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低体温症

執筆者:

Daniel F. Danzl

, MD, University of Louisville School of Medicine

レビュー/改訂 2021年 3月
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低体温症とは,深部体温が35℃未満となることである。症状は,シバリングおよび嗜眠から錯乱,昏睡および死亡へと進行する。軽度の低体温症には,暖かな環境と断熱性の毛布が必要である(受動的復温)。重度の低体温症には,体表面(例,温風ブランケット,輻射熱装置)や深部(例,吸入,加温した液の点滴および灌流,体外的血液復温)の能動的復温が必要である。

一次性低体温症により,米国では毎年約600人が死亡している。低体温症はまた,心血管疾患および神経疾患における死亡リスクに有意な影響を及ぼしているが,その影響は十分に認識されていない。

病因

低体温症は,身体の熱放散が熱産生を上回る場合に生じる。低体温症は寒冷気候時や冷水に浸かっているときに最もよく起こるが,温暖な気候でも,冷たい表面に動かず横たわっていた場合や(例,酩酊時),水泳用温度の水(例,20~24℃)に非常に長時間入っていた場合に起こることもある。濡れた衣服および風は低体温症のリスクを高める。

意識消失や不動状態,またはこの両方を引き起こす健康状態(例,外傷,低血糖,痙攣性疾患,脳卒中,薬物またはアルコール中毒)が一般的な素因である。高齢者および年少者もリスクが高い。

  • 高齢者ではしばしば温度感覚が低下し,移動能力およびコミュニケーションが障害されているため,非常に寒冷な環境に居続ける傾向にある。こうした障害と皮下脂肪の減少とが相まって,ときに寒冷な部屋では屋内であっても高齢者に低体温症が生じる。

  • 年少者は同様に移動能力やコミュニケーション能力が低く,さらに表面積/体重比が高いため熱放散が大きい。

総論の参考文献

  • Dow J, Giesbrecht GG, Danzl DF, et al: Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Out-of-Hospital Evaluation and Treatment of Accidental Hypothermia: 2019 Update.Wilderness Environ Med 30(4S):S47-S69, 2019.doi: 10.1016/j.wem.2019.10.002.Epub 2019 Nov 15.PMID: 31740369.

病態生理

低体温症は,心血管系および呼吸器系,神経伝導,思考力,神経筋反応時間および代謝速度など,あらゆる生理機能を遅延させる。体温調節は約30℃以下で働かなくなる;その後身体は復温するのに体外の熱源に依存しなければならない。

腎細胞の機能不全およびバソプレシン(ADH)濃度の低下により,大量の希釈尿が産生される(寒冷利尿)。利尿と体液の間質組織への漏出により,循環血液量減少が生じる。低体温症によって生じる血管収縮は,循環血液量減少を覆い隠すことがあるため,末梢血管が拡張する復温中に急性のショックや心停止が現れることで(復温虚脱),循環血液量減少が明らかになることがある。

冷水への浸漬は潜水反射(内臓筋における反射性血管収縮など)の誘因となりうる;血液は重要な臓器(例,心臓,脳)へ回される。この反射は年少の小児において最も顕著であり,保護的に作用しうる。さらに,氷点に近い水に全身が浸かることで生じた低体温症では,代謝要求が低下することによって脳が低酸素から保護されることがある。極度の低体温症による長時間の心停止後も生存する場合があることは,おそらくこの代謝要求の低下により説明できる。

症状と徴候

激しいシバリングが最初に生じるが,約31℃を下回ると鎮まり,体温はより急激に降下する。体温が低下するにつれて中枢神経機能が低下し,寒さを感じなくなる。嗜眠と不器用に続いて錯乱,易刺激性,ときに幻覚が生じ,ついには昏睡に陥る。瞳孔が反応しなくなることがある。呼吸および心拍は遅くなり,最終的には停止する。初期には,洞徐脈に続き徐脈性心房細動がみられる;末期の調律は心室細動または心静止である。

診断

  • 深部体温の測定

  • 中毒,粘液水腫,敗血症,低血糖,および外傷の考慮

診断は口腔温ではなく,深部体温により行う。電子的測定装置の使用が望ましく,多くの標準的な水銀体温計の下限は34℃である。直腸および食道のプローブによる測定が最も正確である。

臨床検査として,血算,グルコース(ベッドサイド測定を含む),電解質,血中尿素窒素,クレアチニン,動脈血ガスなどを調べる。動脈血ガスは低体温に関して補正しない。心電図では,J(オズボーン)波(J[オズボーン]波[V4]を示す心電図異常 J(オズボーン)波(V4)を示す心電図異常 J(オズボーン)波(V4)を示す心電図異常 の図を参照)および間隔の延長(PR,QRS,QT)を示すことがある。低体温症の原因が不明の場合は,アルコール濃度の測定,薬物および甲状腺機能のスクリーニングなどの,病態に寄与する因子を明らかにするための検査を行う。敗血症および潜在する頭部や骨の外傷を考慮すべきである。

J(オズボーン)波(V4)を示す心電図異常

J(オズボーン)波は,QRS波とST部分の接合部にみられるこぶ状の波形である。コンピュータプログラムでは,J波の異常を心筋障害電流と確実に区別することはできない。

J(オズボーン)波(V4)を示す心電図異常

予後

氷水に1時間あるいは(まれに)それ以上長く浸かっていた患者で,深部体温が非常に低かった場合や瞳孔反応がなかった場合でも,ときに永続的な脳損傷を起こさず良好に復温されている例がある(溺水:予後 予後 溺水は液体への水没に起因する呼吸障害である。非致死性(以前はnear drowningと呼ばれた)の場合と致死性の場合がある。溺水により低酸素症が生じ,複数の臓器,特に脳が損傷する可能性がある。治療は,呼吸停止,心停止,低酸素症,低換気,および低体温からの回復を含めた支持療法による。... さらに読む を参照)。予後の予測は困難であり,グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale)に基づいて判断することはできない。予後不良を示唆するマーカーには以下のものが含まれる:

  • 細胞溶解の所見(血清カリウム値 > 10mEq/L[10mmol/L])

  • 血管内血栓形成(フィブリノーゲン < 50mg/dL[1.47μmol/L])

  • 非灌流リズム(nonperfusing cardiac rhythm)(心室細動または心静止)

程度および持続時間が同じである低体温症に対して,小児は成人より回復の可能性が高い。

治療

  • 乾燥と断熱

  • 急速輸液

  • 能動的復温(低体温症が軽度かつ偶発性で,合併症がない場合を除く)

最優先されるのは,濡れた衣服を脱がせ,患者を断熱しさらなる熱放散を防止することである。以降の処置は,低体温症の重症度および心血管系の不安定性や心停止の有無によって異なる。患者を正常体温に回復させるのは,低体温症では重度の高体温症のときほど緊急ではない。安定している患者では,深部体温を1時間当たり1℃上昇させてよい。

循環血液量減少には急速輸液が重要である。患者に1~2Lの生理食塩水(小児には20mL/kg)を静脈内投与する;可能であれば輸液を40~42℃まで加温する。灌流の維持のため,必要に応じてさらに輸液する。

パール&ピットフォール

  • 中等度から重度の低体温症では,末梢血管が拡張する際の心血管虚脱(復温虚脱)を防ぐため,四肢の復温の前に深部体温の安定化を図るべきである。

受動的復温

軽度の低体温症(体温が32.2~35℃)で体温調節がみられるならば(シバリングにより示唆される),温めた毛布による断熱と温かい飲料で十分である。

能動的復温

能動的復温は,患者に32.2℃未満の体温,心血管系の不安定性,ホルモンの機能不全(例,副腎機能低下症や甲状腺機能低下症),または外傷,毒素(トキシン),素因となる障害に続発する低体温症がみられる場合に必要となる。

中等度の低体温症で体温がこの範囲の上限付近にあれば(28~32.2℃),温風ブランケットなどによる外部からの復温を用いてもよい。四肢を温めると低下した心血管系に代謝要求がかかるため,外部からの復温は胸部に行うのが最善である。

重度の低体温症で,より体温の低い患者(28℃未満)は,特に低血圧や心停止を伴う場合,深部の復温を必要とする。

深部の復温の選択肢としては,以下のものがある:

  • 吸入

  • 点滴静注

  • 灌流

  • 体外的深部復温(extracorporeal core rewarming)(ECR)

加温(40~45℃)および加湿した酸素のマスクまたは気管内チューブを介した吸入は,呼吸による熱放散をなくし,復温速度を1~2℃/時上げることが可能である。

電解質輸液または血液は40~42℃に加温すべきであり,特に大量輸液の場合は加温すべきである。

2本の胸腔ドレーンによる閉鎖式の胸腔内灌流(外科的胸腔ドレナージ 外科的胸腔ドレナージ 外科的胸腔ドレナージとは胸腔に外科用ドレーンを挿入し,空気または液体を排出する手技である。 再発性,持続性,外傷性,大きい,緊張性,または両側性の 気胸 陽圧換気下の患者における気胸 症状を伴うまたは繰り返す大量の 胸水 膿胸または肺炎随伴性胸水 さらに読む 外科的胸腔ドレナージ を参照)は重症例に非常に有効である。40~45℃に加温した透析液による腹膜灌流は排液吸引ができる2本のカテーテルを必要とし,横紋筋融解症,毒物摂取または電解質異常を来した重度の低体温症患者に特に有用である。加温した灌流液による膀胱および消化管の灌流は,ごくわずかな熱を伝えるだけである。

ECRには5つのタイプがある;血液透析,静静脈バイパス,持続的動静脈バイパス,人工心肺,および体外式膜型人工肺を用いるものである。ECR法には,適切な専門家による事前のプロトコルが必要である。直感では魅力的で大胆な方法に思えるが,これらの方法はルーチンには行えず,大抵の病院では一般的に行われていない。

心肺蘇生(CPR)

低血圧および徐脈は,深部体温が低いときには予期される事象であり,低体温症のみに起因する場合は,積極的に治療する必要はない。

ベッドサイドでの心臓超音波検査で心拍動がないことにより真の心停止が確認されない限り,患者に灌流リズム(perfusing rhythm)がみられるならば,CPRを行うべきではない。輸液と能動的復温で治療する。胸骨圧迫は以下の理由により行わない:

  • 復温すれば脈は速やかに戻りうる。

  • 胸骨圧迫により,灌流リズム(perfusing rhythm)が非灌流リズム(nonperfusing rhythm)に変わる可能性がある。

非灌流リズム(nonperfusing rhythm)(心室細動または心静止)の患者には CPR 成人における心肺蘇生(CPR) 【訳注:最新の情報については,2020 American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular careを,感染症を考慮した対応については,American Heart Association's COVID-19 Resuscitation Algorithmsを参照のこと。】心肺蘇生は... さらに読む が必要である。胸骨圧迫および気管挿管[XRef]を行う。体温が低いと除細動は困難である;2ワット秒/kgで1回試みてもよいが,効果的でなければ,さらなる試行は一般に体温が30℃を超えるまで延期する。

明らかな致死的傷害や疾患がない限り,体温が32℃に到達するまで二次救命処置を続けるべきである。しかしながら,二次救命処置で用いる薬剤(例,抗不整脈薬,昇圧薬,強心薬)は通常は投与しない。低用量ドパミン(1~5μg/kg/分)または他のカテコールアミンの点滴は,一般的には,不相応に重度の低血圧を呈する患者,ならびに急速輸液および復温に反応しない患者に限って用いる。蘇生術中の重度高カリウム血症(> 10mEq/L[10mmol/L])は,一般的に致死的転帰を示唆し,蘇生努力を行うかどうかの指針となりうる。

要点

  • 直腸または食道の深部体温は,電子的測定装置またはプローブを用いて測定する。

  • 約32℃以上では,温めた毛布または温風ブランケットの使用と温かい飲料の摂取で十分な治療となる。

  • 約32℃以下では,一般的には温風ブランケット,加温加湿した酸素,加温した輸液,およびときに加温液による灌流または体外循環(例,人工心肺,血液透析)を用いて能動的復温を行うべきである。

  • 体温がより低いと,患者は循環血液量減少を来し,急速輸液を必要とする。

  • 灌流リズム(perfusing rhythm)がみられれば,CPRは行わない。

  • 非灌流リズム(nonperfusing rhythm)の患者にCPRを行う場合,除細動は初めの1回を試みた後は体温が約30℃になるまで延期する。

  • 二次救命処置で用いる薬剤は通常は投与しない。

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