メルクマニュアル18版 日本語版
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鉛中毒(プラムビズム)

鉛中毒は,最初は最小限の症状しか引き起こさないことが多いが,急性脳障害または不可逆性の臓器障害を引き起こす場合があり,一般に小児では認知障害を来す。診断は全血鉛濃度により行う。治療には,鉛への暴露の中止,および時に,サクシマーまたはエデト酸カルシウム二ナトリウムの単独またはジメルカプロールとの併用によるキレート療法がある。

米国では鉛を含む塗料は,1960年まで広く,1970年代初期まではある程度用いられ,1978年にほぼ排除された;したがって,かなりの数の古い家屋で,鉛を含む塗料は今なお何らかの危険を引き起こしている。鉛中毒は通常,鉛を含む塗料の小片(割れてはげかけた塗料)の直接的な摂取によって引き起こされる。患者は,家の改装時の再塗装の表面処理の際に,こすり取りややすりがけにより生じた粒子の形態で,エアロゾル状の鉛に大量に暴露する場合がある。不適切な鉛の釉薬をかけた陶磁器は米国以外では一般的であり,特に酸性物質(例,果物,コーラ飲料,トマト,リンゴ酒)に接触した場合,鉛を浸出させうる。鉛を含む密造ウイスキーおよび民間療法,ならびに,胃または組織中に時々みられる鉛を含む異物(例,弾丸,カーテンまたは釣りのおもり)も,有力な原因候補である。軟組織中にとどまる弾丸は血中鉛濃度を上昇させる場合があるが,この過程には数年を要する。職業暴露は,乾電池の製造および再利用,銅像制作,真鍮製造,ガラス製造,パイプ切断,ハンダ付けや溶接,溶錬,陶器または色素の制作の際に起こりうる。一部の民族的な化粧品ならびに輸入のハーブ製品および薬用草は鉛を含み,移住民社会において鉛中毒の集団発生を引き起こしたことがある。加鉛ガソリン(米国以外の国において)の蒸気を,中枢神経作用を求めて娯楽的に吸入すると,鉛中毒を来す場合がある。

症状と徴候

鉛中毒は慢性疾患であることが最も多く,急性症状を示さない場合もある。急性症状の有無にかかわらず,鉛中毒は最終的には不可逆的作用(例,認知障害,末梢神経障害,進行性腎機能障害)を示す。

認知障害のリスクは,全血中鉛濃度(PbB)が長期間にわたり10μg/dL以上(0.48μmol/L以上)である場合に上昇するが,カットオフ値はこれよりさらに低い可能性もある。PbBが50μg/dL以上(2.4μmol/L以上)では,その他の症状(例,腹部痙攣,便秘,振戦,情緒の変調)を来しうる。PbBが100μg/dL以上(4.8μmol/L以上)では,脳障害を来す可能性がある。

小児では,急性鉛中毒により被刺激性,注意力の低下,急性脳障害を生じる場合がある。1〜5日の間に脳浮腫が進行し,持続する激しい嘔吐,失調性歩行,発作,意識異常を発現し,最終的に難治性発作および昏睡に至る。脳浮腫発症前の数週間に,被刺激性および遊びの活動低下が認められる場合がある。小児における慢性鉛中毒は,精神遅滞,発作障害,攻撃的行動異常,発達退行,慢性の腹痛,貧血を引き起こすことがある。

職業暴露の成人では,症状(例,人格変化,頭痛,腹痛,神経障害)が数週間以上かけて発現するのが特徴的である。脳障害はまれである。

鉛は正常なHb形成を阻害するため,小児も成人も貧血を発現する。四エチル鉛または四メチル鉛(加鉛ガソリン中)を吸入した小児および成人は,より特徴的な鉛中毒症状に加えて中毒性精神病を発現する場合がある。

診断

特徴的な症状を呈する患者では鉛中毒が疑われるが,症状はしばしば非特異的であるため,診断が遅れることが多い。検査には,CBCならびに,血清電解質,BUN,血清クレアチニン,血漿グルコース,PbBの濃度測定などがある。X線不透過性の鉛片を確認するために,腹部X線撮影するべきである。小児では,長骨のX線撮影をする。骨幹端部に認められる横方向の鉛のバンドは,赤血球再合成の欠如および小児長骨の予備石灰化帯におけるカルシウム沈着の増加を意味し,鉛中毒またはその他の重金属中毒に多少特異的であるが,感度は低い。正球性貧血または小球性貧血は,網状赤血球数が増加した場合または赤血球に好塩基性斑点が現れた場合は特に,鉛中毒を示唆するが,感度および特異度は限られる。PbB濃度が10μg/dL以上の場合,診断は決定的である。

PbBの測定が必ずしも可能とは限らず費用もかかるため,鉛中毒に関する他の予備検査またはスクリーニング検査も実施可能である。鉛に関する毛細管血検査は,正確,安価,かつ迅速である。陽性を示した検査に関しては,全てPbBで確認するべきである。赤血球プロトポルフィリン(亜鉛プロトポルフィリンまたは遊離赤血球プロトポルフィリンとも呼ばれる)の定量は不正確なことが多く,現在ではほとんど行われない。

エデト酸カルシウム二ナトリウム(CaNa2DTA)を用いた動員検査は,以前は診断および治療に用いられたが,現在ではほとんどの毒物学者は時代遅れとみなしており,通常実施されない。

治療

全ての患者において,鉛源を除去する。鉛の小片が腹部X線で確認される場合は,繰り返しの腹部X線で鉛が確認されなくなるまで,ポリエチレングリコール電解質溶液を用いて成人で1000〜2000mL /時,小児で25〜40mL/kg/時で全腸洗浄する。弾丸が原因の場合は,外科的除去を考慮すべきである。PbBが70μg/dL(3.40μmol/L)以上の小児,および神経症状を呈する全ての患者は,入院させるべきである。急性脳症患者はICUに入院させる。

キレート剤(例,サクシマー[メソ-2,3-ジメリカプトコハク酸],CaNa2EDTA,ジメルカプロール[British Anti-Lewisite,BAL])を投与し,鉛に結合させて排泄可能な形にする場合もある。キレート療法は,経験豊かな毒物学者の監視下で実施すべきである。キレート療法は,毒性症状を呈し,かつPbBが70μg/dL以上の成人,および脳障害を呈するか,またはPbBが45μg/dL(2.15μmol/L)以上の小児に対して,適応がある。肝および腎機能障害は,キレート剤に対して相対禁忌である。キレート化により鉛の消化管吸収が増加しうるので,鉛暴露が継続している患者に対してはキレート剤を投与するべきではない。キレート化で除去されるのは,比較的少量の金属のみである。鉛の全身負荷が非常に大きい場合は,数年間にわたる複数回のキレート化が必要である。

脳障害を来した患者は,ジメルカプロール75mg/m2(4mg/kg),4時間毎に筋注,およびCaNa2EDTA 1000〜1500mg/m2,1日1回静注にて治療する。ジメルカプロールの初回投与はCaNa2EDTAの初回投与より最低4時間は先行させ,鉛が脳中に再分布するのを防ぐべきである。ジメルカプロールは,鉛濃度および症状の重症度に応じて,最初数回の投与で中止する場合がある。ジメルカプロール-CaNa2EDTA併用療法を5日間行い,続いて3日間の休薬期間とし,その後キレート療法の必要性を再評価する。

脳障害のない患者は通常,サクシマー10mg/kg,8時間毎に5日間経口投与し,続いて10mg/kg,12時間毎に14日間経口投与する。症状を呈する患者では,代わりに,ジメルカプロール50mg/m2,4時間毎に深く筋注,およびCaNa2EDTA 1000mg/m2,1日1回静注で治療してもよい。

ジメルカプロールは嘔吐を引き起こしうるので,非経口投与とするかまたは経口補液とともに投与する。ジメルカプロールは他にも,注射部位の痛み,多数の全身症状,さらに,G6PD欠損症患者においては中等度から重度の急性血管内溶血を引き起こす可能性がある。本剤は,鉄補給食品と同時には投与すべきでない。ジメルカプロール製剤はピーナッツ由来物質を含むため,ピーナッツアレルギーが既知または疑われる患者に対しては禁忌である。

CaNa2EDTAは血栓性静脈炎を引き起こしうるが,これは筋注ではなく静注投与すること,および静注濃度を0.5%以下とすることで予防が可能である。CaNa2EDTA投与開始前に,尿流量が十分であることを確認しなくてはならない。CaNa2EDTAに対する重篤な反応には,腎不全,尿蛋白,顕微鏡的血尿,発熱,下痢などがある。腎毒性は用量と相関し,通常は可逆的である。CaNa2EDTAの副作用はおそらく亜鉛の涸渇が原因である。

サクシマーによくみられる副作用には,消化管症状(例,食欲不振,悪心,嘔吐,下痢,金属味)および肝酵素の一時的上昇などがある。

PbBが10μg/dLを超える患者は注意深く監視し,患者自身または両親に鉛暴露を低減する方法を指導するべきである。

予防

リスクのある患者は,PbB測定によるスクリーニングを受けるべきである。家庭における中毒の危険性を低減する方法には,定期的な手洗い,定期的な子供のおもちゃおよびおしゃぶりの洗浄,定期的な家の表面の掃除などがあり,飲料水,家の塗料(米国では1978年以降に建てられた家を除く),および米国以外で作られた陶磁器を,鉛に関して検査すべきである。職場で鉛ダストに暴露する成人は,適切な個人用防護具を装着し,帰宅前に衣服や靴を替え,就寝前にシャワーを浴びるべきである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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