産褥の管理

執筆者:Julie S. Moldenhauer, MD, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 5月
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産褥期(分娩後6週間)に発現する臨床症状は一般に,妊娠中に生じた生理的変化が元に戻ることを示している(分娩後の正常な変化の表を参照)。こうした変化は緩やかで一過性のものであり,病的な状態と取り違えてはならない。

産後の合併症はまれである。最も頻度が高いのは以下のものである:

臨床的パラメータ

分娩後はじめの24時間,褥婦の脈拍数は減少し始め,体温はわずかに上昇することがある。

3~4日間は腟分泌物に多量の血液が混じる(赤色悪露);その後,淡褐色(褐色悪露)となり,次の10~12日後には黄味を帯びた白になる(白色悪露)。

分娩の約1~2週間後,胎盤付着部から痂皮が剥離し出血する;出血は通常,自然に治まる。総失血量は約250mLである;サイズの適したタンポンを腟内に挿入する(頻繁に交換する)または外陰にナプキンをあて,血液を吸収させる。タンポンが会陰や腟の裂傷の治癒を妨げる可能性があるときには,使用すべきでない。遷延する出血(分娩後出血)は感染または胎盤遺残の徴候であることがあり,精査すべきである。

子宮復古が徐々に生じる;5~7日後には,硬くなって圧痛はなくなり,恥骨結合と臍とのほぼ中間に達する。2週間までに腹部からは触知できなくなり,典型的には4~6週間で妊娠前の大きさに戻る。子宮復古の際の収縮に疼痛(後陣痛)を伴う場合,鎮痛薬が必要となることがある。

検査パラメータ

1週目に,尿量は一時的に増加する;悪露が影響することもあるため,尿検査結果の解釈には注意しなければならない。

血液量が再分布するためヘマトクリット値は変動することがあるが,分娩時の出血が多くなかった場合には,妊娠前の水準にとどまる傾向にある。分娩時に白血球数が増加するため,分娩後24時間に著しい白血球増多(最大20,000~30,000/μL)が生じる;白血球数は1週間以内に正常値に戻る。血漿フィブリノーゲン値および赤血球沈降速度(赤沈)値は,分娩後1週間は高値のままである。

表&コラム

初期の管理

感染のリスク,出血および疼痛を最小限にする必要がある。典型的には分娩第3期の後,少なくとも1~2時間は厳重に観察し,区域麻酔または全身麻酔を分娩中に使用した場合(例,鉗子,吸引器,または帝王切開による)または分娩が完全にルーチンではなかった場合には数時間長く観察する。

出血

(さらなる情報については,分娩後出血を参照のこと。)

出血を最小限にすることが第一優先であり,具体策としては以下のものがある:

  • 子宮マッサージ

  • ときにオキシトシンの非経口(parenteral)投与

通常,分娩第3期後の1時間,子宮を収縮させ,過度の出血を予防するため,定期的に子宮をマッサージする。

子宮がマッサージだけでは収縮しない場合には,胎盤の娩出後速やかにオキシトシン10単位を筋注するか,希釈オキシトシン(10または20[最大80]単位/1000mLの点滴静注)を125~200mL/時にて投与する。子宮が硬くなるまで投与を続け,その後減量するか投与を終了する。重度の低血圧が起こることがあるため,オキシトシンを急速静注してはならない。

出血が増加する場合は,メテルギン(0.2mg,筋注,2~4時間毎)またはミソプロストール(600~1000μg,経口,舌下,または直腸内,1回)を子宮収縮を促進するために用いることができる。必要であれば,メテルギン0.2mg,経口,6~8時間毎を最長7日間続けてもよい。トラネキサム酸1gの静注を追加してもよい;効果を得るには分娩後3時間以内に投与する必要がある。

全ての褥婦に対し,回復期に以下のものを利用できるようにしておく必要がある:

  • 酸素

  • O型Rh陰性血液または適合性試験済の血液

  • 輸液

失血量が過剰であった場合は,退院前に血算により貧血がないことを確認する必要がある。失血量が過剰でなかった場合は,血算は必要でない。

食事および活動

分娩後24時間が過ぎると回復は急速に進む。褥婦が食事を望めば,速やかに普通食を与えるべきである。できるだけ早期に自立歩行するよう奨励する。

運動の推奨は他の母体疾患または合併症の存在により個別化される。通常,腹筋群を鍛えるための運動は分娩による不快感が治まれば開始でき,典型的には経腟分娩の褥婦で1日以内,帝王切開の褥婦ではそれより遅れる(典型的には6週間以降)。ベッドで股関節と膝を曲げて行うカールアップは,腹筋だけを引き締め,通常背部痛を起こすことはない。骨盤底筋体操(例,ケーゲル)が役立つかどうかは不明であるが,患者が準備でき次第これらの運動を始めることができる。

会陰のケア

分娩に合併症が伴わなかった場合,シャワーおよび入浴を許可してもよいが,腟洗浄は産褥早期には厳禁である。外陰は前から後ろへ拭くようにする。

分娩直後には,会陰切開部や縫合した裂傷部位の疼痛および浮腫の軽減に,アイスパックを用いるのがよい;ときに疼痛を緩和するためにリドカインクリームまたはスプレーを用いてもよい。

その後は1日に数回坐浴を行うとよい。

不快感および疼痛

イブプロフェン(400mg,経口,4~6時間毎)などの非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は会陰の不快感および子宮の痙攣痛の両方に効果的である。アセトアミノフェン500~1000mg,経口,4~6時間毎も使用できる。アセトアミノフェンおよびイブプロフェンは授乳中比較的安全なようである。他の多くの鎮痛薬は母乳中に分泌される。

手術または著明な裂傷の修復後には,アセトアミノフェン650mg,4時間毎の静注または1000mg,6~8時間毎の静注(4g/日を超えない)を使用してもよい。点滴は15分以上かけて行うべきである。アセトアミノフェンの静注はオピオイドの需要を減少させる(1)。一部の女性は不快感の軽減のためにオピオイドを必要とする可能性がある;最小有効量を用いるべきである。

疼痛が顕著に悪化する場合,外陰血腫などの合併症について評価すべきである。

膀胱および腸管の機能

尿の貯留,膀胱の過度の拡張および導尿は可能であれば避ける。急激な利尿が,特にオキシトシンを中止する際に起こることがある。排尿を促し,モニタリングを行って,無症状である膀胱の過剰充満を予防すべきである。恥骨上部正中線上に触知可能な腫瘤がある場合や,子宮底が臍より上の高い位置にある場合,膀胱の過度の拡張が示唆される。過度の拡張が生じていれば導尿を行い,早急に不快感を軽減し,長期に及ぶ排尿機能障害を予防する必要がある。過度の拡張が再発する場合はカテーテルの留置または間欠的な使用が必要になることがある。

褥婦には退院までに排便してみるよう促すべきであるが,早期の退院の場合にはこの推奨は現実的でないことが多い。3日以内に排便が起こらなければ,緩下薬(例,オオバコ,ジオクチルソジウムスルホサクシネート,ビサコジル)を与えてもよい。便秘を避けることで痔を予防でき,既存の痔(坐浴でも治療可能)の症状の緩和にも役立つ。直腸または肛門括約筋を含む広範囲の会陰裂傷修復を行った女性には,便軟化剤(例,ジオクチルソジウムスルホサクシネート)を投与できる。

区域(脊髄や硬膜外)または全身麻酔により排便や自然排尿が遅れることがあり,これは一部には歩行開始が遅れることによる。

ワクチン接種およびRh脱感作

風疹に対する血清反応陰性の女性には,退院当日に風疹の予防接種を行うべきである。

理想的には,破傷風・ジフテリア・無細胞百日咳(Tdap)ワクチンを各妊娠の27~36週の間に接種する;Tdapワクチンは母体の免疫応答および新生児への抗体の受動的移行を促進するのに役立つ。Tdapワクチンの接種を受けたことがない女性(現在の妊娠中にも過去の妊娠中にも受けておらず,青年としても成人としても受けていない)には,授乳の状況にかかわらず,病院または出産センターからの退院前にTdapワクチン接種を行うべきである。新生児との接触が予想される家族が,過去にTdapの接種を受けていない場合には,新生児と接触する2週間前までに百日咳の予防接種としてTdapの接種を受けるべきである(2)。

免疫獲得の証拠がない妊婦に対して,分娩後に1回目の水痘ワクチン,その4~8週間後に2回目の接種を行うべきである。

母親の病歴によっては,追加のワクチンが推奨される場合がある。

褥婦がRh陰性でRh陽性児を出産したが,感作されていない場合,分娩後72時間以内にRho(D)免疫グロブリン(300μg,筋注)を投与して感作を防ぐ

乳房緊満

授乳初期には,母乳の蓄積によって,痛みを伴う乳房緊満が起こることがある。授乳により緊満は軽減する。

母乳哺育を予定している女性には,乳汁産生が乳児の必要量と合致するまで以下を行うことが推奨される:

  • 一時的な圧軽減のため,温かいシャワーを浴びながら母乳を手で搾る,または授乳の合間に搾乳器を使う(しかしながら,そうすることで乳汁分泌が刺激されるため必要時のみ行うべきである)

  • 定期的に授乳する

  • 快適な授乳用のブラジャーを終日着用する

母乳哺育を予定していない女性には,以下が推奨される:

  • 乳汁分泌を抑制するために乳房をしっかり支持圧迫する(重力によって催乳反射が刺激され,乳汁分泌が促進されることを防ぐ)

  • 乳汁分泌を増加させる乳頭刺激および用手搾乳を避ける

  • 乳房へのしっかりとした締め付け(例,ぴったりフィットしたブラジャーの着用),冷罨法および必要に応じた鎮痛薬投与に続き,しっかりと乳房を支持圧迫することにより,乳汁分泌が抑制されている間の一過性症状をコントロールする

薬物による乳汁分泌の抑制は推奨されない。

精神障害

一過性の抑うつ(マタニティーブルー)は,分娩後の1週間に非常に多くみられる。症状(例,気分変動,易刺激性,不安,集中困難,不眠症,涙もろさ)は典型的には軽度で,通常7~10日で消失する。

医師は分娩前後の抑うつ症状について女性に尋ねるべきで,新たに母親になったことへの正常な反応(例,疲労,集中困難)に類似する場合がある抑うつの症状に注意すべきである。また抑うつ症状が2週間を超えて持続する場合や日常生活の妨げになる場合,または自殺や他殺念慮がある場合には連絡を取るよう女性に助言すべきである。このような症例では,産後うつ病または他の精神障害が存在する可能性がある。包括的な産後健診の際には全ての女性に対し,妥当性が確認されたツールを用いて,産後の気分障害および不安症のスクリーニングを行うべきである(3)。

産後うつ病の既往を含めた既存の精神障害が産褥期に再発または悪化する可能性が高いため,罹患している女性は厳密にモニタリングすべきである。

初期の管理に関する参考文献

  1. 1.Altenau B, Crisp CC, Devaiah CG, Lambers DS: Randomized controlled trial of intravenous acetaminophen for postcesarean delivery pain control.Am J Obstet Gynecol 217 (3):362.e1–362.e6, 2017.doi: 10.1016/j.ajog.2017.04.030.Epub 2017 Apr 25.

  2. 2.American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG) Committee on Obstetric Practice, Immunization and Emerging Infections Expert Work Group: Committee Opinion No. 718: Update on Immunization and Pregnancy: Tetanus, Diphtheria, and Pertussis Vaccination.Obstet Gynecol 130 (3):e153–e157, 2017.doi: 10.1097/AOG.0000000000002301.

  3. 3.American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG) Committee on Obstetric Practice: Committee Opinion No. 757: Screening for Perinatal Depression.Obstet Gynecol 130 (3): 132 (5):e208–e212, 2018.doi: 10.1097/AOG.0000000000002927.

家庭における管理

褥婦と新生児は分娩後24~48時間以内に退院させてよい;家族指向の産科施設の多くでは,全身麻酔が行われず合併症がない場合は分娩後6時間程度で退院させる。

重篤な問題はまれであるが,24~48時間以内の家庭訪問,来院,または電話が必要である。ルーチンの産後健診は合併症のない経腟分娩後の女性では通常6週間後に予定される。帝王切開または他の合併症が発生した場合,フォローアップがそれより早く予定されることがある。

褥婦の体調が整い次第,日常活動を再開してよい。

経腟分娩後の性交は,希望があり快適であれば再開してよい;しかしながら裂傷または会陰切開の修復部位がまず治癒しなければならない。帝王切開後の性交は手術創が治癒するまで延期すべきである。

家族計画

退院時に風疹または水痘ワクチンを受けた女性では妊娠は1カ月遅らせなければならない。また,少なくとも分娩から6カ月,望ましくは18カ月妊娠を遅らせることで以降の産科転帰が改善する。

妊娠の可能性を最小限にするために,退院後すぐに避妊を開始すべきである。授乳していない女性であれば,排卵は通常は分娩後約4~6週,初めの月経の2週間前に起こる。しかしながら,排卵はそれより早く起こることもあり,分娩後2週間という早期に妊娠した例もある。授乳している女性では,排卵と月経の再開が通常は分娩後6カ月近くまで遅れる傾向があるが,授乳していない女性と同じくらい早くに排卵と月経が再開する(そして妊娠する)ケースも少数ある。

女性は様々な避妊法の選択肢から,特定のリスクと有益性に基づいて選ぶべきである。

授乳の状況は避妊法の選択に影響する。授乳している女性には,非ホルモン性の方法が通常望ましい;ホルモン性の方法の中では,乳汁産生に影響を及ぼさない点から,プロゲスチンのみを含有する経口避妊薬,酢酸メドロキシプロゲステロンデポ剤の注射,およびプロゲスチンのインプラントが望ましい。エストロゲン-プロゲステロン避妊薬は乳汁産生を阻害する可能性があり,母乳産生が十分確立されるまで使用を控えるべきである。混合型エストロゲン-プロゲスチン腟内リングは授乳していない場合,分娩後4週間から使用可能である。

ペッサリーは,6~8週目に子宮復古が完了した後にのみ装着すべきである;それまでは発泡剤,ゼリー,コンドームを用いるべきである。

子宮内避妊器具は,排出のリスクを最小限にするために典型的には分娩後4~6週時点で留置するのが最適である。

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