メラトニンは松果体で分泌されるホルモンであり,概日リズムを調節する。動物由来のメラトニンもあるが,ほとんどは人工的に合成される。メラトニンを薬物とみなし,医薬品として規制している国もある。
(栄養補助食品の概要も参照のこと。)
効能
メラトニンは,時差ぼけや不眠など睡眠パターンの短期的な制御に使用される。季節性感情障害の患者や,夜間勤務の人における睡眠パターンの制御,アルツハイマー病初期の患者に対する睡眠/覚醒サイクルの再同期にメラトニンを用いることに関する調査は,現在評価中である。
標準的な用量は確立されておらず,0.5~5mgの範囲で旅行当日は通常の就寝時間の1時間前に,および到着後の2~4日間は夜,いずれも経口で摂取する。
エビデンス
科学的根拠によると,メラトニンは時差ぼけの影響を最小限に抑える,特に東に向かって2~5タイムゾーンを超える旅行をする場合によいという(1-2)。
19の研究(1683例)を対象としたメタアナリシスでは,小児および成人において,原発性睡眠障害の治療用としてのメラトニンにより,入眠するまでの時間が7分短縮され,全体的な睡眠時間が8分増加し,睡眠の質が改善されることが明らかになった(3)。ランダム化比較試験のメタアナリシスでは,メラトニンが原発性不眠症における睡眠潜時を短縮し,睡眠相後退症候群の患者に有益であり,盲目の患者における睡眠-覚醒パターンの調節に役立つというエビデンスが得られている(4)。別のメタアナリシスでは,メラトニンは二次性睡眠障害(睡眠制限による二次性不眠症)に有益であり,具体的には睡眠潜時を短縮し,総睡眠時間を延長させるが,睡眠効率の改善にはつながらないことが明らかにされた(5)。精神神経疾患(例,広汎性発達障害)のある成人および小児の睡眠補助としてのメラトニンの使用を支持するエビデンスは強くはない。しかしながら,19のランダム化比較試験において,メラトニンは神経発達障害のある小児において睡眠潜時,睡眠時間,および入眠後の覚醒時間を有意に改善した(6)。
有害作用
頭痛および一過性の抑うつが起こることがある。理論的に,動物の神経組織由来の製品によるプリオン感染のリスクがある。メラトニンは既存のうつ病を悪化させることもある。
薬物相互作用
エビデンスによると,メラトニンがワルファリンの効果を高め,出血のリスクを増大させうることが示唆されている。
メラトニンに関する参考文献
Melatonin for jet lag.Drug Ther Bull 58(2):21-24, 2020.doi: 10.1136/dtb.2019.000074.Epub 2020 Jan 13.
Buscemi N, Vandermeer B, Pandya R, et al: Melatonin for Treatment of Sleep Disorders.AHRQ Publication No.
Ferracioli-Oda E, Qawasmi A, Bloch MH: Meta-analysis: melatonin for the treatment of primary sleep disorders.PLoS One 8(5):e63773, 2013.doi: 10.1371/journal.pone.0063773.
Auld F, Maschauer EL, Morrison I, et al: Evidence for the efficacy of melatonin in the treatment of primary adult sleep disorders.Sleep Med Rev 34:10-22, 2017.doi: 10.1016/j.smrv.2016.06.005.
Li T, Jiang S, Han M, et al: Exogenous melatonin as a treatment for secondary sleep disorders: a systematic review and meta-analysis.Front Neuroendocrinol 52:22-28, 2019.doi: 10.1016/j.yfrne.2018.06.004.
McDonagh MS, Holmes R, Hsu F: Pharmacologic treatments for sleep disorders in children: a systematic review.J Child Neurol 34(5):237-247, 2019.doi: 10.1177/0883073818821030.
より詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
National Institutes of Health (NIH), National Center for Complementary and Integrative Health: General information on the use of melatonin as a dietary supplement