メルクマニュアル18版 日本語版
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外傷性脳損傷

外傷性脳損傷は,一時的にまたは恒久的に脳機能を障害する,脳組織に対する物理的な損傷である。外傷性脳損傷は臨床的に疑われ,画像(主にCTであるが,MRIもときに付加的な価値を有する)により確定される。治療としては,まず補助呼吸,酸素投与,血圧測定により,さらなる損傷を防ぎ,次の段階として外科手術およびリハビリテーションを行う。

米国では年間約140万人が外傷性脳損傷(TBI)を生じる;このうち約5万人が死亡し,約8万人の生存者が結果として障害をもつようになる。原因には,自動車事故やその他の交通関連の原因(例,自転車の衝突,歩行者同士の衝突),転倒(特に高齢者および幼児),暴行,スポーツ活動が挙げられる。

病理

頭部外傷は,様々な種類の構造的傷害の原因となりうる。構造的な変化は,機序や関与した力の種類により,肉眼的にまたは顕微鏡的に確認される;より軽度の損傷の患者は,肉眼で確認できる構造的変化がないことがある。重症度やその後の成り行きによって,臨床症状は著しく異なる。損傷は一般的に開放性か閉鎖性かに分類される。

開放性損傷は,頭皮や頭蓋(そして通常は髄膜およびその下の脳組織)の穿通が関与する。これらの損傷には,典型的には銃弾または鋭利な物体が関与するが,激しい鈍的外力による頭蓋骨骨折と随伴するその上部の裂創も,開放性損傷を考慮させる。

閉鎖性損傷は,典型的には頭部に打撃を受けた場合,頭部が物体にぶつかった場合,または激しく揺さぶられた場合に,脳が急激な加速や減速を受けて発生する。加速や減速は,衝撃を受けた部位の組織(クー),その反対極の組織(コントラクー),またはびまん性に組織に損傷を与える可能性がある;前頭葉および側頭葉は特に損傷を受けやすい。軸索,血管,またはその両方に剪断や断裂が生じる可能性がある。破裂した血管からは血液が流出し,挫傷,脳内出血,くも膜下出血,血腫(硬膜外および硬膜下)を引き起こす。

脳震盪: 脳震盪は,外傷後の一過性および可逆性の精神状態の変化(例,意識や記憶の喪失)と定義され,数秒から数分続き,恣意的な定義によれば,6時間未満のものをいう。一時的に障害が著しくなることがあるものの,脳構造に肉眼的な病変はなく,重篤な神経症状も残らない。

びまん性軸索損傷: びまん性軸索損傷(DAI)は,減速により剪断型の力が生じる結果,軸索線維および髄鞘が広範囲にわたって全体的に破壊されると発生する(ただし,より小さい頭部損傷でDAIが生じることもある)。肉眼で確認できる構造的病変はないが,CTスキャン(および病理組織検査)では,しばしば白質に小さな点状出血が観察される。DAIは,ときに臨床的に,特異的な局所病変がない状態での6時間を超える意識消失として定義される。損傷から生じる浮腫は,しばしば頭蓋内圧(ICP)を亢進させ,様々な症状をもたらす(外傷性脳損傷: 病態生理を参照 )。DAIは,揺さぶられっ子症候群の基礎となる損傷の典型である。

脳挫傷: 脳挫傷(脳の圧挫)は,開放性(穿通性を含む)または閉鎖性の損傷で発生し,挫傷の大きさや場所によって,脳機能を広範囲に障害しうる。より大きい挫傷は,広範な脳浮腫および頭蓋内圧亢進を引き起こすことがある。

血腫: 血腫(脳の内部または周囲における血液の貯留)は,穿通性または閉鎖性の損傷で起こる可能性があり,硬膜外,硬膜下,または脳内に生じる。くも膜下出血(SAH―脳卒中: クモ膜下出血を参照 )は,外傷性脳損傷において一般的である。

硬膜下血腫は,硬膜と軟膜くも膜との間の血液貯留である。急性の硬膜下血腫は,しばしば脳または皮質静脈の裂傷,もしくは皮質と硬膜静脈洞との間の架橋静脈の剥離により生じ,転倒や自動車衝突事故の後にしばしば発生する。血腫により脳組織が圧迫されると浮腫が起こることがあり,結果的に頭蓋内圧亢進の徴候が出現する(外傷性脳損傷: 症状と徴候を参照 )。死亡率,罹病率は高くなりうる。

慢性硬膜下血腫は,受傷後数週間かけて次第に発現した症状を呈することがある。こうした血腫は多くの場合,高齢者の患者(特に,血小板凝集抑制剤または抗凝固剤を服用中の患者)に起こるが,頭部損傷をそれほど重大に捉えていないか,さらには忘れていることもある。急性硬膜下血腫の場合とは対照的に,浮腫や頭蓋内圧亢進は通常認められない。

硬膜外血腫(頭蓋骨と硬膜の間の血液)は,硬膜下血腫より一般的でない。硬膜外血腫は,通常,動脈出血が原因であり,古典的には側頭骨骨折による中硬膜動脈の損傷に起因する。大きなまたは動脈性の硬膜外血腫の患者は,治療がなされなければ急速に悪化し死亡することがある。小さな,静脈性の硬膜外血腫が致死的なことはまれである。

脳内血腫(脳自体の中の血液貯留)は,しばしば挫傷の融合から生じる;したがって挫傷と脳内血腫の区別には明確な定義がない。特に側頭葉または小脳の血腫では,頭蓋内圧亢進,嵌入,脳幹機能不全が続いて発現する。

頭蓋骨骨折: 穿通性外傷ではその定義から言って骨折を伴う。閉鎖性の損傷も頭蓋骨骨折を起こすことがあり,線状,陥没,または複雑骨折の場合がある。頭蓋骨骨折を伴わなくても,重篤でさらには致死的の外傷性脳損傷は発生しうるが,骨折があれば,重大な力が関与したことが示唆される。びまん性の頭部外傷を伴う患者に骨折があれば,頭蓋内損傷のリスクが高いことを示す。対照的に,頭部の局所的外傷(例,小さな物体での殴打)による骨折は,必ずしも頭蓋内損傷のリスクが高いことを示唆しない。同様に,単純な頭蓋骨線状骨折は,神経学的障害があるか,乳児に発生した骨折の場合を除いて,通常,リスクは高くない。

陥没骨折は,硬膜の断裂,その下の脳への損傷,またはその両方のリスクが最も高い。

側頭骨骨折が中硬膜動脈の領域と交差する場合は,硬膜外血腫の可能性がある。骨折が主要な硬膜静脈洞の1つと交差する場合は,重大な出血および静脈性の硬膜外または硬膜下血腫を引き起こすことがある。頸動脈洞を巻き込む骨折は,頸動脈損傷を起こす可能性がある。

後頭骨および頭蓋骨の底部(頭蓋底)は厚く強靭であるため,これらの部位の骨折は強い衝撃を受けたことを示す。側頭骨の錐体部内にまで広がる頭蓋底の骨折は,しばしば中耳および内耳の構造を損傷し,顔面神経,聴神経,前庭神経の機能を障害する可能性がある。

乳児の場合,頭蓋骨線状骨折部に髄膜が入り込んで軟膜嚢胞を発生するに至り,初めの骨折が大きくなる場合がある(進行性頭蓋骨骨折)。

病態生理

直接的な障害(例,衝突,裂創)により,脳の機能が即時に障害されることがある。その後,最初の損傷が引き金となって一連の事象が次々に生じ,その結果,さらなる障害が発生することもある。

外傷性脳損傷は,その種類を問わず,受傷組織に浮腫を引き起こしうる。頭蓋冠は,大きさが固定され(頭蓋骨により制約を受ける),圧縮不可能な液体(CSF)でほぼ完全に満たされ,圧縮性がほとんどない脳組織である;したがって,浮腫,出血,または血腫によるいかなる腫脹も,広がる余地がなく,故に頭蓋内圧の亢進を招く。脳の血流は,脳灌流圧(CPP)に比例し,これは平均動脈圧(MAP)と平均頭蓋内圧の差である。したがって,頭蓋内圧が亢進(またはMAPが低下)すると,CPPは低下し,CPPが約50mmHgを下回ると,脳組織は虚血になる。局所的な浮腫や血腫から生じる圧迫のために,病変部位の血流が障害される場合,上記の機序により,局所レベルでも虚血が引き起こされることがある。虚血および浮腫により,続いて興奮性神経伝達物質および遊離ラジカルの放出をもたらし,さらなる頭蓋内圧亢進を招く。外傷により生じる全身性の合併症(例,低血圧症,低酸素症)もまた,脳虚血の一因となり,しばしば脳の第二次傷害と呼ばれる。

過剰な頭蓋内圧はまず全般的な脳機能障害を引き起こす。過剰な頭蓋内圧が改善されなければ,内圧により脳組織が押されて小脳テントを越えるか大後頭孔を通過して,ヘルニアを起こす可能性があり(昏迷と昏睡: ヘルニア症候群を参照 ),罹患および死亡のリスクが有意に高まる。また,頭蓋内圧がMAPと等しくなるまで上昇すると,CPPがゼロになり,その結果完全な脳虚血となり,急速に脳死につながる;頭蓋内の血流がないことは,脳死判定の1つの基準に用いられる(昏迷と昏睡: 脳死を参照 )。

症状と徴候

軽度の損傷の場合,混乱か健忘(健忘は通常逆行性であり,数秒から数時間続く)しか示さない患者もいるものの,初期段階では,大多数の外傷性脳損傷患者は意識を消失する(通常は数秒または数分間)。幼児では,過敏になるだけの場合もある。けいれんを起こす患者もあり,最初の1時間か1日以内に発現することが多い。これらの初期症状の後,患者は完全に意識清明となるか,または意識や機能に変化がみられる場合があり,その程度は軽度の混乱から昏迷,昏睡まで幅がある。意識消失の長さと意識鈍麻の重症度は,損傷の重症度とおおよそ比例するが特異的ではない。 グラスゴー昏睡尺度(CGS― 外傷性脳損傷: グラスゴー昏睡尺度*表 1: 表を参照)は,迅速かつ再現性のある評価システムで,外傷性脳損傷の重症度を評価する最初の検査で使用される。評価は,覚醒(開眼により証拠づけられる)と,最良の運動および言語反応に基づく。スコアが3の場合,特に両方の瞳孔が光に対し反応を示さず,眼球前庭反応がない場合は,致死性の可能性のある障害を示す。スコアが高いほど,良好な回復を予測する傾向がある。慣習的に,頭部損傷の重症度はまずGCSにより決定される(GCSスコアが14または15は軽度の外傷性脳損傷;GCSスコアが9〜13は中等度の外傷性脳損傷;GCSスコアが3〜8は重度の外傷性脳損傷である);しかしながら,重症度および予後は,CTスキャンによる所見の検討やその他の要素も考慮することで,より正確に予測される。初期に中等度の外傷性脳損傷である一部の患者や,初期に軽度の外傷性脳損傷である少数の患者が,その後悪化する。乳児や幼児には,乳児および小児に対する改訂グラスゴー昏睡尺度が使用される( 外傷性脳損傷: 乳児および小児に対する改訂グラスゴー昏睡尺度表 2: 表を参照)。

表 1

グラスゴー昏睡尺度*

判定基準

反応

スコア

開眼

自発的に開く;ベースライン時に開いて瞬きをする

4

 

言葉による命令,話しかけ,大声によって開く

3

 

肢か胸骨に与えた痛みに反応して開く

2

 

なし

1

言語反応

見当識がある

5

 

会話は混乱しているが,質問に答えられる

4

 

不適切な反応;単語を識別できる

3

 

理解できない言葉

2

 

なし

1

運動反応

運動の命令に従う

6

 

痛みに対して目的をもった動きで反応する

5

  痛みの刺激から逃避する

4

 

痛みに対して異常な(痙性)屈曲(除皮質姿勢)で反応する

3

 

痛みに対して異常な(硬直)伸展(除脳姿勢)で反応する

2

 

なし

1

*合計スコアが8未満の場合,典型的に昏睡とみなされる。

Adapted from Teasdale G, Jennett B: Assessment of coma and impaired consciousness. A practical scale. Lancet 2:81–84; 1974.

表 2

乳児および小児に対する改訂グラスゴー昏睡尺度

判定基準

乳児

小児

スコア*

開眼

自発的に開く

自発的に開く

4

 

言葉の刺激に反応して開く

言葉の刺激に反応して開く

3

 

痛みに対してのみ開く

痛みに対してのみ開く

2

 

反応なし

反応なし

1

言語反応

のどを鳴らしたり片言を話したりする

見当識があり,適切

5

 

怒って泣く

混乱している

4

 

痛みに対して泣く

不適切な言葉

3

 

痛みに対してうめく

意味不明の言葉または言葉にならない声

2

 

反応なし

反応なし

1

運動反応†

自発的に目的をもって動く

命令に従う

6

 

触ると逃避する

疼痛刺激の位置が分かる

5

 

痛みに対して逃避する

痛みに対して逃避する

4

 

痛みに対して除皮質姿勢(異常屈曲)を示す

痛みに対して屈曲を示す

3

 

痛みに対して除脳姿勢(異常伸展)を示す

痛みに対して伸展を示す

2

 

反応なし

反応なし

1

*スコアが12以下なら重度の頭部損傷が示唆される。スコアが8未満なら挿管と人工呼吸の必要が示唆される。スコアが6以下なら頭蓋内圧監視の必要が示唆される。

†患児が,挿管状態,意識消失の状態,または言語能力習得前である場合,本尺度の最も重要な部分は運動反応である。この項目が慎重に評価されるべきである。

Adapted from Davis RJ et al: Head and spinal cord injury. In Textbook of Pediatric Intensive Care, edited by MC Rogers. Baltimore, Williams & Wilkins, 1987; James H, Anas N, Perkin RM: Brain Insults in Infants and Children. New York, Grune & Stratton, 1985; and Morray JP et al: Coma scale for use in brain-injured children. Critical Care Medicine 12:1018, 1984.

硬膜外血腫の症状は,通常,受傷後数分から数時間のうちに発現し,次第に激しくなる頭痛,意識レベルの低下,片麻痺,対光反応の喪失を伴う散瞳がみられる。一部の患者は意識を消失した後,一時的な意識清明期を経て,神経学的な悪化に至る。

頭蓋内圧の顕著な亢進は,古典的に高血圧,徐脈,呼吸抑制の組み合わせ(クッシングの3徴候)として発現する。嘔吐が起こることもあるが特異的ではない。重度のびまん性脳損傷または頭蓋内圧の顕著な上昇は,除皮質または除脳姿勢を示すことがある。いずれも予後不良の徴候である。

テント切痕ヘルニア(昏迷と昏睡: ヘルニア症候群を参照 )は,昏睡,一側性または両側性の非反応性散瞳,片麻痺(通常は一側性の散瞳の反対側),高血圧,徐脈,呼吸抑制(緩慢かつ不規則)をもたらすことがある。

頭蓋底骨折により,鼻から(髄液鼻漏)または耳から(髄液耳漏)の髄液流出,鼓膜の裏側での出血(鼓膜内出血),または鼓膜が破れていれば外耳道での出血,耳の後部の斑状出血(バトル徴候),または眼窩周囲の斑状出血(アライグマの目)を発生する。嗅覚,聴覚,または顔面神経機能の消失が,ときに受傷直後か少し遅れて発生する。頭蓋冠のその他の骨折は,陥没や階段状変形として,特に頭皮の裂創を通して,触知できることが時としてある。しかしながら,帽状腱膜下出血がそのような階段状変形に類似することもある。

慢性硬膜下血腫のある患者は,日増しに激しくなる頭痛,変動性の嗜眠状態や昏迷(初期の認知症に似る),軽度から中等度の片麻痺を呈することがある。

長期的な症状: 健忘は遷延することがあり,また,逆行性,前向性のいずれの場合もある。脳震盪後症候群は,一般的に重大な脳震盪に続いて起こるもので,頭痛,めまい,疲労,集中困難,種々の健忘症,抑うつ,感情鈍麻,不安を呈する。一般的に嗅覚(したがって味覚も),ときに聴覚,またまれに視覚が変化もしくは消失すること。症状は通常,数週間から数カ月の間に自然消失する。

重度および中等度の外傷性脳損傷でも,特に構造的障害が重大であった場合,その後様々な認知機能および神経精神医学的異常が遷延する可能性がある。一般的な問題として,健忘,行動変化(例,興奮,衝動性,脱抑制,意欲の欠如),情動不安定,睡眠障害,知能低下が挙げられる。遅発けいれん(受傷後7日を過ぎてから)を発現する患者が低率にみられ,しばしば数週間,数カ月,または数年の後に起こる。痙性の運動障害,歩行および平衡感覚障害,運動失調,感覚低下が起こることがある。

前脳部の認識機能が損傷されるが,脳幹は免れた外傷性脳損傷の後に,持続的な植物状態(昏迷と昏睡: 植物状態を参照 )になることがある。自覚精神活動の能力は欠如する;しかしながら,自律神経反射や運動反射,および正常な睡眠-覚醒のサイクルは保持される。損傷後植物状態が3カ月続く場合は,正常な神経機能を回復する患者はほとんどなく,6カ月後ではほぼ皆無に等しい。

神経機能は,外傷性脳損傷の後最低2年から数年の間に改善される傾向があり,その進み方は最初の6カ月間が最も速い。

診断

初期の全体的な損傷の評価が行われるべきである(外傷患者へのアプローチ: 評価と治療を参照 );重篤な損傷を受けた患者では,診断と治療を同時進行で行う。

迅速な,的をしぼった神経学的評価は,初期評価の一部をなし,GCSの各構成要素,気道および呼吸の適切さ,眼球運動の評価が含まれる。患者は麻痺性薬物やオピオイドの投与前に評価されるのが理想である。患者の評価は頻回に(例,初期は15〜30分毎,安定化の後は1時間毎)繰り返される。その後みられる改善や悪化は,損傷の重症度や予後を推測する上で役に立つ。患者が十分に安定し次第すぐに,完全な神経学的診察が行われる。小児の網膜出血は揺さぶられっ子症候群を示唆する可能性があるため,その有無を慎重に調べるべきである。成人における眼底検査は,外傷性脳損傷をみるには感度が低く,しばしば実施も困難である。

脳震盪の診断は臨床的に行うが,画像検査が脳全体の状態の確定や血腫の同定に役立つ可能性がある。意識障害がある,GCSスコアが15未満,局所的な神経学的所見がある,遷延する嘔吐,発作がある,または臨床的に骨折が疑われる患者では,画像検査が常に行われるべきである。しかしながら,血腫を見逃すことがもたらす臨床的,法医学的な影響は極めて深刻になるため,多くの臨床医は,ごく軽度の頭部損傷以外の患者全員を対象としてCTを実施している。

CTは初期の画像検査としては最良の選択である;この検査により頭蓋骨骨折(細い骨折線が描出され,臨床的に疑われた頭蓋底の骨折が明らかになるが,それはCT以外では確認できないことがある),血腫,挫傷,またときにDAIが検出できる。単純X線検査でも一部の頭蓋骨骨折を検出できるが,脳の評価には役立たないためめったに使われない。MRIは,臨床経過の後期で,より微細な挫傷やDAIを検出するのに役立つことがある;非常に小さな急性期または等吸収域の亜急性期,および等吸収域の慢性期硬膜下血腫の診断には,通常CTよりもMRIの方が感度が高い。血管損傷が疑われるか,CT所見が身体診察所見と矛盾する場合,血管造影がときとして用いられる。

予後

米国において,治療された重度の外傷性脳損傷の成人では,死亡率が約25〜33%である;GCSスコアが高いほど死亡率は低い。5歳以上の小児では死亡率がより低くなる(GCSスコアが5〜7の場合10%以下)。損傷が同程度の成人と比べると,全体として小児の方が良好な経過をたどる。

軽度の外傷性脳損傷患者の大半は,良好な神経学的機能を保持する。中等度または重度の外傷性脳損傷では,予後は良好とはいえないが,一般に考えられているよりは,はるかに良好である。外傷性脳損傷患者の転帰の評価に使用される最も一般的な尺度は,グラスゴー転帰尺度である。この尺度では,考えられる転帰として,良好な転帰(新たな神経学的異常がないこととして定義される),中等度の障害(セルフケアは可能だが,新たな神経学的欠損のある患者として定義される),重度の障害(セルフケアが不可能な患者として定義される),植物状態(認知機能のない患者として定義される),および死亡がある。重度の外傷性脳損傷を有する成人のうち50%以上は,良好な回復または中等度の障害を示す。重度の外傷性脳損傷の成人において,回復は最初の6カ月のうちに最も急速に起こる;その後はより小規模の改善が,おそらく数年間にわたって続く。外傷性脳損傷の重症度にかかわらず,小児の方がより良好かつ速い回復を示し,改善もより長期にわたり継続する。

集中力,注意力,記憶力の障害を伴う認知障害,および様々な人格変化の方が,特異的な運動障害や感覚障害よりも,社会での人間関係や雇用における障壁の原因となることが多い。外傷後の嗅覚脱失および急性期の外傷性失明は,3〜4カ月を過ぎるとほとんど回復しない。片麻痺および失語症は,高齢者を除いて,通常は軽減する。

治療

自動車衝突事故や転落では複合的な非頭部外傷も生じていることが多く,しばしば同時進行での治療が要求される。外傷患者の初期蘇生については,外傷患者へのアプローチ: 評価と治療を参照 のこと。

受傷の現場では,気道を十分に確保し,外出血を抑えてから患者を移動させる。脊髄および血管を保護するために,脊椎やその他の骨の転位を避けるべく,特別の注意が払われる。適切な診察および画像検査(脊髄外傷: 診断を参照 )により脊椎全体の安定性が確実に証明されるまで,頸部のカラーおよび長い脊椎ボードで適正な固定の状態が維持されるべきである。初期の迅速な神経学的評価を経た後,短時間作用のオピオイド(例,フェンタニル)で痛みを緩和すべきである。

状態の悪化は早急な対応を要するため,病院では,迅速な初期評価の後,数時間のうちに神経学的所見(GCSおよび瞳孔反応),血圧,脈拍,体温を頻回に記録するべきである。一連のGCSおよびCTの記録により,損傷の重症度がGCSで定義される分類に層別化され,これが治療の指針となる。

あらゆる患者において管理の基礎となるのは,肺の十分なガス交換と脳灌流を維持して脳の第二次傷害を回避することである。低酸素症,高炭酸ガス血症,低血圧,頭蓋内圧亢進に対して,積極的に早期治療を行うことは,二次的合併症を回避するのに役立つ。検査し予防すべきその他の合併症には,高体温,低ナトリウム血症,高血糖,体液のバランス異常が挙げられる。

受傷部位からの出血(外出血および内出血)は,必要に応じて迅速にコントロールし,血管内容量は,速やかに適切な液体(0.9%食塩水,またはときに輸血)を補充して脳灌流を維持する。低張液(特に5%ブドウ糖溶液)は,遊離水を過剰に含むため禁忌である。発熱はコントロールする。

軽度の損傷: 外傷性脳損傷を受けて救急部門を訪れる患者の80%は,軽度(GCSスコア上)の損傷である。意識喪失が短時間であるか,全くみられず,患者が安定したバイタルサイン,正常な頭部CTスキャン,正常な精神および神経機能を示す場合,その後さらに24時間家族や友人がしっかりと観察できることを条件に,家に帰してもよい。観察者には,患者が次のいずれかを発現したならば,病院に戻すよう指導する:意識レベルの低下,局所的な神経障害,次第に悪化する頭痛,嘔吐,または精神機能の悪化。

神経学的変化が最小限または皆無であっても,頭部CTに小さな異常が認められる患者は,入院させて観察およびCTにより追跡すべきである。

中等度および重度の損傷: 外傷性脳損傷を受けて救急部門を訪れる患者の10%は,中等度の損傷である。挿管および人工呼吸(その他の損傷がない限り)や,頭蓋内圧の監視は必要ないことが多い。しかしながら,悪化する可能性があるため,これらの患者は,たとえ頭部CTが正常でも,入院させて観察すべきである。

外傷性脳損傷を受けて救急部門を訪れる患者の10%は,重度の損傷である。これらの患者は集中治療室に収容する。通常は気道保護反射が障害され,頭蓋内圧亢進が起きるため,頭蓋内圧亢進を回避する措置を取りながら気管内挿管をする。GCSおよび瞳孔の反応により,綿密な監視を続けるべきであり,CTスキャンを繰り返し行う。

頭蓋内圧亢進: 気道補助や機械的人工換気を要する外傷性脳損傷の患者には,頭蓋内圧亢進を招く可能性がより高い経鼻挿管(呼吸不全および機械的人工換気を参照 )よりも,むしろ経口挿管を行う。いずれの経路による挿管においても起こりうる頭蓋内圧亢進を最小限に留めるために,適切な薬物を計画的に効率よく使用すべきである―例えば,一部の臨床医は,リドカイン1.5mg/kgを1〜2分静注投与後,筋弛緩薬の投与を推奨する。典型的には,サクシニルコリン1mg/kg静注が筋弛緩薬として使用される。 エトミデートは,血圧に与える影響が最小限であるため,導入薬に適している;静注投与量は成人で0.3mg/kg(または平均的な体格の成人に対して20mg),小児で0.2〜0.3mg/kgである。または,低血圧が認められずその可能性も低く,プロポフォールが容易に入手できる場合は,0.2〜1.5mg/kgを投与して挿管してもよい。

パルスオキシメトリーおよびABG(もし可能であれば呼吸終期のCO2)を用いて,酸素化および換気が十分であるかを評価すべきである。目標は,正常なPaco2レベル(38〜42mmHg)である。以前は,予防的過換気(Paco225〜35mmHg)が推奨された。しかしながら,このようにPaco2を低下させることで,脳血管収縮が起こり頭蓋内圧を低下できるものの,脳灌流も減少するため虚血が生じることがある。したがって過換気の使用は,他の手段に反応しない頭蓋内圧亢進の治療を目的とし,Paco2レベルを30〜35mmHgにする場合に限られ,使用時間も最初の数時間内,しかも短時間に制限される(外傷性脳損傷: 頭蓋内圧亢進を参照 )。

簡単な命令にも従えない重度の外傷性脳損傷患者,特に頭部CTスキャンで異常が示される患者には,頭蓋内圧および脳灌流圧の監視(重症患者へのアプローチ: 頭蓋内圧モニタリングを参照 )とコントロールが推奨される。目標は,頭蓋内圧を20mmHg未満,脳灌流圧を50〜70mmHgに維持することである。ベッドの頭側を30°起こし,患者の頭を正中位に維持させることにより,脳静脈のドレナージが促される(したがって頭蓋内圧が低下する)。脳室内カテーテルが正しく挿入されていれば,髄液のドレナージにより頭蓋内圧を低下させることができる。

興奮,過剰な筋肉活動(例,せん妄による),痛みを予防することも,頭蓋内圧の亢進を防ぐ助けとなる。鎮静薬として,作用の発現が早く持続時間も短いことから,成人に対し(小児には禁忌)しばしばプロポフォールが使用される;投与量は0.3mg/kg/時を持続点滴静注し,必要に応じて(3mg/kg/時まで)漸増する。初期のボーラスは使用しない。最も一般的な有害作用は低血圧である。高用量を長期的に使用すると膵炎を引き起こす可能性がある。ベンゾジアゼピン系薬(例,ミダゾラム,ロラゼパム)も鎮静薬として使用できる。抗精神病薬は回復を遅らせる可能性があるため,可能なら回避すべきである。せん妄にはハロペリドールが数日間使用されることがある;より遷延するせん妄は,トラゾドン,ガバペンチン,バルプロエート製剤,またはクエチアピンで治療できるが,これらの薬物がハロペリドールより優れるかどうかは不明である。まれに,筋弛緩薬が必要なことがある;その場合は,臨床的に激越の評価ができなくなるため,十分な鎮静を確実に得なければならない。痛みを十分に抑制するには,しばしばオピオイドが必要となる。

正常な血液量および正常またはやや高めの浸透圧を維持すべきである(目標とする血清浸透圧は295〜320mOsm/kg)。頭蓋内圧を下げ,血清浸透圧を保つために,浸透圧利尿薬(例,マンニトール)を静注投与することがある。しかしながら,これらの薬剤は状態が悪化している患者を対象とするか,血腫のある患者に対して手術前に使用すべきである。20%マンニトール溶液0.5〜1g/kgを15〜30分かけて静脈内投与し,0.25〜0.5g/kgを1回の投与量の範囲とし,必要に応じた頻度(通常6〜8時間毎)で反復投与する;これにより数時間で頭蓋内圧は低下する。マンニトールは血管内容量を急速に増大させるため,重度の冠動脈疾患,心不全,腎不全,または肺血管うっ血のある患者における使用には注意が必要である。浸透圧利尿薬によってナトリウムに比し腎臓からの水分排出が増えるため,マンニトールを継続使用すると,脱水や高ナトリウム血症を来すこともある。フロセミド1mg/kg静注も,体内総水分量の低減に有益であり,特にマンニトール投与に関連する一過性の循環血液量増加を避けるべき場合に役立つ。浸透圧利尿薬を使用する間,水分と電解質のバランスを注意深く監視すべきである。頭蓋内圧をコントロールするもう1つの浸透圧性物質候補として,3%食塩水の研究が進められている。

頭蓋内圧亢進が,その他の処置に抵抗性を示す場合,短時間の過換気(例,Paco2を30〜35mmHgにするため)が必要となることがある。難治性の頭蓋内圧亢進に対する代替治療として,減圧開頭術がある。この手技では,骨弁が除去され(後で戻される),脳が外方向に腫脹できるように硬膜形成術が施される。

難治性の頭蓋内圧亢進に対する別の治療にペントバルビタールによる昏睡がある。ペントバルビタール10mg/kgを30分かけて投与後,5mg/kg/時を3回投与,その後1mg/kg/時で投与し,昏睡を誘導する。脳波活動のバーストを抑えるために,投与量を調節し,脳波を継続的に監視する。低血圧はよく起こり,補液により管理し,必要であれば昇圧薬を投与する。

全身低体温療法の有用性は証明されていない。コルチコステロイドは,頭蓋内圧のコントロールには有用でなく,推奨されない;最近の多国間臨床試験では転帰が悪化することが判明している。

けいれん: 遷延するけいれんは,脳の障害を悪化させ,頭蓋内圧亢進を招くことがあり,可能であれば予防し,生じた場合は迅速に治療すべきである。重大な構造的損傷(例,より大きい挫傷または血腫,脳の裂傷,頭蓋骨の陥没骨折)がある,またはGCSスコアが10未満の患者には,予防的な抗痙攣薬を考慮すべきである。フェニトインを使用する場合は,20mg/kgの負荷用量を静脈内投与する(低血圧や徐脈など,心血管系の有害作用を防ぐために,1分間に50mgを上限とする)。成人の静注開始維持量は2〜2.7mg/kg,1日3回である;小児にはより高用量が必要である(4歳未満の小児では最高5mg/kg,1日2回)。血清濃度を測定し,投与量を調節すべきである。治療期間は損傷の型や脳波検査の結果により,様々である。1週間のうちに発作がなければ,以後の発作に対する抗痙攣薬の予防効果については確立されていないため,使用を中止すべきである。より新しい抗痙攣薬が研究中である。

頭蓋骨骨折: 閉鎖性骨折で,骨が正しい位置にあれば,治療は特に必要ない。陥没骨折の場合は,骨破片の挙上,損傷した皮質の血管の処置,硬膜の修復,損傷した脳の壊死組織切除などの目的で,ときに外科手術が必要となる。開放性骨折は壊死組織切除を要する。抗生物質の予防的投与は,効果を証明するデータが少なく,薬物耐性株の出現を促すという問題があるため,意見が分かれている。

手術: 頭蓋内血腫では,手術による血液の排出が必要となることがある。血腫の迅速な排出により,脳偏位および圧迫の予防や治療ができる;早期の脳神経外科学的診察が必須である。しかしながら,多くの血腫は外科的除去を要しない。小さな脳内血腫はほとんど外科的処置を必要としない。小さな硬膜下血腫のある患者は,しばしば外科的処置なしで治療されうる。外科手術の必要を示唆する要素として,正中線より5mmを超える脳偏位,基底槽の圧迫,次第に悪化する神経学的検査所見が挙げられる。慢性硬膜下血腫は,外科ドレナージを要することがあるが,急性硬膜下血腫に比べて緊急性ははるかに少ない。大きいまたは動脈性の硬膜外血腫は外科的に治療されるが,小さい静脈性の硬膜外血腫はCTスキャンで臨床経過を観察できる。

リハビリテーション: 神経学的異常が遷延する場合,リハビリテーションが必要となる。脳損傷支援グループが,脳損傷患者の家族を支援する。

外傷性脳損傷後の昏睡発生の有無,および昏睡の持続時間は,リハビリテーションの必要性を予測する上で有用である;昏睡が24時間を超える患者のうち,50%は遷延する大きな神経学的後遺症を有し,2〜6%は6カ月の時点で依然として植物状態にある。最初の入院を生存退院できた患者には,長期のリハビリテーションが,特に認知機能および情緒の領域でしばしば必須であり,早期にリハビリテーションを計画するべきである。

リハビリテーションは,理学療法,作業療法,言語療法;技術訓練活動;および患者の社会的,情緒的ニーズに応えるためのカウンセリング(リハビリテーション: 頭部損傷も参照 )を組み合わせたチームアプローチとして提供されるのが最適である。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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