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胎児赤芽球症

(Rh式血液型不適合)

執筆者:

Antonette T. Dulay

, MD, Main Line Health System

レビュー/改訂 2020年 10月
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胎児赤芽球症は,胎児赤血球に対する母体の抗体が経胎盤的に移行することによって起こる,胎児(または新生児では新生児赤芽球症)の溶血性貧血である。この疾患は通常,母体と胎児間での血液型不適合により(しばしばRho(D)抗原により)生じる。診断は出生前の母親の抗原および抗体スクリーニングから始まり,父親のスクリーニング,母親の抗体価の連続測定,および胎児の検査が必要となることがある。治療には,子宮内胎児輸血や新生児交換輸血がある。予防は,Rh陰性の妊婦に対するRho(D)免疫グロブリン注射である。

胎児赤芽球症を引き起こす他の胎児母体不適合には,Kell,Duffy,Kidd,MNS,Lutheran,Diego,Xg,P,EeおよびCc抗原系などがあるが,他にも関与する抗原がある。ABO式血液型の不適合は胎児赤芽球症を引き起こさない。

病態生理

胎児赤血球は正常では,妊娠期間中を通じて胎盤を通過して母体循環系に移行する。この移動は分娩時または妊娠終了時に最も大きい。大量の移動(例,10~150mL)は著明な胎児母体間輸血とみなされ,外傷時のほか,ときに分娩後または中絶後に起こりうる。Rh陰性の女性がRh陽性の胎児を妊娠している場合,胎児赤血球がRh抗原に対する母体の抗体産生を刺激する。胎児母体間輸血の量が多いほど,より多くの抗体が産生される。その機序は他の抗原機序が関与するのと同じである;しかしながらKell抗体不適合は骨髄での赤血球産生も直接抑制する。

母体の抗Rh抗体産生の他の原因としては,Rh陽性血液に汚染された針での注射や,Rh陽性血液の不適切な輸血がある。

最初に感作を受けた妊娠では合併症は発生しないが,その後の妊娠において,母体抗体が胎盤を通過して胎児赤血球を溶血させ,貧血,低アルブミン血症,およびおそらく高拍出性心不全や胎児死亡を引き起こす。貧血によって胎児の骨髄が刺激を受け,未熟な赤血球(赤芽球)を産生し胎児末梢循環中に放出する(胎児赤芽球症)。溶血は新生児において間接ビリルビン値の上昇を招き, 核黄疸 核黄疸 核黄疸とは,大脳基底核および脳幹核への非抱合型ビリルビンの沈着による脳の損傷のことである。 正常では,血清アルブミンと結合しているビリルビンは血管内腔に保たれる。しかしながら,血清ビリルビン濃度が著しく上昇している場合( 高ビリルビン血症),血清アルブミン濃度が著しく低い場合(例, 早期産児の場合),またはビリルビンと競合する物質(例,スルフイソキサゾール,セフトリアキソン,アスピリン;絶食状態,敗血症またはアシドーシスの新生児における... さらに読む を引き起こす。通常は,同種免疫によって妊婦に症状が引き起こされることはない。

診断

  • 母体血液型およびRh型判定および不規則抗体スクリーニング

  • リスクがあると考えられる妊娠に対して,連続的な抗体値測定および中大脳動脈血流測定

  • セルフリー胎児DNAスクリーニング

初回の妊婦健診で全ての女性に対し,血液型,Rh型,抗Rho(D),および抗原への反応として形成され胎児赤芽球症の原因となりうる他の抗体についてスクリーニングを行う(不規則抗体スクリーニング)。女性の血液がRh陰性で抗Rho(D)検査陽性または,胎児赤芽球症の原因となりうる他の抗体検査陽性の場合,父親の血液型および接合性(父親であることが確かな場合)を確認する。父親の血液がRh陰性であり,母親に同定された抗体に対応する抗原検査陰性であれば,さらなる検査は必要ない。父親の血液がRh陽性であるか,または抗原を有する場合には,母体の抗Rh抗体価を測定する。抗体価が陽性であるが一定の検査値未満(通常1:8~1:32)の場合,20週以降2~4週間毎に測定する。その値を超えている場合,胎児の中大脳動脈血流(MCA)を,初期の血流結果および病歴に応じて1~2週間間隔で測定する;目的は貧血のリスクが高いことを示唆する高拍出性心不全の検出である。妊娠期間の割に血流が増加している場合は,胎児血液検体を得るために経皮的臍帯血採取および子宮内輸血を考慮すべきである。

父親であることが十分に確かであり,父親がRho(D)のヘテロ接合体の可能性が高い場合には,胎児のRh型を判定する。胎児血液がRh陽性または状態が不明な場合で,MCAの血流が上昇している場合は,胎児貧血の可能性が高い。

治療

  • 胎児輸血

  • ときに32~35週での分娩

胎児の血液がRh陰性であるか,またはMCAの血流が正常のままである場合は,妊娠は治療を受けずに満期まで継続できる。

胎児貧血の可能性が高い場合,ハイリスク妊娠管理設備の整った施設において専門医による子宮内胎児への血管内輸血を施行できる。輸血は1~2週毎に,通常は32~35週まで行う。この期間中,重度の胎児貧血の所見(MCAの血流に基づく)が持続的にみられる場合,分娩が推奨されることがある。MCAの血流に基づき重度の胎児貧血の所見がみられなければ,正期産期まで妊娠を継続してもよい。妊娠24週以降(場合によっては23週以降)の場合,初回の輸血前にコルチコステロイドを投与すべきである。

予防

予防としては,Rh陰性血液を有する母親に対してRho(D)免疫グロブリンを以下の時期に投与する:

  • 妊娠28週

  • 妊娠終了から72時間以内

  • 性器出血が生じた際

  • 羊水穿刺または絨毛採取の施行後

分娩はできるだけ非侵襲的に行う。胎盤用手剥離術は,胎児細胞の母体循環内への混入を強いる可能性があるため避ける。

Rh不適合による母体の感作および抗体産生は,妊婦にRho(D)免疫グロブリンを投与することによって予防できる。この製剤には,Rh陽性の胎児赤血球を中和する高抗体価の抗Rh抗体が含まれる。胎児血の母体流入および感作の可能性は妊娠終了時において最も高いため,分娩,流産,または異所性妊娠の治療のいずれかにより妊娠が終了したら,72時間以内にこの製剤を投与する。標準用量は300μg,筋注である。ロゼット試験は重大な胎児母体間出血を除外するために使用でき,結果が陽性であればKleihauer-Betke(酸溶出)試験により母体循環中の胎児血液量を測定できる。検査結果により胎児母体間出血が大量(全血30mLを超える)であることが示唆されれば,追加注射(胎児全血30mL毎に300μg,24時間以内に最大5回まで)が必要となる。

分娩または妊娠終了後のみに投与されると,妊娠中にすでに感作が起こっている可能性があるため,治療はときに無効となる。したがって,妊娠約28週において,Rh陰性で過去に感作を認めていない全妊婦にRho(D)免疫グロブリンの投与を行う。一部の専門家は,妊娠40週までに分娩が起こらなかった場合に2回目の投与を勧めている。

Rho(D)免疫グロブリンは,性器出血が起きた際と羊水穿刺または絨毛採取の施行後にも投与すべきである。

抗Rh抗体は,1回の投与の後3カ月間以上持続する。

要点

  • 胎児赤血球は分娩または妊娠終了後に最も多く母体循環に移動する(その結果母体感作のリスクが最大となる)。

  • 全ての妊婦に対して,血液型,Rh型,抗Rho(D),および胎児赤芽球症の原因となりうる他の抗体についてスクリーニングを行う。

  • リスクのある女性では,抗体価,および必要があれば中大脳動脈血流を定期的に測定する。

  • 胎児赤芽球症は必要に応じて子宮内胎児輸血により治療し,重度の胎児貧血が認められれば臨床状況に応じて32~35週で分娩とする。

  • 感作のリスクがある女性には,妊娠28週,妊娠終了から72時間以内,妊娠中に性器出血が起きた後,および羊水穿刺または絨毛採取の施行後に,Rho(D)免疫グロブリンを投与する。

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