病因
ファンコニ症候群は以下の可能性がある:
遺伝性
後天性
遺伝性ファンコニ症候群
本疾患は通常,他の遺伝性疾患,特にシスチン症に合併する。シスチン症は,シスチンが細胞内および組織内に蓄積する(一方で シスチン尿症 シスチン尿症 シスチン尿症は,尿細管における遺伝性の異常であり,シスチン(アミノ酸であるシステインのホモ二量体)の再吸収が障害されることで,その尿中排泄が増加する結果,尿路内にシスチン結石が形成される。症状は,結石とおそらくは尿路感染症または慢性腎臓病の続発症が原因で生じる仙痛である。診断は尿中シスチン排泄量の測定による。治療は水分摂取と尿のアルカリ化による。 シスチン尿症は当初,絶対保因者におけるシスチンおよび二塩基性アミノ酸の尿中排泄量に従って分... さらに読む のような尿中への過剰な排泄は生じない)遺伝性(常染色体劣性)の代謝性疾患である。尿細管機能障害以外のシスチン症の合併症としては,眼疾患,肝腫大,甲状腺機能低下症,その他の臨床像などがある。
またファンコニ症候群は, ウィルソン病 ウィルソン病 ウィルソン病では,結果として肝および他の臓器に銅が蓄積する。肝症状または神経症状が出現する。診断は,血清セルロプラスミン濃度の低値,銅の尿中排泄量の高値,およびときに肝生検の結果に基づく。治療は,低銅食およびペニシラミンまたはトリエンチンなどの薬物から成る。 ウィルソン病は,男女ともに罹患する銅代謝の障害であり,約30,000人中1人にみられる。罹患者は,13番染色体に位置する劣性遺伝子変異体がホモ接合型である。人口の約1... さらに読む , 遺伝性フルクトース不耐症 フルクトース代謝異常症 フルクトース代謝酵素の欠損は,無症状のことも,低血糖を引き起こすこともある。 フルクトースは単糖類で,果実および蜂蜜に高濃度で含まれ,スクロースおよびソルビトールの構成成分の1つである。フルクトース代謝異常症は,数多くある 糖代謝異常症の1つである。 遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。 この欠損症は遺伝性フルクトース不耐症の臨床症候群を引き起こす。遺伝形式は... さらに読む , ガラクトース血症 ガラクトース血症 ガラクトース血症は 糖代謝異常症の1つであり,ガラクトースをグルコースに変換する酵素が遺伝学的に欠乏することによって引き起こされる。症状と徴候としては,肝および腎機能障害,認知障害,白内障,早発卵巣不全などがある。診断は赤血球の酵素分析およびDNA解析による。治療法は食事からのガラクトースの除去である。身体的予後は治療により良好となるが,認知性および動作性のパラメータはしばしば正常とならない。... さらに読む ,眼脳腎症候群(Lowe症候群),ミトコンドリア細胞症,および チロシン血症 チロシン代謝異常症 チロシンは,いくつかの神経伝達物質(例,ドパミン,ノルアドレナリン,アドレナリン),ホルモン(例,サイロキシン),およびメラニンの前駆物質となるアミノ酸であり,その代謝に関与する酵素の異常により様々な症候群が引き起こされる。 フェニルアラニンおよびチロシンの代謝異常には数多くの疾患がある( 表を参照)。 遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチおよび 遺伝性代謝疾患が疑われる場合の検査も参照のこと。... さらに読む を合併することもある。遺伝形式は合併疾患により異なる。
後天性ファンコニ症候群
本疾患は,様々な薬剤によって引き起こされる可能性があり,具体的には特定のがん化学療法薬(例,イホスファミド,ストレプトゾシン),抗レトロウイルス薬(例,ジダノシン,シドホビル[cidofovir]),期限切れのテトラサイクリンなどある。これらの薬剤はいずれも腎毒性を有する。また後天性ファンコニ症候群は,腎移植後の患者, 多発性骨髄腫 多発性骨髄腫 多発性骨髄腫は,形質細胞の悪性腫瘍で,単クローン性免疫グロブリンを産生し,隣接する骨組織に浸潤し,それを破壊する。一般的な臨床像としては,骨痛および/または骨折を引き起こす溶骨性骨病変,腎機能不全,高カルシウム血症,貧血,繰り返す感染症などがある。典型的には,Mタンパク質(ときに尿中にみられ,血清中に認められない場合があるが,まれに全く認められない場合もある)および/または軽鎖タンパク尿,および骨髄中の過剰な形質細胞の証明が診断に必要で... さらに読む , アミロイドーシス アミロイドーシス アミロイドーシスは,異常凝集したタンパク質から成る不溶性線維の細胞外蓄積を特徴とする多様な疾患群である。これらのタンパク質は局所に蓄積してほとんど症状を引き起こさない場合もあるが,全身の複数の臓器に蓄積して,重度の多臓器不全をもたらすこともある。アミロイドーシスは原発性の場合と,種々の感染症,炎症,または悪性疾患に続発する場合とがある。 さらに読む ,重金属やその他の化学物質による中毒, ビタミンD欠乏症 ビタミンD欠乏症および依存症 日光への曝露が不十分であると,ビタミンD欠乏症が起こりやすくなる。欠乏症により,骨石灰化が障害され,小児ではくる病,成人では骨軟化症が引き起こされ,また骨粗鬆症の一因となる可能性がある。診断では,血清25(OH)D(D2およびD3)の測定を行う。治療としては通常,ビタミンDを経口投与し,必要に応じてカルシウムおよびリンを補給する。しばしば予防が可能である。まれに,遺伝性疾患によりビタミンDの代謝障害(依存症)が起こる。... さらに読む を呈する患者でも発生する。
病態生理
グルコース,リン,アミノ酸,重炭酸塩,尿酸,水,カリウム,ナトリウムの再吸収障害など,近位尿細管の様々な輸送機能に障害が生じる。アミノ酸尿には多くのアミノ酸が関与し,シスチン尿症の場合とは異なり,シスチン排泄の増加は軽微な要素でしかない。基本的な病態生理学的異常は不明であるが,ミトコンドリア障害が関与していると考えられる。血清リン濃度の低下によりくる病がもたらされ,近位尿細管におけるビタミンDの活性型への変換の低下により,さらに悪化する。
症状と徴候
遺伝性ファンコニ症候群では,主な臨床的特徴(近位尿細管性アシドーシス,低リン血症性くる病,低カリウム血症,多尿,多飲)が通常は乳児期に出現する。
シスチン症が原因でファンコニ症候群が発生する場合は,発育不良および発育遅滞がよくみられる。網膜に斑状の色素脱失が認められる。 間質性腎炎 尿細管間質性腎炎 尿細管間質性腎炎は,尿細管と間質の原発性損傷であり,腎機能低下をもたらす。急性型はほとんどの場合,薬物アレルギー反応または感染症が原因である。慢性型は,多種多様な原因により発生し,これには遺伝性または代謝性疾患,閉塞性尿路疾患,環境毒素または特定の薬物およびハーブへの慢性的な曝露が挙げられる。診断は病歴と尿検査によって示唆され,しばしば生検によって確定される。治療と予後は,病因および診断時の疾患の可逆性の可能性によって様々である。... さらに読む が発生し,これにより進行性腎不全を来し,青年期以前に死に至る場合がある。
後天性ファンコニ症候群では,尿細管性アシドーシス(近位型である2型― Professional.see table 病型の異なる尿細管性アシドーシスの特徴* 病型の異なる尿細管性アシドーシスの特徴* ),低リン血症,および低カリウム血症の臨床検査値異常で成人期に発症する。患者は骨疾患(骨軟化症)の症状および筋力低下を発症することもある。
診断
グルコース,リン,およびアミノ酸の尿検査
診断は腎機能の異常,特に糖尿(血清血糖値は正常),リン酸尿,およびアミノ酸尿を示すことによる。シスチン症では,細隙灯顕微鏡検査で角膜にシスチン結晶が認められることがある。
治療
ときに炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸水素カリウムまたはクエン酸ナトリウムもしくはクエン酸カリウム
ときにカリウム補給
原因とされた腎毒性物質を除去すること以外に,特異的な治療法はない。
アシドーシスは,炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸水素カリウムまたはクエン酸ナトリウムもしくはクエン酸カリウムの錠剤または溶液を投与することで軽減でき,例えば,Shohl液(クエン酸ナトリウムとクエン酸;1mLで重炭酸塩1mEqまたは1mmolと同等)を1mEq/kg(1mmol/L),1日2回もしくは1日3回または5~15mL,食後および就寝時の用法・用量で投与する。
カリウム欠乏に対して,カリウム含有食塩による補充療法が必要になることがある。
低リン血症性くる病 低リン血症性くる病 低リン血症性くる病とは,低リン血症,小腸でのカルシウム吸収不良,およびビタミンD不応性のくる病または骨軟化症を特徴とする疾患である。通常は遺伝性である。症状は骨痛,骨折,および成長障害である。診断はリン,アルカリホスファターゼ,および1,25-ジヒドロキシビタミンD3の血清中濃度による。治療法はリンとカルシトリオールの経口投与であり,X連鎖性低リン血症に対してはブロスマブを投与する。... さらに読む は治療可能である。
腎不全の治療においては 腎移植 腎移植 腎移植は最もよく行われる実質臓器移植である。( 移植の概要も参照のこと。) 腎移植の主な適応は以下の通りである: 末期腎不全 絶対的禁忌としては以下のものがある: 移植片の生着を危うくしかねない併存症(例,重度の心疾患,悪性腫瘍),これらは徹底的なスクリーニングにより検出可能 さらに読む が成功を収めている。しかしながら,基礎疾患がシスチン症である場合は,他臓器に進行性の損傷が残る可能性があり,最終的には死に至る。
要点
様々な欠陥によって近位尿細管でのグルコース,リン,アミノ酸,重炭酸塩,尿酸,水,カリウム,およびナトリウムの再吸収が障害される。
ファンコニ症候群は通常は薬剤に起因するか,他の遺伝性疾患に合併する。
遺伝性ファンコニ症候群では,近位尿細管性アシドーシス,低リン血症性くる病,低カリウム血症,多尿,多飲が通常は乳児期に出現する。
糖尿(特に血清血糖値が正常の場合),リン酸尿,およびアミノ酸尿について尿検査を行う。
必要に応じてカリウムまたはナトリウムを重炭酸塩またはクエン酸とともに併用で投与するか,ときにカリウム塩の補給のみにより治療する。