経口補液療法は,静注療法に比べて効果的で安全,便利,かつ安価である。経口補液療法は米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)およびWHOにより推奨されており,軽度から中等度の脱水のある経口摂取が可能な小児では,頻回の嘔吐または基礎疾患(例,急性腹症, 腸閉塞 腸閉塞 腸閉塞は,腸の閉塞を引き起こす病態によって,腸内容の腸管内通過の有意な機械的障害または完全停止が引き起こされた状態である。症状としては痙攣痛,嘔吐,重度で持続性の便秘,放屁の消失などがある。診断は臨床的に行い,腹部X線検査により確定する。治療は,輸液蘇生および経鼻胃管吸引により行い,完全閉塞のほとんどの症例で手術を施行する。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 機械的閉塞は,小腸閉塞(十二指腸を含む)と大腸閉塞に分類される。閉塞は,部分または... さらに読む )によって不可能でなければ,経口補液療法を用いるべきである。
(小児における脱水 小児における脱水 脱水とは体内水分量が著しく欠乏している状態のことであり,程度は様々であるが電解質も欠乏している状態である。症状および徴候として,口渇,嗜眠,粘膜の乾燥,尿量の減少,および,脱水の程度が進行するにつれて,頻脈,低血圧,ショックなどが現れる。診断は病歴と身体診察に基づく。治療は,経口または静注での水分および電解質補充により行う。... さらに読む も参照のこと。)
溶液
経口補水液(ORS)は,以下を含有するものを使用すべきである:
複合炭水化物または2%ブドウ糖
50~90mEq/L(50~90mmol/L)のナトリウム
スポーツドリンク,炭酸飲料,ジュース,および類似の飲み物はこれらの基準を満たさないので用いるべきではない。一般的にこうした飲料はナトリウム含有量が少なすぎ糖質が多すぎるため,ナトリウム-ブドウ糖共輸送を効果的に利用できず,過量の糖質が浸透圧に与える影響により,さらなる水分喪失を引き起こす可能性がある。腸管のナトリウム-ブドウ糖共輸送は,ナトリウム:ブドウ糖比が1:1の場合最適となる。
経口補水液は世界保健機関(WHO)によって推奨されており,米国内では処方箋なしで広く入手可能である。ほとんどの溶液は粉末として販売され,水道水に溶かして用いる。1包のORSを1Lの水に溶解すると,以下を含む溶液(mmol/L)ができる:
標準のWHO-ORS:ナトリウム 90,カリウム 20,塩素 80,クエン酸 10,ブドウ糖 111
容量オスモル濃度を低下させたWHO-ORS:ナトリウム 75,カリウム 20,塩素65,クエン酸 10,ブドウ糖 75
この溶液は,水1Lを食塩 3.5g,クエン酸三ナトリウム 2.9g(または炭酸水素ナトリウム 2.5g),塩化カリウム 1.5g,ブドウ糖 20gに加えることによって,手作りすることもできる。
ORSは,年齢,原因,電解質平衡異常の種類(低ナトリウム血症 低ナトリウム血症 低ナトリウム血症とは,血清ナトリウム濃度が136mEq/L(136mmol/L)未満に低下することであり,溶質に対する水分の過剰が原因である。一般的な原因としては,利尿薬の使用,下痢,心不全,肝疾患,腎疾患,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)などがある。特に急性低ナトリウム血症では,臨床症状は主として神経学的なものであり(浸透圧によって水分が脳細胞内に移動し,浮腫を引き起こすことが原因),頭痛,錯乱,および昏迷などがみられる;... さらに読む , 高ナトリウム血症 高ナトリウム血症 高ナトリウム血症は,血清ナトリウム濃度が145mEq/L(145mmol/L)を上回る状態と定義される。体内の総ナトリウム量に対して体内総水分量が不足していることを意味し,水分摂取量が水分喪失量よりも少ないことにより引き起こされる。主な症状は口渇である;他の臨床症状は主に神経症状(浸透圧によって水が脳細胞外へ移動することによる)で,錯乱,... さらに読む ,isonatremia)を問わず,腎臓が十分に機能している限り,脱水の患児に効果的である。
米国では,混合済みの市販補水液が大半の薬局やスーパーマーケットで容易に購入できる。このような補水液はナトリウム:ブドウ糖比が約1:3(45mEq/L[45mmol/L]のナトリウム対140mmol/Lのブドウ糖)であるものの効果的である。
投与
一般に,軽度の脱水には4時間かけて50mL/kgを,中等度の脱水には100mL/kgを投与する。1回の下痢に対して10mL/kg(最大240mL)を追加する。4時間後に患児を再評価する。脱水の徴候が持続する場合は同量の投与を繰り返す。 コレラ 補液 コレラは,グラム陰性細菌であるコレラ菌(Vibrio cholerae)を原因菌とする小腸の急性感染症であり,コレラ菌が分泌する毒素によって大量の水様性下痢が引き起こされ,それにより脱水,乏尿,および循環虚脱を来す。感染は典型的には汚染された水または魚介類を介して発生する。診断は培養または血清学的検査による。治療は積極的な水分および電解質補給とドキシサイクリンの投与である。... さらに読む の患児は,1日に大量の水分を必要とする。
嘔吐は典型的には時間がたてば止まるため,通常,嘔吐があっても経口補水を諦めてはならない(腸閉塞や経口補水のその他の禁忌がある場合を除く)。少量を頻回に投与し,5mLの5分毎の投与から始めて,耐えられれば漸増する。4時間で必要と算出された量を4回に分ける。この4回分をさらに12回の少量に分け,1時間の間に5分毎に与え,必要であれば注射器を用いる。
下痢の患児では,経口摂取がしばしば下痢便を引き起こすため,同量をさらに少量に分けて与えるべきである。
一旦欠乏量が補充されれば,ナトリウム含有量のより少ない経口維持溶液を使用すべきである。脱水が回復し嘔吐がなければすぐに,小児は年齢に応じた食事を摂取すべきである。乳児ならば母乳または人工乳を再開してもよい。