メルクマニュアル18版 日本語版
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自閉症スペクトラム障害

自閉症とは,社会的相互交渉およびコミュニケーションの障害,反復常同的な行動様式,ならびにしばしば精神遅滞を伴う不均等な知的発達を特徴とする,神経発達障害の1つである。症状は小児期早期に始まる。患児の大部分においてその原因は不明であるが,研究では遺伝的要因が支持されており,また一部では,ある疾患が原因となって自閉症となることもある。診断は発達歴および観察に基づく。治療は行動管理であり,ときに薬物治療も行われる。

神経発達障害の一種である自閉症は,広汎性発達障害(PDD─学習障害および発達障害: 広汎性発達障害のスペクトラム表 2: 表参照)と呼ばれる障害の中で最も多くみられるものである。これらの状態の臨床的多様性から,PDDは“自閉症スペクトラム障害”と呼んでいる人々も多い。有病率は5/10,000〜50/1000と推定される。自閉症は男児において2〜4倍の頻度で発生する。この10年間で自閉症スペクトラム障害の診断は急速に進歩を遂げたが,これは特に診断基準の変更によるところが大きい。

表 2

広汎性発達障害のスペクトラム

亜型

特徴

アスペルガー症候群

一般的に言語および認知は自閉症の場合よりも良好;社会的に孤立し,しばしば奇妙または異様な人物とみられる;不器用;行動,興味,および活動における反復パターン;非定型の感覚反応(例,騒音,食物の臭いもしくは味,または衣服の肌触りに対する感覚が鋭敏);語用論の障害(例,極端なまでの具体的な言語使用または皮肉や冗談の理解困難)

自閉症(自閉性障害)

3歳までに発症;社会的相互交渉およびコミュニケーションの障害;反復常同的行動;ほとんど症例である程度の精神遅滞を認める;一部の症例で生後18〜24カ月の間に言語および社会性の重度の退行を認める

小児期崩壊性障害

2年間の正常な成長の後,以下のうち少なくとも2点において著明な退行が発生する:社会的技能,言語,排尿および排便制御,運動技能;最終的には自閉症の典型例よりも重篤となりうる;その他の行動により自閉症または小児統合失調症と類似する

特定不能の広汎性発達障害

他のどの亜型の基準も満たさないが,認知面および行動面の問題ならびに社会的相互交渉に関する機能障害を,広範にわたり示す;自閉症より重篤度は低い

レット症候群

生後6カ月間の正常発達後の発達障害;頭部成長の減速;重度の精神遅滞;社会的相互交渉の障害;発話および手の目的的使用の喪失(結果として“手もみ様常同運動”となる);痙攣発作,自閉症的特徴,運動失調;ほぼ完全に女児に限定(Xq28上のMECP2遺伝子の変異が原因)

病因

自閉症スペクトラム障害症例の大部分は,脳を障害する疾患とは無関係である。しかしながら,先天性風疹症候群,巨細胞性封入体病,フェニルケトン尿症,または脆弱X症候群を伴う症例も存在する。

遺伝的要因は強固なエビデンスによって支持されている。PDD児を1人もつ親では,その後さらにPDD児をもうけるリスクが50〜100倍高くなる。また自閉症は,一卵性双生児における一致率が高い。家族研究からは標的遺伝子領域の候補がいくつか示唆されており,これらには神経伝達物質受容体(GABA)や中枢神経系の構造制御(HOX遺伝子)と関係する領域が含まれている。環境的原因(ワクチン接種や種々の食事法など)の存在も疑われてきたが,証明はなされていない。

自閉症の病因の多くの部分に,脳の構造および機能の異常が基礎にあると考えられている。自閉症児の中には,脳室拡大のあるもの,小脳虫部の低形成のあるもの,脳幹核に異常のあるものも存在する。

症状,徴候,診断

自閉症の発症は通常生後1年目であり,3歳までには必ず発症する。この障害は,非定型の相互交渉(すなわち,愛着の欠落,人と抱擁できない,相互的関係を築けない,視線をそらす),同一性への固執(すなわち,変化への抵抗,儀式,馴染みのある物への強い愛着,反復行動),言語の問題(全く話せない状態から,話し始めの遅れ,著しく特異な言語使用まで),ならびに知的能力の不均一を特徴とする。自傷行為を行う患児もある。患児の約25%は,それまでに獲得した技能の喪失(記録されているものに限る)を経験する。

現在の理論では,自閉症スペクトラム障害における基本的な問題は“心の盲目,”つまり他者が考えていることを想像することができない状態であるとされている。この問題により相互交渉の異常が生じ,さらに言語発達の異常に至ると考えられる。最も早期に確認できかつ最も感度の高い自閉症の指標の1つに,意思伝達のための物体の指差しが1歳時にできないというものがある。指し示されている物を他者が理解するということを患児が想像できないという仮説が立てられており,その代わりに,欲しい物に実際に触れるか大人の手を道具として使用することによって,欲しい物を明示しようとする。

非局所的な神経学的所見として,協調不良の歩行および常同運動がみられる。患児の20〜40%でてんかん発作が発生する(特に知能指数[IQ]が50未満の患児)。

診断は臨床的に行われ,社会的相互交渉およびコミュニケーションの障害,ならびに制限的,反復的,常同的な行動または興味の存在を示す証拠を必要とするのが通常である。スクリーニング検査には,Social Communication Ques-tionnaireやM-CHATなどがある。Autism Dia-gnostic Observation Schedule(ADOS)などの“ゴールドスタンダード”の正式な診断検査は,DSM-Ⅳの基準に基づくものであり,通常は心理士が施行する。自閉症児の検査は困難であるが,IQ検査では言語性項目よりも動作性項目の成績がよいのが通常で,ほとんどの領域で遅滞があるにもかかわらず年齢相応の成績を示すことがある。それでもなお,熟練の検者が施行したIQ検査からは,しばしば転帰を予測するのに有用な情報を得ることができる。

治療

集学的治療が行われるのが通常であり,また最近の研究から,相互交渉および意味のあるコミュニケーションを促進する,行動に基づく集中的アプローチに,ある程度の有効性が示されている。心理士および教育者は,典型例ではまず行動分析に重点を置き,その後,家庭および学校における患者固有の行動上の問題に合わせ,行動管理の方略を決定していく。言語療法は早期に開始すべきであり,サイン,絵カード交換,話し言葉などの様々な媒体を使用する。理学および作業療法士は,運動機能および運動計画能力における個々の欠陥を患者が補償する助けとなる方略を立て,実行する。SSRIにより儀式的行動のコントロールが得られることがある。抗精神病薬および,バルプロ酸などの気分安定薬が自傷行動のコントロールに有効なことがある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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