魚油

執筆者:Laura Shane-McWhorter, PharmD, University of Utah College of Pharmacy
レビュー/改訂 2020年 7月
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魚油は魚を食べることで摂取するか,直接抽出するか,または濃縮してカプセル剤とする場合がある。有効成分はω-3脂肪酸(エイコサペンタエン酸[EPA]およびドコサヘキサエン酸[DHA])である。最近,こうした油を自然に大量に生み出すことができる遺伝子組み換え酵母株が設計され,新たな供給源となっている(1)。欧米の食事には一般的にω-3脂肪酸が少ない。(魚以外の食物に由来するω-3脂肪酸の供給源には,クルミとアマニ油がある。)

栄養補助食品の概要も参照のこと。)

効能

魚油は動脈硬化性心血管疾患の予防および治療に用いられており,特にトリグリセリド値を低下させる作用がある。作用機序はおそらく複数あるが,不明である。動脈硬化性心血管疾患の一次予防,コレステロール値の低下,関節リウマチの治療,血圧の低下,およびシクロスポリンの腎毒性の予防に対し,有益な効果があると考えられているが証明はされていない。

エビデンス

以前のエビデンスでは,EPA/DHA(EPA+DHA,配合比は様々)を1日に800~1500mg摂取すると,冠動脈疾患があり従来の医薬品を投与されている患者において心筋梗塞のリスクおよび不整脈による死亡リスクが低下することが示された(2)。さらに,EPA/DHAはトリグリセリドを減少させる。

2016年の最新レビューでは,用量依存的なトリグリセリド低下作用を示す強力なエビデンスが確認された。ただし,心血管系障害による死亡および重大な心血管系有害事象のリスクの低下については中等度の質のエビデンス,より高用量で用いた場合に冠動脈疾患および心不全のリスクの低下と関連するかどうかについては低度の質のエビデンスであった。降圧作用は認められなかった(3)

実施期間が12~88カ月の86のランダム化比較試験(162,796例)を対象とした2020年のコクラン・レビュー(Cochrane Review)では,ω-3脂肪酸がトリグリセリドを低下させることが確認されたが,確実性の高いエビデンスによると,心血管イベントおよび死亡にはほとんど影響を及ぼさないことが確認された。このレビューにおけるほどほどに確かなエビデンスでは,心血管死亡率のわずかな低下が認められたが,脳卒中または不整脈の発生数に差は認められなかった。このレビューでは,冠動脈イベント1件を予防するために167人の参加者が治療を必要とし,冠動脈疾患による死亡1件を予防するために334人の参加者が治療を必要としたことが指摘された(4)。しかしながら,REDUCE-IT試験では,確定した心血管疾患を有する患者,または確定した糖尿病およびその他の危険因子に加えスタチン系薬剤による治療にもかかわらずトリグリセリド値に上昇がみられる患者が登録されたが,処方薬物であるイコサペント酸エチルを使用することでMACE(主要な有害心イベント)が有意に減少したことが報告された(5)。2019年のAmerican Heart Associationの科学的勧告では,処方箋なしで入手できる魚油サプリメントの使用の限界についてコメントしており,高トリグリセリド血症に対してはFDAの承認を受けた処方箋薬のみを使用するよう推奨している(6)

有害作用

魚くさいげっぷ,悪心,および下痢が起こることがある。EPA/DHAの1日3g超の摂取で出血のリスクが増加する。水銀汚染に関する懸念は臨床検査では実証されていない。それでも,水銀汚染のリスクの可能性があるため,妊娠中または授乳中の女性は魚から抽出したω-3脂肪酸のサプリメントを摂取すべきでなく,特定の種類の魚および魚の摂取量を制限すべきである。

薬物相互作用

魚油と降圧薬の併用により,相加的に血圧が低下する可能性がある。魚油の服用はワルファリンの抗凝固作用を高めることがあるが,有害な出血イベントが認められていない研究も一部に存在する(7)。それでも,出血が増加する可能性について,患者に注意を喚起すべきである。

魚油に関する参考文献

  1. Xue Z, Sharpe PL, Hong SP, et al: Production of omega-3 eicosapentaenoic acid by metabolic engineering of Yarrowia lipolytica.Nat Biotechnol 31(8):734-740, 2013. doi: 10.1038/nbt.2622.

  2. Agency for Healthcare Research and Quality: Effects of Omega-3 Fatty Acids on Lipids and Glycemic Control in Type II Diabetes and the Metabolic Syndrome and on Inflammatory Bowel Disease, Rheumatoid Arthritis, Renal Disease, Systemic Lupus Erythematosus, and Osteoporosis.AHRQ Publication No. 04-E012-1; 2004.

  3. Agency for Healthcare Research and Quality: Omega-3 fatty acids and cardiovascular disease: an updated systematic review.AHRQ Publication No. 16-E002-F; 2016.

  4. Abdelhamid AS, Brown TJ, Brainard JS, et al: Omega-3 fatty acids for the primary and secondary prevention of cardiovascular disease (review).Cochrane Database Syst Rev 3:CD003177, 2020.doi: 10.1002/14651858.CD003177.pub5.

  5. Bhatt DL, Steg PG, Miller M, et al: Cardiovascular risk reduction with icosapent ethyl for hypertriglyceridemia.N Engl J Med 380(1):11-22, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1812792. 

  6. Skulas-Ray A, Wilson PWF, Harris WS, et al: Omega-3 fatty acids for the management of hypertriglyceridemia: a science advisory from the American Heart Association.Circulation 140(12):e673-e691, 2019.doi: 10.1161/CIR.0000000000000709.

  7. Pryce R, Bernaitis N, Davey AK, et al: The use of fish oil with warfarin does not significantly affect either the International Normalized Ratio or incidence of adverse events in patients with atrial fibrillation and deep vein thrombosis: a retrospective study.Nutrients 8(9):578, 2016.doi:10.3390/nu8090578.

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Institutes of Health (NIH), National Center for Complementary and Integrative Health: An in-depth review of omega-3 supplements

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