メルクマニュアル18版 日本語版
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ライソゾーム蓄積症

ライソゾーム酵素は高分子を分解するが,その対象にはその細胞自身由来のもの(例,細胞構造要素が再利用されるとき)も,細胞外から獲得したものも含まれる。ライソゾーム酵素(またはその他のライソゾーム構成要素)における遺伝性の欠陥または欠損は,未分解の代謝産物の蓄積を引き起こしうる。数多くの特異的欠損症が存在するため,蓄積する代謝産物によって生化学的に蓄積症として分類されるのが通常である。亜型としては,ムコ多糖症,スフィンゴ脂質症(リピドーシス),ムコ脂質症などがある。このうち最も重要なものはムコ多糖症とスフィンゴ脂質症である。Ⅱ型糖原病はライソゾーム蓄積症であるが,他の大部分の糖原病はそうではない。

網内細胞(例,脾臓内にみられる)はライソゾームを豊富に有するため,その組織は多くのライソゾーム蓄積症において障害されるが,一般的に最も障害を受けるのは対応する基質が最も豊富に存在する組織である。したがって,ガングリオシドーシスではガングリオシドが豊富な脳が特に障害を受ける一方で,ムコ多糖症ではムコ多糖類が全身に存在するがために様々な組織が障害を受ける。

ムコ多糖症: ムコ多糖症(MPS)は,グリコサミノグリカンの分解に関与する酵素の遺伝性の欠損症である。グリコサミノグリカン(以前はムコ多糖類と呼ばれていた)は,細胞表面上と細胞外基質および構造体の中に豊富に存在する多糖類である。グリコサミノグリカンの分解を阻害するような酵素欠損があると,ライソゾーム内にグリコサミノグリカンの断片が蓄積し,広範囲に及ぶ骨,軟部組織,中枢神経系の変化を来す。遺伝形式は通常,常染色体劣性である(MPSⅡ型は除く)。

発症年齢,臨床症状,および重篤度は病型によって異なる。よくみられる症状としては,粗野な顔貌,神経発達遅滞および退行,関節拘縮,臓器腫大,硬毛,進行性の呼吸不全(気道閉塞と睡眠時無呼吸による),心臓弁膜症,骨格変化,頸椎亜脱臼などがある。

診断は,病歴,身体診察,骨検索で発見される骨異常(例,多発性異骨症),尿中総および断片化グリコサミノグリカンの高値によって示唆される。確定診断は,培養線維芽細胞(出生前)または末梢白血球(出生後)での酵素分析によって行われる。器官特異的な変化をモニターするため追加検査が必要となる(例,弁膜症には心エコー検査,聴力変化には聴力測定)。

MPSⅠ型(ハーラー病)の治療ではα-L-イズロニダーゼによる酵素補充が行われるが,これにより進行を効果的に食い止め,本疾患の中枢神経系を除く全ての合併症を逆転させることができる。造血幹細胞(HSC)移植もまた初期の研究では有望性が示されたが,中枢神経系疾患には無効である。酵素補充と造血幹細胞移植の併用が現在試験中である。

スフィンゴ脂質症: スフィンゴ脂質は細胞膜の正常な脂質構成成分であり,酵素欠損によってその分解が阻害されると,ライソゾーム内に蓄積して広範囲に及ぶ神経細胞,骨,およびその他の変化を引き起こす。発生率こそ低いが,保因者率の高い病型もある。ゴーシェ病は最も頻度の高いスフィンゴ脂質症である。その他にはニーマン-ピック病,テイ-サックス病,サンドホフ病,ファブリー病,クラッベ病,コレステリルエステル蓄積症,異染性白質ジストロフィなどがある。

ゴーシェ病

ゴーシェ病は,グルコセレブロシダーゼの欠損によるスフィンゴ脂質症であり,グルコセレブロシドおよび関連化合物の沈着を引き起こす。症状および徴候は病型によって異なるが,最も多いのは肝脾腫または中枢神経系変化である。診断は白血球の酵素分析による。

グルコセレブロシダーゼは正常時はグルコセレブロシドを加水分解してブドウ糖とセラミドを生成する。この酵素が遺伝的に欠損していると,貪食過程を通して組織マクロファージ内にグルコセレブロシドが蓄積し,ゴーシェ細胞が形成される。脳内の血管周囲腔にゴーシェ細胞が蓄積すると,神経細胞障害性の神経膠症が引き起こされる。3つの病型があり,それぞれで疫学,酵素活性,および症状が異なる。

Ⅰ型(非神経細胞障害性)が最も多い(全患者の90%)。残存酵素活性は最も高い。リスクはアシュケナージ系ユダヤ人において最も高く,保因者比率は1:12である。発症は2歳から成人期後期にまでに及ぶ。症状および徴候には,肝脾腫,骨疾患(例,骨減少症,疼痛発作,骨折を伴う溶骨性病変),発育不全,思春期遅発,斑状出血,瞼裂斑などがある。血小板減少による鼻出血および斑状出血が多くみられる。X線により長管骨骨端の拡大(エルレンマイアーフラスコ奇形)および骨皮質の非薄を認める。

Ⅱ型(急性神経細胞障害性)は最も頻度が低く,残存酵素活性も最も低い。乳児期に発症する。症状および徴候は,進行性の神経荒廃(例,硬直,痙攣)と2歳までの死亡である。

Ⅲ型(亜急性神経細胞障害性)は,発生率,酵素活性,および臨床重篤度においてⅠ型とⅡ型の中間に位置する。発症は小児期のあらゆる時期に起こる。臨床症状は亜型毎に異なるが,進行性の認知症および運動失調(Ⅲa),骨および内臓の障害(Ⅲb),角膜混濁を伴う核上麻痺(Ⅲc)などがある。青年期まで生存した場合は長期生存が可能である。

診断と治療

診断は白血球の酵素分析による。保因者診断が行われ,変異解析によって病型が鑑別される。生検は必要ではないが,ゴーシェ細胞-肝臓,脾臓,リンパ節,または骨髄にみられ,しわくちゃのティッシュペーパー様の外観を呈する脂質の蓄積した組織マクロファージは診断指標となる。

Ⅰ型およびⅢ型には胎盤または組み換えグルコセレブロダーゼによる酵素補充が有効であるが,Ⅱ型に対する治療法はない。この酵素はライソゾームへの輸送効率を向上させるように改変されている。酵素補充を受ける患者には,ヘモグロビンおよび血小板のルーチンなモニタリング,CTまたはMRIによる脾臓および肝臓容積のルーチンな評価,ならびに骨検査,二重エネルギーX線吸収スキャン,またはMRIによる骨疾患のルーチンな評価が必要となる。

グルコシルセラミド合成酵素阻害薬であるミグラスタット(100mg,経口,1日3回)はグルコセレブロシド(グルコセレブロシダーゼの基質)濃度を減少させる作用があるため,酵素補充が不可能な患者への代替療法となる。

脾摘出は,貧血,白血球減少,もしくは血小板減少を伴う患者に対して,または脾臓の大きさが原因で不快感がある場合に有効である。貧血を伴う患者にはさらに輸血が必要となることもある。

骨髄または幹細胞移植ならば決定的な治療効果を得られるが,合併症頻度および死亡率がかなり高いため最終手段とされている。

ニーマン-ピック病

ニーマン-ピック病は,スフィンゴミエリナーゼの活性欠損に起因するスフィンゴ脂質症であり,網内細胞におけるスフィンゴミエリン(セラミドホスホリルコリン)の蓄積を引き起こす。

ニーマン-ピック病の遺伝形式は常染色体劣性で,アシュケナージ系ユダヤ人に最も多くみられ,A型とB型が存在する。C型のニーマン-ピック病はこれらとは無関係の酵素異常であり,コレステロールの異常蓄積が含まれる。

A型の患者では,スフィンゴミエリナーゼ活性は正常値の5%未満である。この疾患は肝脾腫,成長不全,急速進行性の神経変性を特徴とする。患者は2または3歳までに死亡する。

B型の患者では,スフィンゴミエリナーゼ活性は正常値の5〜10%である。B型はA型よりも臨床的に多様である。肝脾腫およびリンパ節腫大が起こりうる。汎血球減少症がよくみられる。B型の患者の大半が神経障害をほとんどまたは全くもたず,成人期まで生存するため,臨床的にはゴーシェ病Ⅰ型と鑑別不可能であることが多い。B型の重症例では,進行性の肺浸潤によって重大な合併症が引き起こされる。

診断と治療

両病型とも通常病歴および診察から疑われ,そのうち肝脾腫が最も顕著である。確定診断は白血球でのスフィンゴミエリナーゼの定量から可能であり,また羊水穿刺または絨毛膜標本採取によって出生前診断が可能である。骨髄または幹細胞移植が治療の有望な選択肢として現在研究中である。

テイ-サックス病およびサンドホフ病

テイ-サックス病およびサンドホフ病は,ヘキソサミニダーゼの欠損に起因する,重度の神経症状および早期死亡を引き起こすスフィンゴ脂質症である。

ガングリオシドは脳内に存在する複合スフィンゴ脂質である。これは大きく2つの型,GM1およびGM2に分類され,両型ともライソゾームの蓄積障害に関与する;GM2ガングリオシドーシスは大きく2つの型に分類され,それぞれ多くの異なる遺伝子変異によって引き起こされる。

テイ-サックス病: ヘキソサミニダーゼAの欠損は脳内でのGM2の蓄積を引き起こす。遺伝形式は常染色体劣性であり,最も多い遺伝子変異では東ヨーロッパの(アシュケナジー系)ユダヤ人の血統を有する正常成人の1/27が保因者であるが,他の遺伝子変異は一部のフランス系カナダ人およびケージャンの集団に集中している。

テイ-サックス病の患児では,生後6カ月を過ぎると発達のマイルストーンを達成できなくなり,認知および運動に進行性の遅滞が発生し,痙攣,精神遅滞,麻痺へと進行し,5歳までに死に至る。黄斑部にサクランボ様の赤斑(cherry red spot)がよくみられる。

診断は臨床的に行われ,酵素定量によって確定される。効果的な治療法がないことから本疾患への対応としては,保因者の同定を目的とした高リスク集団中の妊娠可能年齢成人に対するスクリーニング(酵素活性と変異測定)と遺伝カウンセリングの組み合わせが中心となる。

サンドホフ病: ヘキソサミニダーゼAおよびBの複合欠損が存在する。臨床症状としては生後6カ月から始まる進行性の脳変性があり,さらに盲目,黄斑部のチェリーレッドスポット,および聴覚過敏を伴う。内臓の障害を来し(肝腫大および骨変化)民族との関連性がみられないこと以外,経過,診断,および管理法においてテイ-サックス病とほとんど鑑別不可能である。

クラッベ病

クラッベ病は,遅滞,麻痺,盲目,難聴,および仮性球麻痺を引き起こすスフィンゴ脂質症であり,進行し死に至る。

クラッベ病(ガラクトシルセラミドリピドーシス,グロボイド細胞白質ジストロフィー)は常染色体劣性遺伝性のガラクトセレブロシドβガラクトシダーゼの欠損によって引き起こされる。乳児期に障害を来し,遅滞,麻痺,盲目,難聴,および仮性球麻痺を特徴とし,進行し死に至る。診断は,白血球または培養皮膚線維芽細胞における酵素欠損の検出による。有効な治療法はない。出生前検査が可能である。

異染性白質ジストロフィ

異染性白質ジストロフィはアリルスルファターゼAの欠損に起因するスフィンゴ脂質症であり,その結果発生する進行性の麻痺および認知症により,10歳までに死に至る。

異染性白質ジストロフィ(スルファチド脂質症)では,アリルスルファターゼAの欠損によって中枢神経系の白質,末梢神経,腎臓,脾臓,およびその他の器官に異染性脂質が蓄積するが,神経系での蓄積によって中枢性および末梢性脱髄が発生する。数多くの遺伝子変異が存在しており,発症年齢および進行速度は患者毎に異なる。

乳児型は,通常4歳までに発症しその後約5年で死に至る進行性の麻痺および認知症を特徴とする。若年型では,4歳から16歳までの間に,歩行障害,知的障害,および末梢神経障害所見で発症する。乳児型とは対照的に,通常深部腱反射は亢進する。この他に軽症の成人型も存在する。診断は臨床的に示唆され,神経伝導速度低下の所見によって疑われ,白血球または培養皮膚線維芽細胞での酵素欠損の検出によって確定される。有効な治療法はない。

ファブリー病

ファブリー病は,αガラクトシダーゼAの欠損に起因するスフィンゴ脂質症であり,被角血管腫,先端感覚異常,角膜混濁,反復性の発熱発作,および腎または心不全を引き起こす。

ファブリー病(びまん性体部被角血管腫)は,トリヘキソシルセラミドの正常な異化に必要なライソゾーム酵素であるαガラクトシダーゼAのX連鎖遺伝性の欠損症である。糖脂質(グロボトリアオシルセラミド)が多くの組織中(例,血管内皮,リンパ管,心臓,腎臓)に蓄積する。

男性における診断は,下部体幹における典型的な皮膚病変(被角血管腫)の存在に基づき,さらに末梢神経障害(反復性の下肢の灼熱痛),角膜混濁,および反復性の発熱発作などの特有な特徴から,臨床的に行われる。腎不全,または高血圧もしくはその他の血管疾患の心臓もしくは脳の合併症により死に至る。ヘテロ接合体の女性は通常無症状であるが,しばしば角膜混濁で特徴づけられる症状軽減型の疾患を有していることもある。

診断はガラクトシダーゼ活性の定量による-出生前では羊水細胞または絨毛膜で,出生後では血清または白血球で測定。治療は,組み換えαガラクトシダーゼA(アガルシダーゼβ)による酵素補充と発熱および疼痛に対する補助的処置の組み合わせである。腎移植は腎不全の治療に有効である。

コレステロールエステル蓄積症およびウォルマン病

コレステロールエステル蓄積症およびウォルマン病はライソゾームの酸性リパーゼの欠損に起因するスフィンゴ脂質症であり,高脂質血症および肝腫大を引き起こす。

まれな常染色体劣性疾患であり,主に組織球のライソゾームへのコレステロールエステルおよびトリグリセリドの蓄積を引き起こし,肝臓,脾臓,リンパ節,およびその他の組織において組織球を泡沫化する。通常血清LDLが上昇する。

ウォルマン病はより症状の重い病型であり,生後1週目に肝脾腫に続発する哺乳不良,嘔吐,腹部膨張で発症し,通常生後6カ月までに死に至る。

コレステロールエステル蓄積症は比較的軽症であり,発症は遅く,成人期まで症状が現れないこともあるが,発症すると肝腫大が検出され,早発性粥状動脈硬化症(しばしば重度)を来すこともある。

診断は,臨床的特徴と肝生検標本もしくは培養した皮膚線維芽細胞,リンパ球,またはその他の組織における酸性リパーゼ欠損症の証明に基づく。出生前診断は培養絨毛膜絨毛における酸性リパーゼの活性消失に基づく。

有効性が証明された治療法はないが,スタチンで血漿LDL値を低下させることができ,またコレスチラミンと低コレステロール食療法の併用でその他の徴候も改善できたとする報告もある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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