家族性周期性四肢麻痺の各病型には,それぞれ異なる遺伝子および電解質チャネルが関与する。
低カリウム性周期性四肢麻痺では,70%の患者において,1番染色体長腕上にある電位感受性筋カルシウムチャネルαサブユニットの遺伝子に変異がみられる(HypoPP I型)。17番染色体上のナトリウムチャネルαサブユニットをコードする遺伝子に変異がある家系もある(HypoPP II型)。低カリウム性周期性四肢麻痺は,最も頻度の高い病型であるが,それでも非常にまれで,有病率は1/100,000である。
高カリウム性周期性四肢麻痺は,骨格筋ナトリウムチャネルのαサブユニットをコードする遺伝子(SCN4A)の変異が原因である。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺では,遺伝子変異や侵される電解質チャネルは不明であるが,通常は 低カリウム血症 低カリウム血症 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む が生じ, 甲状腺中毒症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる( 様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。... さらに読む の症状がみられる。甲状腺中毒性周期性四肢麻痺の発生率はアジア人男性で最も高い。
Andersen-Tawil症候群は, 常染色体優性 常染色体優性 単一の遺伝子によって規定される遺伝性疾患(メンデル遺伝病)は,最も解析が容易で,最も詳細に解明されている。形質の発現に1コピーの遺伝子(1つのアレル)のみを必要とする場合,その形質は優性とみなされる。形質の発現に2コピーの遺伝子(2つのアレル)を必要とする場合,その形質は劣性とみなされる。例外の1つはX連鎖疾患である。男性では通常,X染色体のほとんどのアレルに対して影響を相殺する対のアレルが存在しないため,X染色体のアレルは形質が劣性で... さらに読む の内向き整流性カリウムチャネルの欠陥による病態であり,血清カリウム値は高値,低値,正常のいずれの場合もある。
症状と徴候
低カリウム性周期性四肢麻痺
発作が通常16歳未満で始まる。激しい運動の翌日に筋力低下を伴って目覚めることがしばしばあり,軽度で特定の筋群に限られる場合と,四肢全てが侵される場合とがある。発作は,高炭水化物食,感情または身体ストレス,アルコール摂取,および寒冷曝露によっても誘発される。外眼筋,球筋,および呼吸筋は障害を免れる。意識の変容はみられない。血清カリウムおよび尿中カリウムが減少する。筋力低下が最長24時間継続することがある。
高カリウム性周期性四肢麻痺
最初の発作がしばしば低年齢からみられ,通常短い継続時間で高頻度に起こり,重症度が低い。発作は運動後の安静,食後の運動,または絶食により誘発される。筋強直(筋収縮の後の弛緩の遅れ)がよくみられる。眼瞼の筋強直が唯一の症状であることがある。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺
発作が数時間から数日持続し,通常,低カリウム性周期性四肢麻痺と同様に運動,ストレス,または炭水化物負荷により誘発される。典型的には甲状腺中毒症の症状(例,不安,情緒不安定,筋力低下,振戦,耐暑性低下[heat intolerance],動悸,体重減少)がみられる。甲状腺機能亢進症の臨床的特徴がしばしば数カ月または数年,周期性四肢麻痺の発症に先行するが,周期性四肢麻痺の発生と同時(最高60%まで)または発生後(最高17%まで)に特徴が発生したと認識されている。
Andersen-Tawil症候群
最初の発作が通常20歳より前に起こり,以下の臨床的3徴の全てまたは一部を伴う:
周期性四肢麻痺
QT延長および心室性不整脈
身体的な奇形の特徴
身体的な奇形の特徴として,低身長,高口蓋,耳介低位,幅の広い鼻,小顎症,眼間開離,斜指症,短い示指,合指症などがある。
発作は運動後の安静によって誘発され,数日間続き,毎月発生する可能性がある。
診断
臨床的評価
症状出現の際の血清カリウム値
ときに誘発試験
最良の診断指標は典型的発作の既往である。発作時に測定すれば,血清カリウムが異常となることがある。ときにブドウ糖およびインスリン(低カリウム性周期性四肢麻痺を誘発),または塩化カリウム(高カリウム性周期性四肢麻痺を誘発)によって発作を誘発してもよいが,誘発された発作により呼吸筋麻痺または心伝導異常が生じることがあるため,熟練の医師以外は誘発試験を試みるべきでない。
高カリウム性周期性四肢麻痺の診断は,臨床所見および/または骨格筋のナトリウムチャネルのαサブユニットにおけるヘテロ接合性の病的バリアントを同定することに基づく。
治療
病型および重症度によって異なる
低カリウム性周期性四肢麻痺
麻痺の発作を塩化カリウム2~10gの無糖水溶液の経口投与か,または塩化カリウムの静脈内投与により管理する。低カリウム性周期性四肢麻痺の発作予防には,低炭水化物,低ナトリウム食療法の遵守,激しい運動の回避,安静期間後のアルコール摂取の回避,およびアセタゾラミド250mgの1日2回経口投与が役立つことがある。
高カリウム性周期性四肢麻痺
麻痺の発作を,軽度の場合は軽い運動および経口での2g/kgの炭水化物負荷によって発症時に止めることができる。完成してしまった発作には,サイアザイド系薬剤,アセタゾラミド,または吸入β作動薬が必要となる。重症発作にはグルコン酸カルシウムの投与,ならびにインスリンおよびブドウ糖の静注が必要となる(重度の高カリウム血症の治療 中等度から重度の高カリウム血症 高カリウム血症とは,血清カリウム濃度が5.5mEq/L(5.5mmol/L)を上回ることであり,通常は腎臓からのカリウム排泄の低下またはカリウムの細胞外への異常な移動によって発生する。通常,カリウム摂取の増加,腎臓からのカリウム排泄を障害する薬剤,および急性腎障害または慢性腎臓病など,いくつかの寄与因子が同時に存在する。高カリウム血症は,糖尿病性ケトアシドーシスや,代謝性アシドーシスでも生じる可能性がある。臨床症状は一般に神経筋症状であ... さらに読む も参照)。高カリウム性周期性四肢麻痺の発作予防には,高炭水化物,低カリウム食を規則正しく摂取すること,ならびに飢餓状態の回避,食後の激しい運動の回避,および寒冷曝露の回避が助けになる。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺
急性発作を塩化カリウムにより治療し,血清カリウム値を綿密にモニタリングする。甲状腺機能を正常に維持し(甲状腺機能亢進症の治療 治療 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる( 様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。... さらに読む を参照)β遮断薬(例,プロプラノロール)を投与することにより,発作を予防する。
Andersen-Tawil症候群
運動または活動レベルを厳密に管理するなど生活習慣の改善に加え,炭酸脱水酵素阻害薬(例,アセタゾラミド)の投与により発作が予防されることがある。Andersen-Tawil症候群の主な合併症は不整脈に起因する突然死であり,心症状の管理に心臓ペースメーカーまたは植込み型除細動器が必要になることがある。
要点
家族性周期性四肢麻痺には4つの病型があり,膜の電解質チャネルのまれな変異によって起こる。
血清カリウムは必ずではないが通常は異常であり,低値または高値のことがある。
間欠的な筋力低下の発作がみられ,典型的には運動によって,ときに食事(特に炭水化物含有食)またはアルコールによって誘発される。
典型的症状および症状出現時の血清カリウムの測定により診断する。
血清カリウムの補正により発作を治療し,生活習慣の改善を推奨して発作を予防する。