思春期遅発は,性的成熟が想定されている時期に起こらないことである。診断は,性腺ホルモン(テストステロンおよびエストラジオール),黄体形成ホルモン,卵胞刺激ホルモンの測定による。治療が必要な場合,通常は特定のホルモンの補充が行われる。
(男児の思春期,女児の思春期,体質性の思春期遅発も参照のこと。)
思春期遅発は,体質的遅れに起因することがあり,成長遅滞の家族歴を伴う青年にしばしば起こる。そのような小児はしばしば「おくて(late bloomer)」と呼ばれる。思春期の成長速度は正常であるが,骨成熟および青年期の成長スパートに遅れがみられる;性的成熟は遅滞するが正常である。
その他の原因としては,遺伝性疾患(女児のターナー症候群,男児のクラインフェルター症候群),中枢神経系疾患(例,ゴナドトロピン分泌を低下させる視床下部または下垂体の腫瘍),中枢神経系への放射線照射,特定の慢性疾患(例,コントロール不良の糖尿病,炎症性腸疾患,腎疾患,嚢胞性線維症),カルマン症候群,低栄養/摂食障害,過剰な身体活動(特に女児)などがある(1)。
総論の参考文献
1.Howard SR, Dunkel L: The genetic basis of delayed puberty.Neuroendocrinology 106(3):283–291, 2018. doi: 10.1159/000481569
症状と徴候
青年は同輩と比べて著しく背が低く,からかわれたりいじめられたりすることがあるため,社会的な問題に対処する上での助けがしばしば必要になる。一般に青年は同輩との違いを気に病むが,男児は女児と比べて,低身長と思春期遅発に起因する精神的ストレスおよび羞恥を感じる可能性がより高いようである。
思春期遅発の考えられる原因の臨床像
診断
臨床基準
テストステロンまたはエストラジオール,黄体形成ホルモン(LH),および卵胞刺激ホルモン(FSH)の測定
画像検査
遺伝子検査
思春期遅発の初回評価では,思春期発達,栄養状態,および成長に関する徹底的な病歴聴取と身体診察を行うべきである。所見に応じて,成長の遅れのその他の原因について以下のような臨床検査を検討すべきである:
甲状腺機能低下症(例,甲状腺刺激ホルモン,サイロキシン)
腎疾患(例,電解質,クレアチニン値)
炎症性疾患および免疫疾患(例,抗組織トランスグルタミナーゼ抗体,赤沈,C反応性タンパク[CRP])
血液疾患(例,白血球分画を含む血算)
思春期遅発の基準
女児では,以下のうち1つが認められる場合,思春期遅発が診断される:
13歳までに乳房の発達がない
乳房の成長の開始から初経までに3年以上かかっている
16歳までに月経が起こらない
男児では,以下のうち1つが認められた場合,思春期遅発が診断される:
14歳までに精巣の増大がない
性器の成長の開始から完了までに5年以上かかっている
低身長,成長速度の低下,またはその両者は男女において思春期遅発を示唆することがある。多くの小児で,過去に比べて早い時期に思春期が開始していると考えられるが,思春期遅発の基準を変えるべき根拠はない。
ホルモン検査
LH,FSH,およびテストステロンまたはエストラジオール値が測定される。LHおよびFSHは下垂体から分泌されるゴナドトロピンであり,性ホルモンの産生を刺激する。LHおよびFSHの値の測定は,最も有用な初期検査である(原発性無月経の評価のアルゴリズムも参照)。
血清LHおよびFSH高値は以下を意味する:
性腺そのものの欠陥に起因する性腺機能不全(原発性性腺機能低下症 [高ゴナドトロピン性性腺機能低下症])
そのような症例では,核型分析を行い,男児ではクラインフェルター症候群,女児ではターナー症候群の有無を確認すべきである。核型が正常である場合,重度の思春期遅発がある女児では,原発性卵巣機能不全のその他の原因を調べるべきである。
低身長で思春期発達の遅れがみられる小児において,FSHおよびLH低値に加え,テストステロンおよびエストラジオール低値がみられる場合は,以下の可能性がある:
体質性の遅発
続発性性腺機能低下症(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)
現在利用できるテストステロンおよびエストラジオール値の検査では,思春期早期の値と思春期前の値を常に区別できるわけではない。体質性の思春期遅発は,男児で診断されることがより多いが,これは,青年期の男児が仲間と比べて成熟速度が遅い場合,よりストレスを感じやすく,評価のために来院する可能性が高いことが一因である。体質性の思春期遅発と低ゴナドトロピン性性腺機能低下症との鑑別は難しいことがある。慢性疾患による栄養不良のためにゴナドトロピン放出ホルモンの放出が妨げられている場合も,思春期遅発を来す場合がある。1~2コースのテストステロン短期療法への反応がない場合,永続的な低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の可能性が高まる。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は単独の場合もあれば他のホルモン欠損症を合併している場合もあるため,下垂体疾患が疑われる例では他の下垂体ホルモンの値を測定すべきである。
画像検査
成長が異常な場合は,最初にX線検査による骨年齢の評価を行うべきである。骨年齢は従来から,左手のX線検査で判定され,それによりどの程度成長の余地が残されているかを推定し,成人身長を予測することができる。
MRIによる下垂体の評価は,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の疑いがある患者において腫瘍および構造的異常を除外するために適応となることがある。
遺伝子検査
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の約3分の1は遺伝性であり,カルマン症候群が最も一般的な原因である(続発性性腺機能低下症を参照)。他の下垂体ホルモン欠損症が認められた場合,特異的な遺伝子異常が存在する可能性がある(例,PROP1)。
治療
ホルモン療法
男児に思春期発達の徴候がみられない,または14歳までに11~12歳以上の骨成熟の徴候がみられない場合,低用量テストステロンエナント酸エステルまたはシピオン酸テストステロン(testosterone cypionate)50~100mg,月1回筋注の4~6カ月コース投与を行う。このような低用量ではある程度の男性化を伴う思春期が誘発される一方で,成人身長まで伸びる潜在力も確保される。このコース終了後,治療を中止しテストステロン値を数週~数カ月後に測定する;これが思春期の値に上昇していれば,永続的な欠損ではなく一次的な欠乏であることが示唆される。この治療終了後にテストステロン値が最初の値より高くないかつ/または思春期の発達が続かない場合,低用量投与による2回目のコースを行うこともある。2つの治療コース後,内因性思春期が始まらない場合,永続的な欠損の可能性が高く,性腺機能低下症の他の原因について再評価する必要がある。永続的な性腺機能低下症の場合,テストステロンの用量を18~24カ月かけて漸増し,成人の補充用量にもっていく(小児における男性性腺機能低下症の治療を参照)。
女児では,原因に応じて異なるが,思春期を誘発するためホルモン療法が行われたり,場合によっては(例,ターナー症候群)長期的な補充が必要になる場合がある。エストロゲンの補充にはピルまたはパッチを使用し,18~24カ月かけて用量を漸増する。その後,エストロゲンとプロゲスチンを配合した経口避妊薬による長期治療に移行できる。
要点
思春期遅発は,体質性の遅れの場合もあれば,様々な遺伝性疾患および後天性疾患に起因する場合もある。
テストステロンまたはエストラジオール,黄体形成ホルモン,および卵胞刺激ホルモンを測定する。
初期評価の一環として,X線検査による骨年齢の評価を行う。
原因を診断するために下垂体画像検査および遺伝学的検査が行われることがある。
思春期誘発のため,または長期補充療法として,ホルモン療法が適応となることがある。