メルクマニュアル18版 日本語版
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脱水症

脱水症とは,体内水分(通常,電解質も)が相当量欠乏している状態のことである。症状および徴候として,渇き,嗜眠,粘膜の乾燥,尿排出量の減少,および,脱水の程度が進行するにつれて,頻脈,低血圧,ショックなどが現れる。診断は病歴および身体診察による。治療では,経口または静注で水分および電解質を補充する。

脱水症(通常,下痢に起因する)は,世界中で乳児および幼児における罹病および死亡の主要な原因であり続けている。乳児は特に脱水症の悪影響を受けやすく,その理由は,基本の水分要求量がより多いこと(代謝率がより高いことに起因),蒸散による喪失がより多いこと(容量に対する体表面積の比が大きいことに起因),および渇きを伝えられない,もしくは水を求められないことである。

病因と病態生理

脱水症は,水分喪失量の増加,水分摂取量の減少,またはその両方によって起こる。

水分喪失量増加の最も一般的な源は消化管であり,嘔吐,下痢,またはその両方(例,胃腸炎)による。その他の喪失源は,腎臓(例,糖尿病性ケトアシドーシス),皮膚(例,発汗過剰,熱傷),およびサードスペースへの喪失(例,腸閉塞状態の腸管腔への喪失)である。喪失される水分はどのタイプでも様々な濃度の電解質を含んでいるため,水分喪失は必ず電解質の喪失を伴う。

水分摂取量の減少は,あらゆる種類の重篤な疾患でよくみられるものであり,嘔吐があるときや気温が高い間は,特に問題となる。また,育児放棄の証拠ともなりうる。

症状,徴候,診断

症状と徴候は欠乏の程度によって様々で(脱水症および輸液療法: 脱水症の臨床的相関表 1: 表参照),血清Na濃度の影響を受ける:血行動態所見は低ナトリウム血症では強められ,高ナトリウム血症では弱められる。一般に,血行動態の変化を伴わない脱水症は軽度(乳児では体重の約5%,青少年では約3%)とみなされる;頻脈は中等度の脱水症(乳児では体重の約10%,青少年では約6%)を明らかにする;灌流障害を伴う低血圧は重度の脱水症(乳児では体重の約15%,青少年では約9%)を明らかにする。急性脱水症に関するより正確な判定基準は,体重の変化であり,短期間の体重減少で1日当たり1%を超える減少は,全て水分の欠乏を示すものとみなされる。しかしながら,この判定法の場合は,罹病前かつ最近の正確な体重を知っていなければならない。しかし親による推定値では通常不適当である(10kgの小児における1kgの誤差は,脱水の割合に換算すると,脱水の軽度と重度の差に等しい10%の誤差を生じさせる)。

表 1

脱水症の臨床的相関

重症度

水分欠乏量,単位mL/kg(体重に対する%)*

徴候

乳児

青少年

軽度

50 (5%)

30 (3%)

頬粘膜のわずかな乾燥,喉の渇きの高まり,尿排出量のわずかな減少

中等度

100 (10%)

50-60 (5-6%)

頬粘膜の乾燥,頻脈,尿が少量か全く出ない,嗜眠,眼および泉門の陥没,皮膚ツルゴールの低下

重度

150 (15%)

70-90 (5-9%)

中等度と同様の徴候に加えて,速くて弱い脈;涙液欠乏,チアノーゼ;呼吸促迫;毛細血管再充満の遅延;低血圧;斑状の皮膚;昏睡

*乳児から青少年の間の小児に対する標準的な推定値は,確立されていない。この年齢範囲の小児に対して,医師は乳児の値と青少年の値の間で臨床的評価に基づいて値を推定しなければならない。

臨床検査は一般的に中等度または重度の患児に用いられ,そうした患児において電解質異常(例,高ナトリウム血症,低カリウム血症,代謝性アシドーシス)は,より一般的である。検査結果の他の異常値には,血液濃縮による相対的赤血球増加,BUNの上昇,尿比重の増加などがある。

治療

治療は,体液蘇生での必要量,現在の欠乏量,進行中の喪失の量,維持必要量を個別に考慮するアプローチが最良である。用量(例,輸液の量),組成,および補充速度は,それぞれに対して異なる場合がある。治療パラメータを決定するために用いる公式および推定値で,開始時の数値が得られるが,治療には,バイタルサイン,臨床的肉眼所見,尿排出量および尿比重,体重,およびときとして血清電解質レベルの継続モニタリングが必要となる。重度の脱水症(例,循環障害の証拠)を有する小児には,静注輸液を行うべきである。飲めないもしくは飲みたがらない患児,または反復性の嘔吐がある患児には,静注の補液,経鼻胃管,またはときとして経口で少量の水分を頻繁に繰り返し与えて(脱水症および輸液療法: 溶液を参照 ),水分を補充する。

蘇生術: 低灌流の徴候を有する患児には,等張液(例,0.9%生理食塩水または乳酸リンゲル液)のボーラス投与による輸液蘇生術を行うべきである。血圧および灌流を回復させるために,十分な循環体液量を回復することを目的とする。蘇生段階では,中等度または重度の脱水症を体重の約8%の欠乏にまで回復させるべきである。脱水症が中等度の場合,20mL/kg(体重の2%)の静注補液を20〜30分かけて投与し,10%の欠乏を8%までに減らす。脱水症が重度の場合,20mL/kg(体重の2%)のボーラス投与2〜3回が必要となるだろう。輸液蘇生段階のエンドポイントは,末梢循環および血圧の回復,ならびに上昇した心拍数の正常値への回復である。

欠乏量の補充: 総水分欠乏量は,前述の方法で臨床的に推定される。Na欠乏量は一般的に水分欠乏1L当たり約80mEqで,K欠乏量は一般的に水分欠乏1L当たり約30mEqである。中等度または重度の脱水症は,蘇生段階で体重の約8%の欠乏にまで軽減させておくべきであり,残りの欠乏量は10mL/kg(体重の1%)/時間の8時間投与によって補充可能である。0.45%生理食塩水は1L当たり77mEqのNaを含有するので,この輸液の選択は一般的に適切である。Kの補充(通常,補液1Lにつき20〜40mEqのKを添加することによる)は,十分な尿排出量が確立するまでは,開始すべきでない。

重大な高ナトリウム血症(例,血清Naが160mEq/L以上)または重大な低ナトリウム血症(例,血清Naが120mEq/L未満)を伴う脱水症は,合併症を回避するための特別な考慮を必要とする(新生児における代謝,電解質,および中毒性障害: 治療を参照 )。

進行中の喪失: 進行中の喪失の量は直接的に測定(例,経鼻胃管,カテーテル,糞便の測定)するか,または推定(例,下痢便1回につき10mL/kg)する。補充は,喪失の急速さおよび程度に対して適切な時間間隔で,喪失量と同量の補充を行うべきである。進行中の電解質喪失の量は,喪失源または原因によって推定できる(脱水症および輸液療法: 原因から推定される電解質欠乏量表 2: 表参照)。尿による電解質の喪失量は,水分摂取量および疾患の経過に伴って変動するが,欠乏が補充療法に対して反応しない場合は,測定することがある。

表 2

原因から推定される電解質欠乏量

原因

ナトリウム(mEq/L)

カリウム(mEq/L)

絶食および口渇

50

10

下痢

   

等張性脱水症

80

80

低張性脱水症

100

80

高張性脱水症

20

10

幽門狭窄症

80

100

糖尿病性ケトアシドーシス

80

50

維持必要量: 基礎代謝による水分および電解質の必要量も考慮に入れなければならない。維持必要量は,代謝率に関連し,体温の影響を受ける。不感喪失(皮膚と気道[2:1の割合]からの蒸発による自由水の喪失)は,維持必要量の約1/2を占める。

用量を正確に決定しなければならない状況はまれだが,一般的に腎臓が尿を著しく濃縮または希釈せずに済む量の水分投与を目指すべきである。最も一般的な推定法は,患児の体重を用いて代謝による消費量(kcal/24時間)を算出するが,その値は水分必要量(mL/24時間)に相当する(脱水症および輸液療法: 維持輸液必要量を算出するために用いられる標準的な基礎代謝率*表 3: 表参照)。簡単な計算法(ホリディ-セガールの式)は3段階の体重分類を用いる(脱水症および輸液療法: 体重毎の維持輸液必要量に対するホリディセガールの式表 4: 表参照)。ノモグラムから得る体表面積(脱水症および輸液療法: 小児の体表面積を推定するためのノモグラフ。図 1: イラスト参照)も利用でき,体表面積1m2につき24時間で1500〜2000mLをもとに算出できる。これより複雑な計算が必要となることはほとんどない。これらの用量は個別の同時注入として投与するため,欠乏量および進行中の喪失に対する補充注入の速度は,維持注入の速度に依存せずに設定および調節できる。

表 3

維持輸液必要量を算出するために用いられる標準的な基礎代謝率*

体重(kg)

kcal/24時間† ‡

男児

男女共通

女児

3

 

140

 

5

 

270

 

7

 

400

 

9

 

500

 

11

 

600

 

13

 

650

 

15

 

710

 

17

 

780

 

19

 

830

 

21

 

880

 

25

1020

 

960

29

1120

 

1040

33

1210

 

1120

37

1300

 

1190

41

1350

 

1260

45

1410

 

1320

49

1470

 

1380

53

1530

 

1440

57

1590

 

1500

61

1640

 

1560

*代謝による消費量(kcal/24時間)は維持輸液必要量(mL/24時間)に相当する。

†基礎代謝率(一般的な代謝率,kcal/24時間)に,直腸温が37.8° Cを超える場合は1° Cにつき基礎代謝率の12%を足し,37.8° Cを下回る場合は引く。

‡日常的な活動に対して,基礎代謝率にその0〜30%を足す;低代謝状態または代謝亢進状態は大幅な調節を必要とする。

表 4

体重毎の維持輸液必要量に対するホリディセガールの式

体重

水分

電解質(mEq,水分1Lにつき)

mL/日

mL/時間

0-10kg

100/kg

4/kg

Na 30, K 20

11-20kg

1000+50(10kgを超える1kgにつき)

40+2(10kgを超える1kgにつき)

Na 30, K 20

> 20 kg

1500+20(20kgを超える1kgにつき)

60+1(20kgを超える1kgにつき)

Na 30, K 20

図 1

小児の体表面積を推定するためのノモグラフ。

小児の体表面積を推定するためのノモグラフ。

(Adapted from Geigy Scientific Tables, ed. 8, vol. 1, edited by C Lentner. Basle, Switzerland, Ciba-Geigy Ltd., 1981, pp. 226–227; used with permission.)

基礎代謝率推定値は,発熱(37.8°Cを超えると1℃につき基礎推定値の12%ずつ増加),低体温,および活動度(例,甲状腺機能亢進またはてんかん重積状態で増加し,昏睡で減少する)から影響を受ける。

組成は,欠乏量および進行中の喪失を補充するために用いられる溶液とは異なる。患児が必要とするNaは3mEq/100kcal/24時間(3mEq/100mL/24時間),Kは2mEq/100kcal/24時間(2mEq/100mL/24時間)である。この必要量は,0.2〜0.3%生理食塩水とKを20mEq/L含有する 5%ブドウ糖溶液(5%D/W)を用いることで達成される。その他の電解質(例,Mg,Ca)はルーチンでは加えない。欠乏量および進行中の喪失を,維持輸液の用量や速度を上昇させることのみで補充することは,不適切である。

実施例

ある生後7カ月の乳児が3日間下痢をして,体重が10kgから9kgに減少した。この乳児は現在3時間毎に1回下痢をしており,水分を取りたがらない。粘膜の乾燥,皮膚ツルゴールの低下,著しく減少した尿量,および正常な血圧と毛細血管再充満を伴う頻脈の臨床所見から,10%の水分欠乏が示唆される。直腸温は37° C;血清Naは136mEq/L;Kは4mEq/L;Clは104mEq/L;HCO3は20mEq/Lである。

輸液量は,欠乏量,進行中の喪失の量,および維持必要量によって推定する。

体重を1kg減少させる総水分欠乏量は1Lである。

進行中の下痢による喪失は,生じたときに,オムツの重さを乳児につける前と下痢の後に量ることによって測定する。

体重に基づくホリディ-セガールの式による基準となる維持必要量は,100 mL/kg×10kg =1000mL/日=1000mL/24時間または40mL/時である。

下痢による電解質の喪失量脱水症および輸液療法: 原因から推定される電解質欠乏量表 2: 表参照)は,推定でNaが80mEqでKが80mEqである。

手技

蘇生術: この患児には,最初に乳酸リンゲル液200mL(20mL/kg ×10kg)のボーラスを30分かけて投与する。これは,推定されるNa欠乏量80mEqのうち26mEqを補充する。

欠乏量: 残りの水分欠乏量は800mL(最初の欠乏量1000mLから蘇生術での200mLを引く),残りのNa欠乏量は54mEq(8026mEq)である。これは,5%ブドウ糖溶液/0.45%生理食塩水として100mL/時で8時間かけて投与する。これにより,Na欠乏量は補充される(0.8L× Na 77mEq/L=Na 62 mEq)。尿の排出量が確立されれば,Kを30mEq/Lの濃度で加える(安全上の理由で,K欠乏量の完全な補充は急速には試みない)。

進行中の喪失: 5%ブドウ糖溶液/0.45%生理食塩水は,進行中の喪失の補充のためにも用いる;投与量および速度は下痢の量によって決定する。

維持輸液: 5%ブドウ糖溶液/0.2%生理食塩水は40mL/時間の速度で投与し,尿の排出量が確立されればKを20mEq/L加える。他の方法では,この欠乏量は最初の8時間とそれに続く16時間(60mL/時)の終日の維持輸液によって補充できる;24時間の維持輸液のうち16時間の投与は,通常の維持速度(40mL/時)の1.5倍の速度まで正確に減少させるが,これにより同時の注入(2つの速度制御ポンプを必要とする)を行わずに済む。

最終改訂月 2007年5月

最終更新月 2005年11月

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