異常と合併症を参照 )に発症する問題がある。

高血圧: 妊婦は妊娠前に高血圧であったか,または妊娠20週以前に高血圧が発症すれば,慢性高血圧症(CHTN)であると考えられる。CHTNは妊娠20週以降に発症する妊娠高血圧とは区別される。どちらの場合でも,高血圧とは24時間以上の間隔をあけた2回の収縮期血圧が140mmHgを超えるか,または拡張期血圧が90mmHgを超えると定義される。高血圧により子宮胎盤の血流が低下するため,胎児発育遅延のリスクが増大する。CHTNにより子癇前症のリスクは最高50%まで上昇する。コントロール不良の高血圧により胎盤早期剥離のリスクは2〜10%増大する。

高血圧の女性は,妊娠を試みる前に妊娠のリスクについてのカウンセリングを受けるべきである。妊娠した場合はできるだけ早期に妊婦管理を開始し,ベースライン腎機能の計測(例,血清クレアチニン,BUN),眼底検査,直接的な心血管検査(聴診,およびときにECGか心エコー法,または両方による)を行う。各トライメスター毎に,24時間尿蛋白,血清尿酸,血清クレアチニン,およびHctを測定する。胎児の成長をモニタリングする超音波検査を妊娠28週目に行い,その後は数週間毎に実施する。発育遅延は,母体胎児医学の専門医が複数血管へのドプラ検査を行い評価する(妊娠中の高血圧管理については妊娠中の合併症: 診断と治療を参照 )。

糖尿病: 糖尿病は妊娠の3〜5%に生じるが,発生率はおそらく肥満者の割合が増加するにつれ上昇していくだろう。

インスリン依存性糖尿病が既存する妊婦は,腎盂腎炎,ケトアシドーシス,妊娠高血圧,胎児死亡,重大な胎児奇形,巨大児(胎児体重が4.5kgを超える),および胎児発育遅延(血管障害がある場合)のリスクが高い。インスリン必要量は通常妊娠中は増加する。

妊娠性糖尿病の妊婦は,高血圧疾患および巨大児のリスクを伴う。妊娠性糖尿病は,妊娠24〜28週(妊婦に危険因子がある場合には第1トライメスターでも)でルーチンにスクリーニングされる。危険因子には,妊娠性糖尿病の既往,以前の妊娠における巨大児,インスリン非依存性糖尿病の家族歴,原因不明の胎児喪失,および体格指数(BMI)30kg/m2以上がある。50g,1時間のブドウ糖負荷試験が用いられる。この結果が140〜200mg/dLであれば,2時間ブドウ糖負荷試験を行う(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病および耐糖能異常の診断基準を参照 表 2: 表);血糖が200mg/dLを超えるか,または試験結果に異常があれば,患者は残りの妊娠期間中は食事により,および必要であればインスリンにより治療を受ける。

妊娠中に血糖を良好にコントロールすると,糖尿病に起因する有害作用のリスクをほぼ排除できる(妊娠中の糖尿病管理については妊娠中の合併症: 妊娠中を参照 )。

性感染症(STD―性感染症を参照 ): 子宮内における胎児の梅毒は,胎児死亡,先天奇形,および重度の障害を引き起こしうる。子宮内または周産期における妊産婦から児へのHIV感染のリスクは,6カ月以内で30〜50%である(ヒト免疫不全ウイルス: 伝染と疫学を参照 および乳幼児および児童における感染症: 小児におけるヒト免疫不全ウイルス感染症を参照 )。妊娠中の細菌性腟症,淋疾,およびクラミジア感染症は,早期陣痛および前期破水のリスクを増大させる。初回の妊婦検診に行うルーチンの妊婦管理として,これら感染症のスクリーニング検査が含まれている。梅毒検査は,妊娠中(リスクが継続してあれば)および出産時に全ての妊婦に対し反復して行われる。これらの感染症のいずれかに罹患している妊婦には,抗菌薬を投与する。

細菌性腟症,淋疾,またはクラミジア感染症の治療は,破水から出産までの間隔を延長し,胎児炎症を抑制することにより胎児の転帰を改善しうる。ジドブジンまたはネビラピンによるHIV治療は,伝播のリスクを2/3低下させる;おそらく,2,3種類の抗ウイルス薬の併用によってリスクはさらに低くなる(2%未満)(乳幼児および児童における感染症: 予防を参照 )。これらの薬物は,胎児および妊婦に毒性作用を及ぼす可能性があるが,推奨されている。

腎盂腎炎: 腎盂腎炎は,前期破水,早期陣痛,および児の急性呼吸窮迫症候群のリスクを増大させる。腎盂腎炎の妊婦は入院させ,主に尿培養と感受性試験,抗生物質の静注(例,第3世代セファロスポリン系を単独でまたはアミノ配糖体系と併用),解熱薬,および水分補給などにより,評価および治療を行う。腎盂腎炎は,妊娠中における非産科的な入院原因として最も一般的である。解熱して24〜48時間後から原因微生物に特異的な経口抗生物質投与を開始し,抗生物質治療の全過程が7〜10日間になるまで継続する。残る妊娠期間中,定期的に尿培養を行いながら予防的抗生物質(例,ニトロフラントイン,トリメトプリム/スルファメトキサゾール)投与を継続する。

緊急手術に関する問題: 大手術(特に腹腔内)により早期陣痛および胎児死亡のリスクは増大する。また,妊娠の生理的変化により手術を要する腹腔内疾患(例,虫垂炎,胆嚢炎,腸閉塞)の認識が困難となり,しばしば診断が遅れて転帰は悪化する。手術後,抗生物質および子宮収縮抑制薬を12〜24時間投与する。妊娠中に非緊急手術を行う必要がある場合は,第2トライメスター中が最も安全である。

生殖器官の異常: 子宮および頸部の構造的異常(例,中隔子宮,双角子宮)により,胎位異常,子宮収縮機能不全が多く生じ,帝王切開の必要性が高くなる。子宮筋腫は胎盤異常を引き起こし,妊娠中に急速に成長または変性しうる;変性はしばしば重度の疼痛および腹膜刺激徴候を引き起こす。頸管無力症(妊娠の異常: 頸管無力症を参照 )により早産の可能性が高くなる。全層筋腫核出を受けたことのある妊婦において,経腟分娩は子宮破裂を招きうるため避けるべきである。不良な産科転帰につながる子宮の異常では,しばしば外科的修正が必要となるが,妊娠中には行わない。

母体の年齢: 全妊娠の13%を占める10代の若年者は,妊婦管理を軽視する傾向がある。その結果,子癇前症,早期陣痛,および貧血の発生率が高くなり,胎児発育遅延につながることもしばしばである。

35歳以上の妊婦では,子癇前症の発生率が増大するが,妊娠性糖尿病,子宮収縮機能不全,胎盤早期剥離,死産,および前置胎盤も同様である。こうした妊婦にはさらに既存疾患(例,慢性高血圧,糖尿病)のあることが多い。胎児の染色体異常のリスクは母体年齢が上昇するにつれて増加するため,遺伝子検査を考慮すべきである(出生前遺伝カウンセリングおよび評価: 遺伝学的評価を参照 )。

母体の体重: 妊娠前のBMIが19.8kg/m2未満であった妊婦は低体重とみなされ,低出生体重児(2.5kg未満)の素因となる。こうした妊婦には,妊娠中の体重増加を約12.5〜18kgとするよう推奨する。

妊娠前のBMIが29.0kg/m2を超えていた妊婦は体重過多とみなされ,母体の高血圧や糖尿病,過期妊娠,巨大児となり,帝王切開が必要となる可能性が高い。このような妊婦には,妊娠中の体重増加を7kg未満に制限するよう推奨する。

催奇形因子への暴露: 一般的な催奇形因子(胎児の奇形を引き起こす因子)として,感染症,薬物,および物理的因子がある。奇形は,各種器官が形成される受胎後2〜8週の間(最終月経後4〜10週目)に暴露があると,最も生じやすい。他の不良な妊娠転帰も生じやすい。催奇形因子に暴露した妊婦には,リスクの増大についてカウンセリングを受けさせ,奇形を発見する詳細な超音波検査を勧める。

催奇形因子となりうる一般的な感染症には,単純ヘルペス,ウイルス性肝炎,風疹,水痘,梅毒,トキソプラズマ症,およびサイトメガロウイルスならびにコクサッキーウイルス感染がある。

一般的に使用される薬物で,催奇形因子となりうるものには,アルコール,タバコ,および一部の抗痙攣薬,抗生物質,ならびに降圧薬がある(正常な妊娠,分娩,および出産: 既知のまたは疑わしい催奇形因子を参照 表 2: 表)。

喫煙は,妊婦において最も多い依存症である。また,喫煙をする女性の割合,中でもヘビースモーカー者の割合は増加していると思われる。喫煙者のうちわずか20%しか妊娠中に禁煙していない。タバコ中の一酸化炭素およびニコチンは,低酸素症ならびに血管収縮を引き起こし,自然流産(胎児喪失または妊娠20週未満での出産),胎児発育遅延(喫煙しない母親から生まれた新生児よりも出生体重が平均170g少ない),胎盤早期剥離,前置胎盤,前期破水,早産,絨毛羊膜炎,および死産のリスクを増大させる。喫煙する母親から生まれた新生児には,無脳症,先天性心疾患,口腔顔面裂,乳児突然死症候群,身体的成長および知的発達の欠陥,および行動上の問題があることも多い。禁煙または喫煙制限によってリスクは減少する。

アルコールは最もよく用いられる催奇形因子である。妊娠中の飲酒は自然流産のリスクを増大させる。リスクはおそらくアルコール摂取量と関連するが,安全とされる量は分かっていない。日常的な飲酒により出生体重は約1〜1.3kg減少する。特に大量飲酒は,おそらく1日に純粋アルコール45mL(約3杯に相当)程度であっても,胎児アルコール症候群を引き起こしうる。この症候群は1000件の出生当たり2.2件の割合で起こる;胎児発育遅延,顔面ならびに心血管系の欠損,および神経機能障害がある。また精神遅滞の主要原因となり,発育不全による新生児死亡を引き起こしうる。

コカインの使用は間接的なリスク(例,妊娠中の母体の脳梗塞または死亡)となる。また,直接に胎児の血管収縮および低酸素症を引き起こす。反復使用によって自然流産,胎児発育遅延,胎盤早期剥離,早産,死産,先天奇形(例,中枢神経系,泌尿生殖器,および骨格奇形;分離閉鎖)のリスクが増大する。

マリファナの主要代謝物は胎盤を通過できるが,マリファナの気晴らし的使用によって,先天奇形,胎児発育遅延,出生後の神経行動障害のリスクが常に上昇するとは限らないようである。

死産の既往: 死産(妊娠20週以降の胎児死亡)の原因は,母体,胎盤,または胎児にあることがある(妊娠の異常: 死産を参照 )。死産の既往があると,その後の妊娠における胎児死亡のリスクは増大する。分娩前の検査(例,ノンストレステスト,バイオフィジカルプロファイル)を用いた胎児監視が推奨される。母体疾患(例,慢性高血圧,糖尿病,感染症)の治療により,現在の妊娠における死産のリスクは低下しうる。

早産の既往: 早期陣痛による早産の既往により,将来早産となるリスクが上昇する;以前の早産で新生児の体重が1.5kg未満であった場合,次の妊娠における早産のリスクは50%である。早産の原因には,多胎(多胎児)妊娠,子癇前症や子癇,胎盤異常,前期破水(上行性子宮感染症を引き起こす),腎盂腎炎,ある種のSTD,および自然な早期陣痛がある。早期陣痛および早産の既往がある妊婦には,頸管の長さを計測するなど(妊娠の異常: 頸管無力症を参照 ),妊娠16〜18週に超音波検査を行う必要があり,さらに妊娠高血圧について緊密にモニタリングすべきである。早期陣痛の症状が発現したら,子宮収縮のモニタリング,細菌性腟症の検査,および胎児のフィブロネクチン測定を行うことによって,医師がより頻繁に観察する必要性のある妊婦を同定しうる。

遺伝子異常児または先天異常児の既往: 胎児に染色体異常が伴うリスクは,染色体異常(認識されたまたは見逃された)の胎児や新生児をもった経験のあるほとんどの夫婦で高くなっている(出生前遺伝カウンセリングおよび評価: 危険因子を参照 )。多くの遺伝性疾患において再発のリスクは不明である。ほとんどの先天奇形が多因子性である;次の妊娠で胎児に先天奇形を伴うリスクは1%以下である。夫婦に遺伝性疾患や染色体異常の新生児をもった経験がある場合,遺伝子スクリーニングが必要となる。夫婦に先天奇形の新生児をもった経験がある場合,高解像度超音波検査および母体胎児医学の専門医による評価が必要となる。

羊水過多および羊水過少: 羊水過多(羊水の過剰)により母体の重度の息切れおよび早期陣痛が生じうる。危険因子として,コントロール不良の母体の糖尿病,多胎妊娠,同種免疫,および胎児の奇形(例,食道閉鎖,無脳症,二分脊椎)がある。

羊水過少(羊水の不足)には,しばしば胎児尿路の先天奇形および重度の胎児発育遅延(3パーセンタイル未満)が伴う。さらに,肺形成不全や表面圧迫による異常を伴うポッター症候群が生じ(通常第2トライメスターに),胎児の死亡を引き起こしうる。

羊水過多および羊水過少は,子宮の大きさが妊娠期間に相当していない場合に疑われるが,診察時の超音波検査によって偶然発見されることもある。

多胎(多胎児)妊娠: 多胎妊娠により,胎児発育遅延,早期陣痛,胎盤早期剥離,先天奇形,周産期の罹患および死亡,出産後の子宮弛緩症および出血のリスクは増大する(分娩および出産時の異常と合併症: 分娩後出血を参照 )。多胎妊娠は妊娠18〜20週におけるルーチンの超音波検査中に発見される。

出生時損傷の既往: 新生児の出生に出産関連の損傷(例,鉗子や吸引分娩による脳性麻痺,発達遅滞や外傷,肩甲難産によるエルプ-デュシェンヌ麻痺)を伴ったからといって,将来の妊娠におけるリスクが増大することはない。しかしながら,損傷の素因となったかもしれない修正可能な危険因子がないか,以前の出産記録を評価すべきである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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