分離不安症

執筆者:Josephine Elia, MD, Sidney Kimmel Medical College of Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2019年 5月
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分離不安症は,愛着対象(通常は母親)からの分離に対して発達段階に不相応で持続的かつ強烈な恐怖を覚える状態である。患児はそのような分離を必死になって回避しようとする。分離を強制した場合,患児は悲痛なまでに再会することのみにとらわれ続ける。診断は病歴に基づいて行う。治療は患児と家族に対する行動療法であるが,重症例ではSSRIが使用される。

小児および青年における不安症の概要も参照のこと。)

分離不安は生後8~24カ月の小児では正常な感情であり,対象の永続性という感覚が発達し,親はいずれ戻ってくるということを理解するようになれば消失するのが通常である。しかし一部の小児では,分離不安がこの時期を過ぎても残存したり後から再来したりして,障害として考慮されるほど重症になる場合がある。分離不安症は一般的に幼児に発生し,思春期以降ではまれである。

生活上のストレス(例,近親者,友人,またはペットの死;転居,転校)が分離不安症を誘発することがある。また,遺伝的に不安に対する脆弱性をもつ人もいる。

症状と徴候

社交不安症と同様に,分離不安症もしばしば登校(または登園)拒否の形で現れてくる。

典型的には,分離の際には劇的な光景が繰り広げられる。典型例では児と愛着対象(通常は母親であるが親または養育者,いずれの場合もある)の双方が分離の場面を悲痛に感じる。児はしばしば親が離れられないほどに泣き叫び必死になって嘆願するため,分離場面の中断が困難となり長引いていく。児は引き離されると,愛着対象との再会に固着し,しばしばその人物が傷つけられるのではないか(例,交通事故で,重篤な病気で)と心配する。また,独りで寝ることを拒むこともあり,さらに常に愛着対象と同じ部屋にいたいと主張することさえある。

患児はしばしば身体的愁訴を来す(例,頭痛,胃痛)。

愛着対象が存在する間の患児の品行は正常であることが多い。この正常な品行ゆえに,ときとしてこれは重大な問題とはならないという誤った印象を与えることがある。しかし,愛着対象を失う(例,病気,誘拐,または死亡のため)のではと持続的かつ過剰に心配する児もいる。

分離不安はしばしば,親自身の不安によって増悪し,親の不安は児の不安を増強するため,悪循環が形成され,これは母親と児の両方に対する繊細かつ適切な同時治療によってのみ分断できる。

診断

  • 臨床的評価

分離不安症の診断は病歴聴取と分離場面の観察による。症状と徴候は4週間以上みられ,有意な苦痛または機能障害を来している(例,年齢相当の社会的活動または学校の活動に参加できない)必要がある。

治療

  • 行動療法

  • まれに抗不安薬

分離不安症の治療は,定期的な分離を系統的に強化する行動療法による。別れの場面は可能な限り短く終わらせるべきであり,児の抗議に対しては事もなげに反応するように愛着対象を指導すべきである。患児が幼稚園または学校内の成人の誰かに対して愛着を形成できるように援助することが助けになる場合がある。

極端な症例では,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI―不安症および関連症群の長期治療に使用される薬剤の表を参照)などの抗不安薬が有益となる場合もある。しかしながら,分離不安症はしばしば3歳という若さで発生するのに対し,このように極めて年少の小児においてはこれらの薬剤の使用経験は限られている。

治療が成功した小児でも,休日や学校の中断の後では再発しやすくなる。このような再発があることから,親との別離に対する慣れを維持するために,そのような期間には定期的に分離を計画するようしばしば親に指導する。

要点

  • 分離不安は生後約8~24カ月の小児では正常な感情である;それがこの時期を過ぎても残存したり後から再来したりする場合,障害として考慮されるほど重症になる場合がある。

  • 典型的には,分離の際には劇的でつらい光景が繰り広げられ,必死の泣き叫びや懇願がみられる。

  • 愛着対象である人物がいる場合に品行が正常だからといって,問題がささいなものということにはならない。

  • 治療は,定期的に分離する計画を立て(休日中など),愛着対象である人物に小児の抗議に対して事もなげに反応するよう指導することで行う。

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