ライ症候群の原因は不明であるが,症例の多くは A型もしくはB型インフルエンザ インフルエンザ インフルエンザは,発熱,鼻感冒,咳嗽,頭痛,および倦怠感を引き起こす ウイルス性呼吸器感染症である。季節的な流行の際には特に高リスク患者(例,施設入所者,低年齢児と高齢者,心肺機能不全患者,または妊娠後期の妊婦)の間で死亡も起こりうる;パンデミックの間は,健康な若年患者でさえ死に至る可能性がある。診断は通常,臨床的に,また地域の疫学的パターンに基づいて行う。インフルエンザワクチンは禁忌のない6カ月以上の全ての人に毎年接種すべきである。抗... さらに読む または 水痘 水痘 水痘は,通常は小児期にみられる急性の全身感染症であり,水痘帯状疱疹ウイルス(ヒトヘルペスウイルス3型)によって引き起こされる。通常は軽度の全身症状から始まり,その後すぐに斑状疹,丘疹,小水疱,および痂皮を特徴とする皮膚病変が群発して現れる。重度の神経系またはその他の全身性合併症(例,肺炎)のリスクのある患者は,成人,新生児,および易感染性患者,または特定の基礎疾患を有する患者などである。診断は臨床的に行う。重症合併症のリスクのある患者は... さらに読む の感染に続発するようである。これらの疾病治療中にサリチル酸系薬剤(一般的にアスピリン)を使用した場合,発生リスクが35倍に上昇する。この知見により,米国では1980年代中頃以来,サリチル酸系薬剤の使用が著しく減少しており(川崎病 川崎病 川崎病は 血管炎の1つであり,乳児および1~8歳の小児に発生しやすく,ときに冠動脈を侵す。遷延する発熱,発疹,結膜炎,粘膜炎症,リンパ節腫脹を特徴とする。冠動脈瘤が発生し,破裂する,あるいは心筋梗塞を引き起こす可能性がある。診断は臨床基準により行われ,本疾患と診断されれば,心エコー検査が行われる。治療はアスピリンと免疫グロブリン静注療法である。冠動脈血栓には,線溶療法または経皮的インターベンションが必要となることがある。... さらに読む においてなど,特に適応の場合を除く),これに対応してライ症候群の発生率も,年間数百例あった症例が約2例にまで減少している。本症候群は,ほぼ例外なく18歳未満の小児に発生する。米国では,ほとんどの症例が晩秋および冬季に発生している。
本疾患はミトコンドリアの機能を障害し,脂肪酸およびカルニチンの代謝障害を引き起こす。病態生理および臨床症状は脂肪酸輸送およびミトコンドリア酸化のいくつかの遺伝性代謝疾患のものと類似している( Professional.see page 遺伝性代謝疾患に関する序論 遺伝性代謝疾患に関する序論 遺伝性代謝疾患(先天性代謝異常症とも呼ばれる)の大半は,酵素をコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされ,酵素の欠損または活性低下により,以下の結果に至る: 基質またはその代謝物の蓄積 酵素産物の欠乏 何百もの疾患が存在し,遺伝性代謝疾患の大半は個別に見ると極めてまれであるが,全体で見るとまれではない。... さらに読む )。
症状と徴候
この疾患の重症度には大きな幅があるが,特徴的な二相性を示す。初期のウイルス性の症状(上気道感染またはときに水痘)に続き,5~7日で制御不能な悪心および嘔吐,そして精神状態の突然の変化が生じる。精神状態の変化は軽度の健忘,脱力,視覚と聴覚の変化,嗜眠から見当識障害および興奮の間欠的発現まで多様であり,以下のような形で現れる深い昏睡へと急速に進展しうる:
進行性の無反応
除皮質硬直および除脳硬直
痙攣発作
筋弛緩
瞳孔の散大固定
呼吸停止
神経学的な巣症状は通常は現れない。肝腫大は症例の約40%にみられるが,黄疸はみられない。
ライ症候群の合併症
合併症としては以下のものがある:
頭蓋内圧亢進
低血圧
出血性素因(特に消化管)
呼吸機能不全
高アンモニア血症
体温調節不良
鉤ヘルニアおよび死亡
診断
臨床検査と関連のみられる臨床所見
肝生検
脳症が急性に発症し(既知の重金属や毒物曝露を除外する)肝機能障害に関連する制御不能な嘔吐を呈する小児では,ライ症候群を疑うべきである。肝生検により確定診断が可能であり(小滴性脂肪変性を認めることによる),特に散発例や2歳未満の小児において有用である。典型的な臨床所見や病歴が次のような検査所見と関連する場合にも診断が下される:肝臓のトランスアミナーゼ上昇(AST,ALTが正常値の3倍を超える),ビリルビン正常,血中アンモニア濃度上昇,プロトロンビン時間延長などである。
頭部CTまたはMRIを脳症の患児全例で行う。頭部CTまたはMRIが正常の場合, 腰椎穿刺 腰椎穿刺 腰椎穿刺は以下を目的として行われる: 頭蓋内圧と髄液組成を評価する( 様々な疾患における髄液異常の表を参照)。 治療として頭蓋内圧を低下させる(例, 特発性頭蓋内圧亢進症) 髄腔内に薬剤または 脊髄造影用の造影剤を投与する 相対的禁忌として以下のものがある: さらに読む を行うことができる。髄液所見は一般に圧の上昇を示し,白血球8~10/μL未満,タンパク質値正常である;髄液グルタミン値が上昇することがある。症例の15%,特に4歳未満の小児では低血糖および髄液の糖濃度低下が起こるが,その場合は代謝性疾患のスクリーニング検査を実施すべきである。状態は重症度に応じてI~V度に分けられる。
代謝障害の徴候には,血清アミノ酸値の上昇,酸塩基平衡障害(通常は呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスの混合した過換気),浸透圧変化,高ナトリウム血症,低カリウム血症,低リン血症などがある。
鑑別診断
昏睡および肝機能障害の鑑別診断として,以下のものが挙げられる:
場合によっては治療可能な 先天性の尿素合成異常 尿素サイクル異常症 尿素サイクル異常症は,異化状態またはタンパク質負荷状態下での高アンモニア血症を特徴とする。 他の多くの アミノ酸・有機酸代謝異常症と同様,尿素サイクル異常症とその関連疾患にも多数の病型がある( 表を参照)。 遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。 原発性尿素サイクル異常症(UCD)には,カルバモイルリン酸合成酵素(CPS)欠損症,オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症,アルギニノコハク酸合成酵素欠損症(シトル... さらに読む (例,オルニチントランスカルバミラーゼ欠損)または 脂肪酸酸化 脂肪酸・グリセロール代謝異常症の概要 脂肪酸は心臓で優先的に使用されるエネルギー源であり,長時間の労作時には骨格筋の重要なエネルギー源にもなる。また空腹時には,身体のエネルギー需要の大部分を脂肪代謝によって供給しなければならなくなる。脂質をエネルギー源として使用するには,脂肪組織を異化して遊離脂肪酸とグリセロールに変換する必要がある。遊離脂肪酸は,肝臓および末梢組織においてβ酸化により代謝されてアセチルCoAとなり,グリセロールは肝臓においてトリグリセリド合成または糖新生に... さらに読む の異常(例,全身性 カルニチン欠乏症 カルニチン欠乏症 カルニチン欠乏症は,アミノ酸のカルニチンの摂取不足または代謝異常に起因する。多様な疾患群を引き起こしうる。筋肉代謝が障害され,ミオパチー,低血糖,または心筋症が生じる。乳児では典型的に低血糖,低ケトン性の脳症を呈する。ほとんどの場合,治療は食物性L‐カルニチンによる。 ( 低栄養の概要も参照のこと。) アミノ酸のカルニチンは,長鎖脂肪アシル補酵素A(CoA)エステルを筋細胞のミトコンドリアに輸送するために必要であり,エステルはミトコンド... さらに読む , 中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症 中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCADD) この過程には遺伝性の障害が数多く存在するが,典型的なものでは空腹時に低血糖および 代謝性アシドーシスを呈し,心筋症および筋力低下を引き起こすものもある。 β酸化経路の異常は, 脂肪酸・グリセロール代謝異常症に含まれる( 表を参照)。 遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチおよび 遺伝性代謝疾患が疑われる場合の検査も参照のこと。 アセチルCoAはβ酸化サイクルの反復により脂肪酸から生成される。脂肪酸を完全に異化するためには,炭素鎖の長... さらに読む )
サリチル酸中毒 アスピリンおよび他のサリチル酸化合物による中毒 サリチル酸中毒は,嘔吐,耳鳴,錯乱,高体温,呼吸性アルカローシス,代謝性アシドーシス,および多臓器不全を引き起こす場合がある。診断は臨床的に行い,アニオンギャップ,動脈血ガス,および血清サリチル酸値の測定により補完する。活性炭およびアルカリ化利尿または血液透析により治療する。 ( 中毒の一般原則も参照のこと。) 150mg/kgを超える量を急性に摂取した場合,重度の毒性が生じる可能性がある。サリチル酸化合物の錠剤は,... さらに読む または他の薬物(例,バルプロ酸)や毒物による急性脳症, ウイルス性脳炎 脳炎 脳炎は脳実質の炎症であり,ウイルスの直接侵襲に起因する。急性散在性脳脊髄炎は,ウイルスまたはその他の外来タンパク質に対する過敏反応によって脳および脊髄に炎症が生じる病態である。どちらの病態も通常はウイルスが誘因となる。症状としては,発熱,頭痛,精神状態変容などがあり,しばしば痙攣発作や局所神経脱落症状もみられる。診断には髄液検査と神経画像検査を要する。治療は支持療法のほか,原因によっては抗ウイルス薬を使用する。... さらに読む または髄膜脳炎
急性妊娠性脂肪肝やテトラサイクリンによる肝毒性などの疾病は,光学顕微鏡上,類似の所見を示すことがある。
予後
転帰は脳機能障害の期間,昏睡の重症度と進行の速さ,頭蓋内圧亢進の重症度,血中アンモニア濃度上昇の程度に関連する。血中アンモニアの初期濃度が100μg/dL(60μmol/L)を超え,プロトロンビン時間が対照と比較して3秒以上延長する場合に,I度からより重症の段階への進展が起こる可能性が高い。死亡例では入院から死亡まで平均4日である。致死率の平均は21%であるが,I度の患児においては2%未満であり,IV度またはV度の患児では80%を超える。
生存者の予後は通常良好であり,再発はまれである。しかしながら,神経学的後遺症(例,知的障害,痙攣性疾患,脳神経麻痺,運動機能障害)の発生率は,罹病期間中,痙攣や除脳硬直を起こした生存患児では30%と高い。
治療
支持療法
ライ症候群の治療は支持療法であり,グリコーゲンの減少が一般的であることから,特に頭蓋内圧のコントロールと血糖値に注意を払う。
頭蓋内圧亢進の治療には,挿管,過換気,1500mL/m2/日の水分制限,ベッドの頭側の挙上,浸透圧利尿薬,頭蓋内圧直接モニタリング,開頭減圧術がある。正常血糖を維持するには,10~15%ブドウ糖の注入が一般的である。凝固障害には新鮮凍結血漿またはビタミンKが必要になる。他の治療法(例,交換輸血,血液透析,バルビツール酸系薬剤を用いた深昏睡への導入)は,効果的との証明はなされていないが,ときに使用される。
要点
ライ症候群とは急性脳症および肝機能障害が典型的にはウイルス感染後(特にサリチル酸併用時)に起こるものであるが,小児でのルーチンのアスピリン使用が減少しているためまれとなっている。
診断は,同様の発現を示す感染症,中毒,および代謝性疾患の除外により行う;肝生検が診断確定に役立つ。
治療は,特に亢進した頭蓋内圧を低下させる方法を用い支持的に行う。