|
熱射病は,多臓器不全およびしばしば死亡を引き起こす全身の炎症反応を伴う高体温である。症状として,40°C以上の体温および精神状態の変化がある;発汗がしばしば認められない。診断は臨床的に行う。治療は,急速な体外冷却,静脈内急速輸液,および臓器不全に対する必要に応じた支持である。
熱射病は,体温調節機構が機能しなくなり,深部体温が大きく上昇した場合に生じる。炎症性サイトカインが活性化し,多臓器不全が発症しうる。腸管内細菌叢由来のエンドトキシンも関与していることがある。臓器不全は,中枢神経,骨格筋(横紋筋融解),肝臓,腎臓,肺(急性呼吸促迫症候群),および心臓に起きることがある。凝固カスケードが活性化され,ときに播種性血管内凝固症候群が引き起こされる。高カリウム血症および低血糖が起こることがある。
2つの種類がある:古典的なものと労作性のものである。古典的熱射病は発症までに2〜3日の暴露を必要とする。夏の酷暑の期間に,典型的には高齢で,座っていることが多く,エアコンを所有せず,そしてしばしば水分を入手する機会が限られている人に起きる。例外的に暑かった2003年の夏,古典的熱射病により,ヨーロッパで多数の死亡が引き起こされた。
労作性熱射病は,健康で活動的な人(例,運動選手,軍隊入隊者,工場労働者)で急に発症する。高温環境における強度の労作は,身体が調節できない急激で大量の熱負荷をもたらす。横紋筋融解がよく起こる;腎不全および凝固異常が若干多くみられ,重度である。
熱射病に類似する症候群が,特定の薬物(例,コカイン,フェンシクリジン[PCP],アンフェタミン,モノアミンオキシダーゼ阻害薬)の使用後に生じることがある。通常過剰投与を要するが,労作および環境条件が相加因子となることがある。悪性高熱症(薬物療法の概念: 悪性高熱症を参照 )は,一部の麻酔薬および抗精神病薬への暴露により生じることがある;この遺伝性疾患の死亡率は高い。
症状と徴候
広範な中枢神経系機能障害が特徴であり,錯乱からせん妄,発作および昏睡までみられる。頻脈(患者が仰臥位であっても),および頻呼吸がよくみられる。古典的熱射病では,皮膚は高温となり乾燥する。労作性熱射病では,発汗が比較的よくみられる。いずれも,体温は40°Cを超え,46°Cを超えることもある。
診断
診断は労作および高温環境の過程から通常明白である;しかしながら,報告された状態がそれほど極端ではない場合は,急性感染症(例,敗血症,髄膜炎)およびトキシックショックを除外すべきである。症状の発現を引き起こしうる薬物について考慮すべきである。
臨床検査は,CBC,PT,PTT,電解質,BUN,クレアチニン,Ca,CPK,および肝機能検査を行い,臓器機能を評価する。尿道カテーテルを留置し,尿を採取して尿試験紙で潜血の確認を行い,さらに排泄量をモニタリングする。尿中薬物スクリーニングが役立つことがある。ミオグロビンを検出する検査は必要ない。深部体温の連続モニタリング(通常直腸や食道のプローブを使用する)が望ましい。
予後と治療
死亡率は高いが,年齢,基礎疾患,最高体温,および最も重要である高体温の持続時間と冷却の迅速性により変動する。生存者の約20%に脳障害が残る。一部の患者では,腎不全が持続する。体温は数週間不安定なことがある。
迅速な評価および効果的で精力的な冷却の重要性は,いくら強調してもし過ぎることはない。氷に浸したタオルおよび氷水への浸漬が効果的であるが,震えや皮膚血管収縮を起こさない冷却法が望ましい。気化冷却は心地よく簡便であり,一部の専門家は最も急速な方法と考えている。処置の間,患者を常に水で湿らせ,皮膚に風を送り,血流を活性化するため精力的にマッサージを行う。噴霧ホースと大型の扇風機が最適であり,野外の群集に対して使用できる。気化により冷却が起こるので,快適温のぬるい(例,30°C)水で十分である;冷水または氷水は必要ない。野外では,池や小川で冷水に浸けてもよい。氷嚢の腋窩部および鼠径部への適用も利用できるが,単独の冷却法としては有用でない。命にかかわる症例では,患者を文字通り氷詰めにし,綿密にモニタリングを行うことが,急速に深部体温を下げるのに推奨されている。
0.9%生理食塩水による静注補液を開始する(熱中症: 熱疲憊を参照 で述べたように)。臓器不全および横紋筋融解を治療する(本書の別項を参照)。
注射可能なベンゾジアゼピン(例,ロラゼパムやジアゼパム)を,興奮および発作(これにより熱産生が増大する)の抑制に使用できる;発作は冷却中に起こることがある。嘔吐および胃内容物の吸引が起こりうるため,気道を保護する方法が必要となる場合がある。激しく興奮した患者では,麻痺と人工呼吸を要することがある。
重度の播種性血管内凝固症候群に対して,血小板および新鮮凍結血漿を必要とする場合がある。ミオグロビン尿症がある場合,尿をアルカリ化させるNaHCO3の静注が腎毒性の抑制に有用となりうる。高カリウム血症の心毒性の治療に,Ca塩の静注が必要となることがある。低血圧の治療に使用される血管収縮薬は,皮膚の血流を低下させ,放熱を減少させうる。血液透析が必要な場合がある。解熱薬(例,アセトアミノフェン)は益がない。
ダントロレンは麻酔薬誘発性の悪性高熱症の治療に使用されるが,その他の原因による重度の高体温に有益であるとは証明されていない。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
|