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高カルシウム血症

執筆者:

James L. Lewis III

, MD, Brookwood Baptist Health and Saint Vincent’s Ascension Health, Birmingham

レビュー/改訂 2020年 4月
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高カルシウム血症とは,血清総カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を上回るか,または血清イオン化カルシウム濃度が5.2mg/dL(1.30mmol/L)を上回った状態である。主な原因には副甲状腺機能亢進症,ビタミンD中毒,がんなどがある。臨床的特徴としては多尿,便秘,筋力低下,錯乱,昏睡などがある。診断は,イオン化カルシウムおよび副甲状腺ホルモンの血清中濃度測定による。カルシウムの排泄を増強し骨のカルシウム吸収を抑制する治療では,生理食塩水,ナトリウム利尿,ゾレドロン酸などの薬物が用いられる。

高カルシウム血症の病因

高カルシウム血症は通常は過剰な骨吸収に起因する。高カルシウム血症には多くの原因があるが(高カルシウム血症の主な原因 高カルシウム血症の主な原因 高カルシウム血症の主な原因 の表を参照),最も一般的な原因は以下のものである:

  • 副甲状腺機能亢進症

  • がん

高カルシウム血症の病態生理

原発性副甲状腺機能亢進症

原発性副甲状腺機能亢進症は,1つまたは複数の副甲状腺による副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌に起因する全身疾患である。おそらく高カルシウム血症の最も頻度の高い原因であり,非入院患者で特にその傾向がある。発生率は年齢とともに上昇し,閉経後女性ではさらに高い。頸部放射線照射後30年以上経過した場合にも高い頻度で生じる。家族性および散発性の病型がある。

PTHは,腎臓および腸管からのカルシウムの吸収を亢進させ,骨からカルシウムとリンを素早く動員し(骨吸収),遠位尿細管からのカルシウム再吸収を高め,また, ビタミンD ビタミンD欠乏症および依存症 日光への曝露が不十分であると,ビタミンD欠乏症が起こりやすくなる。欠乏症により,骨石灰化が障害され,小児ではくる病,成人では骨軟化症が引き起こされ,また骨粗鬆症の一因となる可能性がある。診断では,血清25(OH)D(D2およびD3)の測定を行う。治療としては通常,ビタミンDを経口投与し,必要に応じてカルシウムおよびリンを補給する。しばしば予防が可能である。まれに,遺伝性疾患によりビタミンDの代謝障害(依存症)が起こる。... さらに読む の最も活性の高い形態であるカルシトリオール(食事から摂取され腸管で吸収されるカルシウムの割合を高める)への変換を刺激することで血清カルシウムを増加させる。

副甲状腺腺腫による家族性の病型が,他の内分泌腫瘍を有する患者に生じる(多発性内分泌腫瘍症の概要 多発性内分泌腫瘍症(MEN)の概要 多発性内分泌腫瘍症(MEN)は遺伝的に異なる3つの家族性疾患から成り,いくつかの内分泌腺における腺腫様過形成および悪性腫瘍を伴う。 MEN 1では,主に副甲状腺の過形成またはときに腺腫(その結果 副甲状腺機能亢進症が生じる)ならびに膵島細胞および/または下垂体の腫瘍を認める。 MEN... さらに読む 多発性内分泌腫瘍症(MEN)の概要 も参照)。原発性副甲状腺機能亢進症は, 低リン血症 低リン血症 低リン血症とは,血清リン濃度が2.5mg/dL(0.81mmol/L)未満となった状態である。原因にはアルコール使用障害,熱傷,飢餓,および利尿薬の使用がある。臨床的特徴としては,筋力低下,呼吸不全,心不全などがあり,痙攣や昏睡が起こる可能性もある。診断は血清リン濃度による。治療はリンの補給である。 ( リン濃度の異常の概要も参照のこと。) 低リン血症は入院患者の2%に生じるが,特定の集団では有病率が高くなる(例,入院中のアルコール使用... さらに読む および過度の骨吸収を引き起こす。無症候性高カルシウム血症が最も頻度の高い所見であるが, 腎結石症 尿路結石 尿路結石とは,泌尿器系内に存在する固形の粒子のことである。結石は疼痛,悪心,嘔吐,および血尿を引き起こすことがあるほか,続発性の感染から悪寒および発熱がみられることもある。診断は尿検査および放射線学的検査のほか,通常は単純ヘリカルCTに基づく。治療は鎮痛薬,感染に対する抗菌薬療法,および薬剤による排石促進療法のほか,ときに衝撃波砕石術また... さらに読む も一般的であり,特に長期にわたる高カルシウム血症により高カルシウム尿症が併存している場合によくみられる。組織学的検査では,原発性副甲状腺機能亢進症患者の約85%で副甲状腺腺腫が明らかになるが,腺腫と正常腺との鑑別はときに困難である。症例の約15%が,2腺以上の過形成によるものである。副甲状腺癌は症例の1%未満に発生する。

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)の症候群は,常染色体優性形質として遺伝する。FHHにはカルシウム感知受容体遺伝子CASR(最多),GNA11,またはAP2S1の不活性型変異が関与しており,PTH分泌の阻害に必要な血清カルシウム濃度の閾値が上昇する。引き続いて起こるPTHの分泌によって,腎臓からのリン排泄が誘導される。持続性の高カルシウム血症(通常は無症候性),ならびにしばしば若い頃から,正常範囲内またはやや高値を示すPTH,低カルシウム尿症,および 高マグネシウム血症 高マグネシウム血症 高マグネシウム血症とは,血清マグネシウム濃度が2.6mg/dL(1.05mmol/L)を上回ったことである。主な原因は腎不全である。症状としては,低血圧,呼吸抑制,心停止などがある。診断は血清マグネシウム濃度の測定による。治療にはグルコン酸カルシウムの静注があり,フロセミドを投与してもよい;重症例では血液透析が役立つ場合がある。 ( マグネシウム濃度の異常の概要も参照のこと。)... さらに読む が認められる。腎機能は正常で,腎結石症はまれである。しかし,重度の 膵炎 膵炎の概要 膵炎は急性または慢性のいずれかに分類される。 急性膵炎では,炎症が臨床的および組織学的のいずれにおいても消失する。 慢性膵炎は,不可逆的かつ進行性の組織学的変化を特徴とし,膵内外分泌機能に大幅な低下を来す。慢性膵炎患者は,急性疾患の急性増悪(flare-up)を起こすことがある。... さらに読む がときに起こる。この症候群は副甲状腺過形成と関連があるが,副甲状腺亜全摘術によって緩和されるものではない。

二次性副甲状腺機能亢進症

二次性副甲状腺機能亢進症は,進行した 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 において認められることが最も多く,腎臓での活性型ビタミンDの産生低下およびその他の要因により低カルシウム血症が起こり,PTH分泌の慢性刺激に至った場合に生じる。慢性腎臓病に反応して発生する 高リン血症 高リン血症 高リン血症とは,血清リン濃度が4.5mg/dL(1.46mmol/L)を上回った状態である。原因には,慢性腎臓病,副甲状腺機能低下症,代謝性または呼吸性のアシドーシスがある。臨床的特徴は随伴する低カルシウム血症によるものと考えられ,テタニーが含まれる。診断は血清リン濃度の測定による。治療には,リンの摂取制限,および炭酸カルシウムなどのリン酸結合性制酸薬の投与がある。 ( リン濃度の異常の概要も参照のこと。)... さらに読む も寄与する。一旦副甲状腺機能亢進症を発症すると,高カルシウム血症が起こることもあれば,カルシウム濃度は正常範囲内にとどまることもある。副甲状腺のカルシウム感受性は,著明な腺過形成およびカルシウムのセットポイント(すなわち,PTH分泌を減少させるために必要なカルシウム量)の上昇によって減弱している可能性がある。

三次性副甲状腺機能亢進症

三次性副甲状腺機能亢進症では,自律的なPTH分泌過剰が血清カルシウム濃度にかかわらず引き起こされる。三次性副甲状腺機能亢進症は一般に,数年間経過する末期腎臓病の患者のように,二次性副甲状腺機能亢進症が長期間存在する患者に生じる。

がん

がんは高カルシウム血症の一般的な原因であり,通常は入院患者にみられる。いくつかの機序があるが,骨吸収の結果として最終的に血清カルシウムの上昇が生じる。

がんの体液性高カルシウム血症(すなわち,骨転移を伴わない,またはごく軽微な骨転移を伴う高カルシウム血症)は,扁平上皮癌, 腎細胞癌 腎細胞癌 腎細胞癌(RCC)は,最も頻度の高い腎癌である。症状としては,血尿,側腹部痛,触知可能な腫瘤,不明熱などがみられる。しかしながら,症状はしばしば認められないため,診断は通常所見の偶然の発見に基づいて疑われる。診断はCTまたはMRI,ときに生検により確定される。治療は早期疾患に対しては手術,進行した疾患に対しては分子標的療法,実験的プロトコル,緩和治療による。 RCCは腺癌であり,原発性悪性腎腫瘍の90~95%を占める。比較的頻度の低い原... さらに読む 乳癌 乳癌 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 乳癌 前立腺癌 前立腺癌 前立腺癌は通常腺癌である。典型的には,腫瘍の増殖によって血尿や疼痛を伴う閉塞が引き起こされるまで,症状はみられない。診断は直腸指診または前立腺特異抗原測定によって示唆され,経直腸的超音波生検によって確定される。スクリーニングについては議論があり,意思決定の共有が行われるべきである。大部分の前立腺癌患者の予後は,特にがんが限局または局在する場合(通常は症状の発生前),非常に良好であり,前立腺癌で死亡する患者と比較してそれ以外の原因で死亡す... さらに読む ,および 卵巣がん 卵巣がん 卵巣がんは通常,診断時には進行しているため,致死的となることが多い。通常,症状は早期にはなく,進行期にも非特異的である。評価として通常,超音波検査,CTまたはMRI,および腫瘍マーカー(例,CA125)の測定を行う。診断は組織学的分析による。進行期診断は外科的に行う。治療として,子宮摘出術,両側卵管卵巣摘出術,浸潤病変の可能な限りの切除(腫瘍減量手術)が必要であり,がんが限局性である場合を除き,化学療法が必要である。... さらに読む に付随して起こることが最も多い。がんの体液性高カルシウム血症を伴う症例の多くは,以前はPTHの異所性産生が原因とされていた。しかし,このような腫瘍の一部は,骨および腎臓の両方のPTH受容体に結合して破骨細胞性骨吸収など多くのPTH類似作用をもたらすPTH関連ペプチドを分泌する。

溶骨性高カルシウム血症は,転移固形腫瘍(例,乳癌,前立腺癌,非小細胞肺癌)または造血器悪性腫瘍によって生じ,後者の例としては 多発性骨髄腫 多発性骨髄腫 多発性骨髄腫は,形質細胞の悪性腫瘍で,単クローン性免疫グロブリンを産生し,隣接する骨組織に浸潤し,それを破壊する。一般的な臨床像としては,骨痛および/または骨折を引き起こす溶骨性骨病変,腎機能不全,高カルシウム血症,貧血,繰り返す感染症などがある。典型的には,Mタンパク質(ときに尿中にみられ,血清中に認められない場合があるが,まれに全く認められない場合もある)および/または軽鎖タンパク尿,および骨髄中の過剰な形質細胞の証明が診断に必要で... さらに読む 多発性骨髄腫 が最も多いが,特定の リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫は,網内系およびリンパ系から発生する不均一な一群の腫瘍である。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別される( ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の比較の表を参照)。 リンパ腫はかつて, 白血病とは全く異なる疾患と考えられていた。しかし現在では,細胞マーカーとそれらのマーカーを評価するツールについて理解が深まったことで,これら... さらに読む およびリンパ肉腫が原因となることもある。この場合の高カルシウム血症の発生機序は,破骨細胞を活性化するサイトカインまたは破骨細胞による骨吸収を刺激するプロスタグランジンの局所産生,腫瘍細胞による直接的な骨吸収,またはその両方であると考えられる。びまん性の骨量減少がみられることもある。

ビタミンD中毒

ビタミンD中毒 ビタミンD中毒 通常,ビタミンD中毒は過剰量の服用に起因する。ビタミンD中毒では,骨吸収および腸管でのカルシウムの吸収が亢進し, 高カルシウム血症が生じる。著しい高カルシウム血症により,一般的に症状が生じる。診断は一般的に,上昇した血中25(OH)D濃度に基づく。治療は,ビタミンDの服用中止,食事からのカルシウム摂取の制限,血管内容量不足を回復させることから成り,中毒が重度である場合,コルチコステロイドまたはビスホスホネートを投与する。... さらに読む は,内因性1,25(OH)2D濃度の高値により引き起こされる場合がある。血清中濃度は固形腫瘍を有する患者の大半で低値となるが, リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫は,網内系およびリンパ系から発生する不均一な一群の腫瘍である。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別される( ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の比較の表を参照)。 リンパ腫はかつて, 白血病とは全く異なる疾患と考えられていた。しかし現在では,細胞マーカーとそれらのマーカーを評価するツールについて理解が深まったことで,これら... さらに読む またはT細胞白血病を有する患者では,腫瘍細胞中に存在する1-α-水酸化酵素の調節異常によりときに上昇する。治療に用いられる用量の外因性ビタミンDは,過度の骨吸収,および腸管からのカルシウム吸収増加をもたらし,高カルシウム血症や高カルシウム尿症を引き起こす。

肉芽腫性疾患

サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスは単一または複数の臓器および組織に生じる非乾酪性肉芽腫を特徴とする炎症性疾患であり,病因は不明である。肺およびリンパ系が侵される頻度が最も高いが,サルコイドーシスはどの臓器にも生じうる。肺症状は,無症状から咳嗽,労作時呼吸困難,および,まれであるが肺または他臓器の機能不全に至るまで様々である。通常はまず肺病変を理由に本疾患... さらに読む サルコイドーシス 結核 結核 結核は,しばしば初感染から一定期間の潜伏期を経て発症する慢性進行性の抗酸菌感染症である。結核は肺を侵すことが最も多い。症状としては,湿性咳嗽,発熱,体重減少,倦怠感などがある。診断は喀痰の塗抹および培養によることが最も多いが,分子生物学に基づく迅速診断検査の利用も増えてきている。治療では複数の抗菌薬を少なくとも6カ月間投与する。... さらに読む 結核 ハンセン病 ハンセン病 ハンセン病は,末梢神経,皮膚,上気道粘膜に対して特有な指向性を示す抗酸性の桿菌であるらい菌(Mycobacterium leprae)によって通常引き起こされる慢性感染症である。症状は多彩で,感覚消失を伴う多形性の皮膚病変や末梢神経障害などがみられる。診断は臨床的に行い,生検により確定する。治療は典型的にはジアフェニルスルホンと他の抗抗酸菌薬の併用による。治療を開始すれば,他者への感染性は急速に消失する。... さらに読む ハンセン病 ベリリウム中毒 ベリリウム症 急性および慢性ベリリウム症は,ベリリウム化合物やベリリウム製品から生じた塵または煙霧を吸入することによって引き起こされる。急性ベリリウム症は現在ではまれである;慢性ベリリウム症は全身,特に肺,胸腔内リンパ節,および皮膚における肉芽腫の形成を特徴とする。慢性ベリリウム症は進行性の呼吸困難,咳嗽,および疲労を引き起こす。診断は病歴,ベリリウムリンパ球増殖試験,および生検による。治療はコルチコステロイドによる。... さらに読む ヒストプラズマ症 ヒストプラズマ症 ヒストプラズマ症は,Histoplasma capsulatumにより引き起こされる肺および播種性感染症であり,しばしば慢性に経過し,無症状の初感染に続いて発症するのが通常である。症状は,肺炎症状または非特異的慢性疾患症状である。診断は,喀痰中もしくは組織中の菌の同定,または特異的な血清および尿中抗原検査による。治療が必要な場合は,アムホテリシンBまたはアゾール系薬剤を使用する。... さらに読む ヒストプラズマ症 コクシジオイデス症 コクシジオイデス症 コクシジオイデス症は,真菌のCoccidioides immitisおよびC. posadasiiが引き起こす肺または血行播種性感染症であり,通常は無症候性または自然に消退する良性の急性呼吸器感染症として生じる。これらの微生物は,ときに播種して他の組織に局所病変を形成する。症状がみられる場合は,下気道感染症か軽度の非特異的な播種性感染症を呈する。診断は臨床的および疫学的特徴から疑い,胸部X線,培養,および血清... さらに読む コクシジオイデス症 などの肉芽腫性疾患は,高カルシウム血症や高カルシウム尿症につながる。サルコイドーシスでの高カルシウム血症および高カルシウム尿症は,25(OH)Dから1,25(OH)2Dへの変換が調節されないことが原因とみられ,おそらくはサルコイド肉芽腫内の単核細胞に発現する1-α-水酸化酵素による。同様に,高カルシウム血症を有する結核または 珪肺症 珪肺症 珪肺症は遊離結晶性シリカの塵の吸入により起こり,結節性の肺の線維化を特徴とする。慢性珪肺症は初期には無症状または軽い呼吸困難のみであるが,長年をかけて進行して肺の大部分を侵し,呼吸困難,低酸素血症,肺高血圧症,および呼吸器障害を引き起こすことがある。診断は病歴および胸部X線所見に基づく。効果的な治療は支持療法以外にはなく,重症例では肺移植のみである。 ( 環境性肺疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む 珪肺症 患者における血清1,25(OH)2D濃度の高値が報告されている。高カルシウム血症およびハンセン病を呈する患者の一部には1,25(OH)2D濃度の低値がみられるため,症例によっては別の機序が高カルシウム血症の原因となっているはずである。

不動状態

不動状態,特にリスクのある患者の長期床上絶対安静(高カルシウム血症の主な原因 高カルシウム血症の主な原因 高カルシウム血症の主な原因 の表を参照)が,骨吸収の加速による高カルシウム血症をもたらす可能性がある。高カルシウム血症は,床上安静開始後数日から数週間で発生する。体重負荷がかかる状態に戻れば高カルシウム血症は迅速に回復する。複数の骨折のある若年成人および 骨パジェット病 骨パジェット病 骨パジェット病は,限局した部位で骨代謝回転が亢進する成人の骨格の慢性疾患である。正常な基質が,軟化し腫大した骨に置き換わる。本疾患は無症候性のこともあれば,骨痛または変形が徐々に発症することもある。診断はX線による。治療には対症的な処置としばしば薬物(通常はビスホスホネート)が含まれる。... さらに読む 骨パジェット病 患者は,床上安静時に高カルシウム血症を特に起こしやすい。

乳児の特発性高カルシウム血症

乳児の特発性高カルシウム血症(ウィリアムズ症候群― Professional.see table 微小欠失症候群の例 微小欠失症候群の例 微小欠失症候群の例 )は,極めてまれな散発性の疾患であり,顔面形成異常,心血管異常,腎血管性高血圧症,および高カルシウム血症を伴う。PTHおよびビタミンDの代謝は正常であるが,カルシウム点滴に対するカルシトニンの反応が異常なことがある。

ミルク・アルカリ症候群

ミルク・アルカリ症候群では,過剰な量のカルシウムおよび吸収性アルカリ剤が摂取されることで発生し(通常,炭酸カルシウム制酸薬を用いた消化不良の自己治療または骨粗鬆症の予防目的),結果として,高カルシウム血症, 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシスは重炭酸イオン(HCO3)の一次性の増加で,二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の上昇を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値またはほぼ正常範囲内である。一般的な原因としては,遷延性の嘔吐,循環血液量減少,利尿薬の使用,低カリウム血症などがある。アルカローシスが持続するためには,腎臓からのHCO3の排泄障害が存在しなければならない。重症例の症状および徴候には,頭痛,嗜... さらに読む ,腎機能不全が生じる。消化性潰瘍および骨粗鬆症に効果的な薬物が市販されるようになり,本症候群の発生頻度は大幅に低下している。

高カルシウム血症の症状と徴候

軽度の高カルシウム血症では患者の多くが無症状である。高カルシウム血症の臨床像としては,便秘,食欲不振,悪心・嘔吐,腹痛,イレウスなどがある。腎濃縮機構の障害は多尿,夜間頻尿,多飲につながる。血清カルシウム濃度が12mg/dL(3.00mmol/L)を上回ると,情緒不安定,錯乱,せん妄,精神病,昏迷,昏睡が起こる可能性がある。高カルシウム血症は,骨格筋の筋力低下を含む神経筋症状を引き起こしうる。腎結石症を伴う高カルシウム尿症がよくみられる。

より頻度は低いが,遷延性または重度の高カルシウム血症が,腎石灰化症(腎実質内のカルシウム塩沈着)による可逆的な急性腎障害や不可逆的な腎損傷を引き起こす。

重度の高カルシウム血症では,心電図でQTc間隔の短縮がみられ,不整脈が生じることもある(特にジゴキシン服用中の患者でよくみられる)。18mg/dL(4.50mmol/L)を上回る高カルシウム血症では,ショックや腎不全が生じる場合があり,死に至ることもある。

高カルシウム血症の診断

  • 血清総カルシウム(に加えて,ときにイオン化カルシウム)濃度の推定

  • 胸部X線;電解質,血中尿素窒素(BUN),クレアチニン,リン,PTH,アルカリホスファターゼの測定,および血清タンパク質免疫電気泳動(原因確定のため)

  • ときに,カルシウムの尿中排泄量(単独またはリンの尿中排泄量とともに)

高カルシウム血症は,血清総カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を超える,または血清イオン化カルシウムが5.2mg/dL(1.30mmol/L)を超える場合に診断される。この病態はしばしばルーチンの臨床検査スクリーニングで発見される。

血清カルシウムは,血清タンパク質高値によるアーチファクトが原因で高値となることがある(高カルシウム血症を引き起こす疾患における臨床検査および臨床所見 高カルシウム血症を引き起こす疾患における臨床検査および臨床所見 高カルシウム血症を引き起こす疾患における臨床検査および臨床所見 の表を参照)。真性の高イオン化カルシウム血症は,血清タンパク質の低値によって覆い隠される場合もある。タンパク質およびアルブミンが異常である場合,およびイオン化カルシウム高値が臨床所見により(例,高カルシウム血症の症状により)疑われる場合は,血清イオン化カルシウムを測定すべきである。

初期評価

初期評価には以下を含めるべきである:

  • 病歴,特に過去の血清カルシウム濃度の確認

  • 身体診察

  • 胸部X線

  • 臨床検査による電解質,BUN,クレアチニン,イオン化カルシウム,リン,PTH,およびアルカリホスファターゼなどの測定,ならびに血清タンパク質免疫電気泳動

原因は,95%以上の患者で臨床データおよびこれらの検査から明らかである。この評価で高カルシウム血症の明らかな原因がみられない患者では,インタクト副甲状腺ホルモンおよび24時間尿中カルシウムを測定すべきである。原因が明らかでない場合,血清カルシウム値が11mg/dL(2.75mmol/L)未満であれば,副甲状腺機能亢進症またはその他の良性の原因が示唆されるが,血清カルシウム値が13mg/dL(3.25mmol/L)を上回っていれば,がんが示唆される。

無症候性高カルシウム血症が何年もの間存在するか,または数人の家系員にその病態がみられる場合は,家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症である可能性が高くなる。原発性副甲状腺機能亢進症は一般に中年期以降に発症するが,症状出現の数年前から存在する可能性がある。

インタクトPTHの濃度測定は,PTH介在性の高カルシウム血症(例,副甲状腺機能亢進症または家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症により引き起こされるもので,PTH濃度は高値または正常高値である)とその他(PTHとは無関係)の大半の原因とを鑑別する助けになる。原因がPTHと無関係である場合は,濃度は通常20pg/mL(2.1pmol/L)未満である。

胸部X線は特に役立ち, 結核 結核 結核は,しばしば初感染から一定期間の潜伏期を経て発症する慢性進行性の抗酸菌感染症である。結核は肺を侵すことが最も多い。症状としては,湿性咳嗽,発熱,体重減少,倦怠感などがある。診断は喀痰の塗抹および培養によることが最も多いが,分子生物学に基づく迅速診断検査の利用も増えてきている。治療では複数の抗菌薬を少なくとも6カ月間投与する。... さらに読む 結核 サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスは単一または複数の臓器および組織に生じる非乾酪性肉芽腫を特徴とする炎症性疾患であり,病因は不明である。肺およびリンパ系が侵される頻度が最も高いが,サルコイドーシスはどの臓器にも生じうる。肺症状は,無症状から咳嗽,労作時呼吸困難,および,まれであるが肺または他臓器の機能不全に至るまで様々である。通常はまず肺病変を理由に本疾患... さらに読む サルコイドーシス 珪肺症 珪肺症 珪肺症は遊離結晶性シリカの塵の吸入により起こり,結節性の肺の線維化を特徴とする。慢性珪肺症は初期には無症状または軽い呼吸困難のみであるが,長年をかけて進行して肺の大部分を侵し,呼吸困難,低酸素血症,肺高血圧症,および呼吸器障害を引き起こすことがある。診断は病歴および胸部X線所見に基づく。効果的な治療は支持療法以外にはなく,重症例では肺移植のみである。 ( 環境性肺疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む 珪肺症 など大半の肉芽腫性疾患のほか,原発性 肺癌 肺癌 肺癌は世界におけるがん関連死因の第1位である。約85%の症例で喫煙の関連がみられる。症状としては,咳嗽,胸部不快感,胸痛,体重減少などのほか,頻度は低いものの喀血もありうるが,臨床症状の有無にかかわらず,多くの患者が遠隔転移のある状態で受診する。診断は典型的には胸部X線またはCTにより,生検によって確定する。治療法としては,病期に応じて手術,化学療法,放射線療法,これらの組合せなどがある。過去数十年にわたり,肺癌患者の予後は不良で,診断... さらに読む 肺癌 や,肩関節,肋骨,および胸椎の溶骨性病変やパジェット病の病変が明らかになる。

胸部および骨(例,頭蓋骨,四肢)のX線では,二次性副甲状腺機能亢進症の骨への影響も描出される場合があり,これは長期にわたり透析をうけている患者で最も頻度が高い。嚢胞性線維性骨炎(osteitis fibrosa cystica,しばしば原発性副甲状腺機能亢進症による)では,PTHによる過剰刺激によって破骨細胞活性が亢進し,線維性変性,嚢胞形成,および線維性結節形成を伴う骨希薄化を引き起こす。特徴的な骨病変は比較的進行した疾患にのみ認められるため,症状のある患者でのみ骨のX線検査が推奨される。X線検査では典型的に骨嚢胞,頭蓋骨の不均一な外観,指節骨や鎖骨遠位端の骨膜下骨吸収が認められる。

副甲状腺機能亢進症

副甲状腺機能亢進症では,血清カルシウム濃度が12mg/dL(3mmol/L)を上回ることはまれであるが,血清イオン化カルシウム濃度はほぼ常に高値を示す。血清リン濃度が低値であれば,副甲状腺機能亢進症が示唆され,特にリンの腎排泄の増加もみられる場合はその可能性が高まる。副甲状腺機能亢進症によって骨代謝回転が亢進すると,血清アルカリホスファターゼがしばしば上昇する。インタクトPTHの高値,特に不適切な上昇(すなわち,低カルシウム血症がない状態での濃度上昇)または不適切な正常高値(すなわち,高カルシウム血症があるにもかかわらず)の存在が診断に有用である。

副甲状腺機能亢進症では,尿中カルシウム排泄量は通常正常範囲内または高値である。慢性腎臓病は二次性副甲状腺機能亢進症の存在を示唆するが,原発性副甲状腺機能亢進症も存在する可能性がある。慢性腎臓病患者では,血清カルシウム濃度が高く血清リン濃度が正常範囲内であれば原発性副甲状腺機能亢進症が示唆され,一方でリン値が上昇していれば二次性副甲状腺機能亢進症が示唆される。

副甲状腺手術の前に副甲状腺組織の局在を確認する必要性については議論が続いている。高分解能CT(CTガイド下生検および甲状腺静脈サンプリングと免疫測定法を併用,または非併用),MRI,高分解能超音波検査,デジタルサブトラクション血管造影,ならびにタリウム201-テクネチウム99シンチグラフィーのいずれもが使用されており極めて正確であるが,熟練した外科医が執刀する副甲状腺摘出術の治癒率は通常高く,これらの検査によって治癒率がさらに向上しているわけではない。副甲状腺の画像検査に使用される核医学検査薬であるテクネチウム99セスタミビは,従来の物質よりも高い感度および特異度を有し,孤立性腺腫の同定に有用となりうる。

副甲状腺の初回手術後に副甲状腺機能亢進症が残存または再発した場合には画像検査が必要であり,頸部から縦隔の全域の通常とは異なる部位で異常に機能する副甲状腺が明らかにされることがある。テクネチウム99セスタミビはおそらく最も感度の高い画像検査法である。副甲状腺摘出術を再度実施する前にいくつかの画像検査(テクネチウム99セスタミビに加えて,MRI,CT,または高分解能超音波検査)を用いる必要がときに生じる。

がん

血清カルシウムの測定値が13mg/dL(3mmol/L)を上回る場合は,副甲状腺機能亢進症以外の高カルシウム血症の原因が示唆される。がんでは,尿中カルシウム排泄量は通常正常範囲内または高値である。がんの体液性高カルシウム血症ではしばしば,PTHは低値または検出不能である;リンもしばしば低値を示す;代謝性アルカローシス,低クロール血症,低アルブミン血症がしばしば認められる。PTHの抑制によって,がんの体液性高カルシウム血症は原発性副甲状腺機能亢進症と鑑別される。また,がんの体液性高カルシウム血症は血清中にPTH関連ペプチドが検出される場合にも診断できる。

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)は非常にまれであるが,高カルシウム血症とインタクトPTHの濃度上昇または正常高値がみられる患者では,考慮すべき疾患である。FHHは原発性副甲状腺機能亢進症と異なり,以下の特徴をもつ:

  • 発症年齢が低い

  • 症状がない

  • 高マグネシウム血症が頻繁に起こる

  • 他の家系員に高カルシウム尿症を伴わない高カルシウム血症がみられる

  • カルシウムの尿中排泄率(クレアチニンクリアランスに対するカルシウムクリアランスの比)が低い(1%未満;原発性副甲状腺機能亢進症では1~4%)。

  • インタクトPTHが高値または正常値

インタクトPTHが高値または正常値であるのは副甲状腺のフィードバック調節の異常が原因である可能性がある。

CASRGNA11,またはAP2S1遺伝子の変異の検査により,特定の家系を侵す疾患の常染色体優性遺伝の病型について遺伝的原因が同定されることがある。

ミルク・アルカリ症候群

ミルク・アルカリ症候群は,カルシウム制酸薬の大量摂取歴に加えて,高カルシウム血症や代謝性アルカローシス,ときに低カルシウム尿症を伴う高窒素血症を合併していることにより認識される。カルシウムおよびアルカリの摂取停止時に血清カルシウム濃度が正常範囲内に迅速に回復すれば診断は確定するが,腎石灰化症が存在すれば腎機能不全が持続する場合もある。循環血液中のPTHは通常抑制されている。

その他の原因

ビタミンD中毒は25(OH)D濃度の高値を特徴とする。サルコイドーシスやその他の肉芽腫性疾患,一部のリンパ腫による高カルシウム血症では,1,25(OH)2Dの血清中濃度が高値を示すことがある。

高カルシウム血症の治療

  • 血清カルシウムが11.5mg/dL(2.9mmol/L)未満で,症状が軽度で腎疾患がない場合,リンの経口投与

  • 血清カルシウムが上昇しているが18mg/dL(4.5mmol/L)未満の場合,より迅速な是正のため,生理食塩水とフロセミドの静脈内投与

  • 血清カルシウムが11.5~18mg/dL(3.7~5.8mmol/L)および/または中等度の症状がある場合,ビスホスホネートまたはその他のカルシウム降下薬

  • 血清カルシウムが18mg/dL(5.8mmol/L)を超える場合,血液透析

  • 中等度の進行性原発性副甲状腺機能亢進症のほか,ときに軽症の副甲状腺亢進症にも,副甲状腺の外科的切除

  • 二次性副甲状腺機能亢進症の場合,リンの制限および吸着剤のほか,ときにカルシトリオール

血清カルシウムを低下させるには,主に以下の4つ方法がとられる:

  • 腸管からのカルシウム吸収の抑制

  • 尿中カルシウム排泄量の増加

  • 骨吸収の抑制

  • 透析による過剰なカルシウムの除去

どの治療を用いるかは高カルシウム血症の程度と原因の両方に依存する。食塩水による体液量補充が治療の要である。

軽度の高カルシウム血症

軽度の高カルシウム血症(血清カルシウム濃度 < 11.5mg/dL[< 2.9mmol/L])で症状が軽いまたはない場合は,治療は確定診断まで延期する。診断後に基礎疾患を治療する。

症状が顕著であれば,血清カルシウム濃度の低下を目標とした治療が必要である。経口リンを用いてもよい。リンは食事とともに服用すると,一部のカルシウムと結合して,その吸収を妨げる。開始量はリン元素250mg(ナトリウム塩またはカリウム塩として),1日4回である。下痢が生じない限り,必要に応じて500mg,1日4回まで増量してもよい。

別の治療に,等張食塩水およびループ利尿薬を投与して尿中カルシウム排泄量を増加させる方法がある。有意な高カルシウム血症がある患者では,ほぼ全例で循環血液量が低下しているため,有意な心不全がない限り,まずは等張食塩水1~2Lを2~4時間かけて投与する。約250mL/時の尿量を維持する(1時間毎にモニタリング)ために,必要に応じてフロセミド20~40mgを2~4時間毎に静注する。体液量の減少を回避するための注意が必要である。 低カリウム血症 低カリウム血症 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む および 低マグネシウム血症 低マグネシウム血症 低マグネシウム血症とは,血清マグネシウム濃度が1.8mg/dL(0.70mmol/L)未満となった状態である。原因には,マグネシウムの摂取不足および吸収不足や,高カルシウム血症またはフロセミドなどの薬物による排泄増加がある。臨床的特徴はしばしば随伴する低カリウム血症や低カルシウム血症によるものであり,嗜眠,振戦,テタニー,痙攣,不整脈がある。治療はマグネシウムの補充による。 (... さらに読む を回避するため,治療中は4時間毎にカリウムおよびマグネシウムをモニタリングし,必要に応じて静脈内投与で補充する。2~4時間で血清カルシウム濃度は低下し始め,24時間以内にほぼ正常範囲まで下がる。

中等度の高カルシウム血症

中等度の高カルシウム血症(血清カルシウム濃度が11.5mg/dL[> 2.88mmol/L]を上回るが18mg/dL[4.51mmol/L]未満である)は,軽度の高カルシウム血症と同様に等張食塩水やループ利尿薬で治療するか,原因によっては骨吸収を抑える薬剤(通常はビスホスホネート,カルシトニン,または頻度は低いがプリカマイシンもしくは硝酸ガリウム),コルチコステロイド,またはクロロキンを用いて治療する。

ビスホスホネートは破骨細胞を阻害する。これらは通常,がんによる高カルシウム血症に対する第1選択薬である。1回量を4~8mgとしてゾレドロン酸を静脈内投与することがあり,これは平均で40日間を上回る期間にわたって血清カルシウム濃度を効果的に低下させる。

がんによる高カルシウム血症には1回量を30~90mgとしてパミドロン酸を静注することがあり,再投与は7日後以降にのみ行う。これにより血清カルシウム濃度が最大2週間低下する。

1回量を4~6mgとしたイバンドロン酸の静脈内投与も,がん関連の高カルシウム血症に使用できる;約14日間にわたって効果的である。

パジェット病およびがんによる高カルシウム血症の治療には,エチドロン酸7.5mg/kg,1日1回を3~5日間静注する。維持量は20mg/kg,1日1回経口投与であるが,糸球体濾過量が低値の場合は減量しなければならない。

転移性骨疾患または骨髄腫に関連する高カルシウム血症の治療を目的とした,ビスホスホネートの静脈内投与の反復使用は, 顎骨壊死 顎骨壊死(ONJ) 顎骨壊死は,下顎骨または上顎骨の露出を伴う口腔病変である。疼痛が生じることもあれば,無症状のこともある。診断は,骨の露出が8週間以上みられることによる。治療は,限局的掻爬,抗菌薬,および含嗽液による。 顎骨壊死(ONJ)には一致して受け入れられている定義または病因はないが,一般的には下顎骨または上顎骨の露出を伴う口腔病変であると考えられている。 顎骨壊死は自然発生することもあれば,... さらに読む との関連が報告されている。この所見がゾレドロン酸でより一般的に認められる可能性を示唆する報告もある。ゾレドロン酸の投与を受けた患者に腎毒性が報告されている。経口ビスホスホネート(例,アレンドロン酸またはリセドロン酸)は,カルシウムを正常範囲内に維持するために投与できるが,高カルシウム血症の迅速な治療には通常使用されない。

デノスマブは,破骨細胞の活性を阻害するモノクローナル抗体で,ビスホスホネートに反応しないがん関連の高カルシウム血症に対して使用でき,120mgを4週間毎に皮下注射し,最初の1カ月の8日目と15日目に追加投与を行う。低カルシウム血症を避けるため,必要に応じてカルシウムおよびビタミンDを投与する。

カルシトニン(サイロカルシトニン)は,正常では高カルシウム血症に反応して甲状腺のC細胞から分泌される速効性ペプチドホルモンである。カルシトニンは,破骨細胞活性を阻害することによって血清カルシウム濃度を低下させると推定される。用量4~8IU/kgのサケカルシトニンを12時間毎に皮下投与する方法が安全である。カルシトニンは数時間以内に血清カルシウムの値を1~2mg/dL低下させる。タキフィラキシーが生じるため(約48時間後が多い)作用持続時間が短く,40%以上の患者では反応がみられないことから,がん関連の高カルシウム血症の治療におけるその有用性は限られている。しかし,サケカルシトニンおよびプレドニゾンの併用によって,一部のがん患者では数カ月間にわたって血清カルシウム濃度を制御できる場合がある。カルシトニンが作用しなくなれば,2日間中止し(その間プレドニゾンは継続)その後再開する。

コルチコステロイド(例,プレドニゾン20~40mg,1日1回経口)は,カルシトリオールの産生,ひいてはカルシウムの腸管吸収を抑制することにより,ビタミンD中毒,乳児特発性高カルシウム血症,およびサルコイドーシスを有する患者の大半において,補助療法として高カルシウム血症のコントロールに役立つ可能性がある。骨髄腫,リンパ腫,白血病,または転移性のがん患者の一部では,プレドニゾン40~60mg,1日1回が必要となる。しかし,このような患者の50%超がコルチコステロイドに反応せず,反応がみられる場合でも数日を要することから,通常は他の治療が必要になる。

リン酸クロロキン500mg,1日1回の経口投与は,1,25(OH)2D合成を阻害し,サルコイドーシス患者の血清カルシウム濃度を低下させる。用量依存性の網膜損傷を検出するためにルーチンの眼科検査(例,網膜検査を6~12カ月毎)を必ず実施する。

プリカマイシン25μg/kgを5%ブドウ糖液50mLに溶解し,1日1回,4~6時間かけて静注する方法もがんによる高カルシウム血症患者で効果的であるが,他の治療の方が安全であるため,使用されることはまれである。

硝酸ガリウムもがんによる高カルシウム血症に効果的であるが,腎毒性があり,臨床での使用経験が限られているという理由でまれにしか使用されない。

重度の高カルシウム血症

リン静注(リン酸二ナトリウムまたはリン酸一カリウム)は,高カルシウム血症が生命を脅かすもので他の方法に反応しない場合と短期血液透析が不可能な場合にのみ用いるべきである。24時間に1gを超えて静注すべきではなく,通常は2日間で1~2回分投与すれば,血清カルシウム濃度が10~15日間にわたり低下する。軟部組織の石灰化や急性腎不全が生じることがある。(注:硫酸ナトリウムの静注は,リン静注より危険性が高く,効果は小さいため,用いるべきではない。)

副甲状腺機能亢進症

副甲状腺機能亢進症の治療は重症度に依存する。

手術適応のない無症候性原発性副甲状腺機能亢進症患者は,血清カルシウム濃度を確実に低値に維持する方法により保存的に治療できる。患者は活動性を維持し(すなわち,高カルシウム血症を増悪させうる不動状態を回避し),低カルシウム食を摂り,水分を大量に摂取して腎結石症の可能性を最小限に抑え,サイアザイド系利尿薬など血清カルシウム濃度を上昇させうる薬剤の使用を避けるべきである。血清カルシウム濃度および腎機能を6カ月毎にモニタリングする。骨密度は12カ月毎にモニタリングする。ただし,無症候性の骨疾患,高血圧,および余命が懸念事項である。骨粗鬆症はビスホスホネートにより治療する。

症候性または進行性の副甲状腺機能亢進症がみられる患者には,手術が適応となる。無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症患者の手術適応については議論がある。副甲状腺摘出術は,骨密度を上昇させ,QOL関連の症状にわずかな影響を与えうるが,大半の患者では生化学的異常または骨密度に進行性の悪化はみられない。それでもなお,高血圧および余命に関する懸念が残る。以下の状況では,多くの専門家が手術を推奨する:

  • 血清カルシウムが正常値上限を1mg/dL(0.25mmol/L)上回っている

  • 400mg/日(10mmol/日)を上回るカルシウム尿が認められる

  • クレアチニンクリアランスが60mL/min未満

  • 股関節,腰椎,または橈骨の最大骨密度が対照より2.5標準偏差低い(Tスコア =2.5)

  • 年齢が50歳未満である

  • フォローアップのアドヒアランス不良が見込まれる

手術は腺腫様の副甲状腺の切除から成る。副甲状腺ホルモン濃度は,異常が推定される副甲状腺の切除の前後に,迅速測定を用いて測定できる。腺腫の切除から10分後に50%以上低下した場合は,治療が成功したことを意味する。複数の副甲状腺病変がみられる患者の場合は,いくつかの副甲状腺を切除するとともに,しばしば,副甲状腺機能低下症を予防するため,正常に見える副甲状腺の小片を胸鎖乳突筋の筋腹内または前腕の皮下に移植する。持続性副甲状腺機能低下症が発症した場合に後日自家移植ができるように,副甲状腺組織の凍結保存もときに実施される。

副甲状腺機能亢進症が軽度であれば,血清カルシウム濃度は術後24~48時間以内に正常範囲の直下まで低下する;血清カルシウム濃度をモニタリングする必要がある。重度の嚢胞性線維性骨炎(osteitis fibrosa cystica)患者では,術前の数日間にカルシウム元素10~20gが投与されない限りは遷延性で症候性の低カルシウム血症が術後に生じうる。術前にカルシウムを投与しても,骨カルシウムが不足している間は大量の カルシウムやビタミンDが必要になる可能性がある 治療 低カルシウム血症とは,血漿タンパク質濃度が正常範囲内にある場合に血清総カルシウム濃度が8.8mg/dL(2.20mmol/L)未満であること,または血清イオン化カルシウム濃度が4.7mg/dL(1.17mmol/L)未満となった状態である。原因には,副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏症,および腎疾患がある。症状としては,錯感覚,テタニーのほか,重度であれば痙攣,脳症,心不全などがある。診断には,血清アルブミン値で補正された血清カルシウム... さらに読む

原発性副甲状腺機能亢進症に伴う重度の高カルシウム血症があり,副甲状腺摘出術を受けることができない患者では,薬物療法が適応となる。カルシウム受容体作動薬のシナカルセトは,Ca感知受容体の細胞外カルシウムに対する感度を高めることから,副甲状腺ホルモンおよびカルシウムの値を下げる可能性がある。

腎不全患者での副甲状腺機能亢進症は通常二次性である。治療に使用する方法は予防にも使用できる。目標の1つは高リン血症の予防である。治療法は,リンの摂取制限と炭酸カルシウムまたはセベラマーなどのリン吸着剤の組合せである。リン吸着剤を使用してもリンの摂取制限は必要である。アルミニウム含有化合物は,リン濃度を制限するために使用されているが,重度の骨軟化症を来す骨へのアルミニウム蓄積を防ぐために避けるべきである(特に長期透析患者において)。ビタミンDの投与はリンの吸収を促進し,高カルシウム血症に寄与する恐れがあるため,腎不全では有害となる恐れがある;投与する場合には,カルシウムおよびリンの頻回のモニタリングが必要である。治療は以下のいずれかが認められる患者に制限すべきである:

  • 症候性骨軟化症(アルミニウムと無関係なもの)

  • 二次性副甲状腺機能亢進症

  • 副甲状腺摘出術後の低カルシウム血症

二次性副甲状腺機能亢進症を抑制するために経口カルシトリオールが経口カルシウムとともにしばしば投与されるが,末期腎臓病患者での成績は様々である。非経口投与用のカルシトリオール,またはパリカルシトールなどのビタミンD誘導体の方がこのような患者の二次性副甲状腺機能亢進症の予防に優れているが,これは1,25(OH)2Dの血清中濃度がより高くなり,PTHの放出が直接抑制されるからである。単純性骨軟化症はカルシトリオール0.25~0.5μg,1日1回経口投与に反応しうるが,副甲状腺摘出術後の低カルシウム血症の是正にはカルシトリオール2μg,1日1回経口投与,および2g/日以上のカルシウム元素の長期投与を要する場合がある。

カルシウム受容体作動薬であるシナカルセトは,血清カルシウムの上昇を伴わない透析患者において,副甲状腺細胞上のカルシウム感知受容体のセットポイントを調節し,PTH濃度を低下させる。アルミニウム含有リン吸着剤の大量摂取に起因する骨軟化症がみられる患者では,カルシトリオールの投与により骨病変が抑制される前に,デフェロキサミンを用いてアルミニウムを除去する必要がある。

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症

FHHは組織学的に異常な副甲状腺組織に起因するが,副甲状腺亜全摘術に対する反応は満足のいくものではない。顕性の臨床症状はまれであるため,ルーチンな薬物療法の適応はない。

高カルシウム血症の要点

  • 高カルシウム血症の原因で最も頻度の高いものは,副甲状腺機能亢進症とがんである。

  • 臨床的特徴としては,多尿,便秘,食欲不振,および腎結石を伴う高カルシウム尿症などがあり,カルシウム濃度が高い患者は,筋力低下,錯乱,および昏睡を呈することがある。

  • 胸部X線を施行する;電解質,血中尿素窒素,クレアチニン,イオン化カルシウム,リン,副甲状腺ホルモン,およびアルカリホスファターゼを測定し,血清タンパク質免疫電気泳動を行う。

  • 軽度の高カルシウム血症(血清カルシウムが11.5mg/dL[2.9mmol/L]未満)は,原因の治療に加え,経口リンまたは等張食塩水とループ利尿薬の併用により治療する。

  • 中等度の高カルシウム血症(血清カルシウムが11.5mg/dL[2.9mmol/L]を上回るが18mg/dL[4.5mmol/L]未満である)では,ビスホスホネート,コルチコステロイドおよびときにカルシトニンを追加する。

  • 重度の高カルシウム血症では,血液透析が必要になる場合がある。

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