メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

禁煙

ニコチンはタバコに含まれる非常に依存性の強い薬物で,紙巻タバコの煙の主要な成分である。ニコチンは,快楽をもたらす行動によって活性化される脳内報酬系を刺激し,その刺激の仕組みは他の大部分の依存性薬物に類似している(薬物使用と薬物依存を参照 )。人はニコチン嗜好を満足させるために喫煙するが,紙巻タバコの煙に含まれる何百という発癌物質や有害ガスおよび化学添加物も同時に吸い込む。こうした成分が原因で喫煙は健康に様々な影響を及ぼす。

疫学

喫煙: 米国の喫煙率は,軍医総監が喫煙と不健康との関連性を初めて報告した1964年から減少している。にもかかわらず,約4千5百万人の(23%近い)成人が喫煙を続けている。喫煙者が最も多いのは,男性,教育年数が12年未満の人,収入が貧困レベル以下で生活する人,非ヒスパニック白人,非ヒスパニック黒人,アメリカインディアンおよびアラスカ先住民である。喫煙者が最も少ないのはアジア系アメリカ人である。

ほとんどの人は小児期に喫煙を始める。10歳の小児でさえタバコを試してみる。毎日2000人以上が喫煙を始め,うち,31%が16歳になる前に,および半数以上が18歳になる前に開始し,喫煙開始年齢は下がり続けている。小児が喫煙を開始する危険因子としては,両親や友人,理想の人(例,有名人)の喫煙,学業成績不良,ハイリスクの行動(例,少年少女の過度のダイエット,暴力を伴うけんか,飲酒運転),および問題解決能力の欠如が挙げられる。

喫煙は体のほとんど全ての臓器を損ない,2000年現在,米国の死亡原因の第1位を占め,推定で年間43万5千人の死亡に関係する。現在喫煙している人の約半数が,喫煙に直接引き起こされた疾病が原因で若年死を迎え,寿命が平均10〜14年(タバコ1本につき7分)短縮することになる。喫煙に起因すると考えられる死亡の65%は,虚血性心疾患や肺癌,慢性の肺疾患によるもので,残りは心臓以外の血管疾患(例,卒中,大動脈瘤),肺以外の癌(例,膀胱,子宮頸部,食道,腎臓,喉頭,口腔咽頭,膵臓,胃,咽喉),肺炎,および周産期の病態(例,早産,低出生体重,乳児突然死症候群)によるものである。加えて喫煙は,多大な罹病や障害をもたらすその他の疾病の危険因子で,例えば,急性骨髄性白血病や頻繁に起こる上気道感染,白内障,生殖に与える影響(例,不妊,自然流産,子宮外妊娠,早発閉経),歯周病などが挙げられる。

禁煙: 喫煙者の70%以上が毎年プライマリーケアを受診するが,禁煙に役立つカウンセリングおよび投薬を受けて帰る人はほんの少数である。18歳未満の喫煙者のほとんどが5年後には喫煙していないと考えており,また,半数以上が前年に禁煙を試みたと報告している。しかしながら,長期的な研究によると毎日喫煙する高校生の73%は5〜6年後も引き続き毎日喫煙している。

受動喫煙: タバコの煙に対する受動的な暴露(二次喫煙,環境中タバコ煙)は小児および成人の健康に深刻な影響を及ぼす。新生児,乳児,および小児に対するリスクには,出生時低体重,乳幼児突然死症候群,喘息およびその他関連する呼吸器疾患,中耳炎などがある。タバコの煙に暴露している小児は,暴露していない小児に比べて病気で学校を欠席する日数が多い。喫煙が関係する火災がもとで毎年80人の小児が死亡し,さらに300人近くがけがをする;喫煙が関係する火災は,米国内の失火による死亡の主たる原因である。喫煙が関係する病気をもつ小児を治療するには年間46億ドルかかると推定される。さらに,毎年4万3千人の小児が,1人以上の養育者を喫煙が関係する病死で失っている。

成人の暴露は,能動喫煙者を脅かすのと同じ腫瘍や,呼吸器系および心血管系の疾患と関連づけられている。総合すると,二次喫煙は米国での年間5万〜6万人の死亡の原因であると推定される。こうした知見から,米国各地の6つの州および自治体は,環境中タバコ煙の重大なリスクから労働者などの健康を保護する取り組みとして職場内の喫煙を禁止するに至った。

症状と徴候

禁煙はしばしば強い離脱症状を引き起こし,タバコに対する渇望が主たるものであるが,他に,不安感,抑うつ(たいていは軽度,時に重度となる),集中力の低下,いらいら,落ち着きのなさ,不眠,眠気,我慢のなさ,空腹感,震え,発汗,めまい,頭痛,消化障害なども認められる。こうした症状は最初の1週間が最もひどく3〜4週間以内に治まるが,多くの患者は症状がピークに達したときに喫煙を再開する。平均4〜5kgの体重増加はありがちで,喫煙をやめられないもう1つの理由である。潰瘍性大腸炎のある喫煙者は禁煙直後にその症状が悪化しがちである。

治療

依存の度合いおよび離脱症状があまりにも強いため,禁煙を考えている人の多くは,たとえ数々の健康上のリスクを知っていたとしても,禁煙をしたがらず,禁煙を試みた人も不成功に終わることが多い。1回目の試みでタバコを永久にやめるのはほんの少数で,大多数は喫煙再開と禁煙との間を何度も行ったり来たりしながら長い間喫煙を続ける。患者,特に,禁煙を嫌がっている,または禁煙を考えたことのない患者に対して行う根拠に基づいた最適なアプローチは,慢性疾患を治療するのと同じ原則に則るべきで,つまり:

  • 喫煙状況の継続的な評価とモニタリング
  • 現実的な目標の設定,これには,完全な禁煙には及ばないが一時的にタバコを節制するとか消費を減らすなどといった目標も含まれる(タバコの減量は,ニコチン補充療法と組み合わせるととりわけ,禁煙に対する意欲を増進させる可能性がある)
  • 異なる患者には必要に応じて異なる介入(または組み合わせ)を行う。

効果的な介入には核となる3つの構成要素が欠かせない:カウンセリング,薬物療法(禁忌を持たない患者に),および喫煙者に対する一貫した同定および介入である。

小児に対するカウンセリングは成人に対するのと同じ方法で行う。小児には10歳までに喫煙および危険因子についてスクリーニング検査を行う。両親には,タバコの煙のない家庭を維持するよう,および喫煙しないでいてもらいたいという期待を自分の子供たちに伝えるよう助言する。認知行動療法として,例えば,喫煙習慣を自覚させる,禁煙の動機づけを行う,禁煙に向けた教育を行う,禁煙後の断煙を継続するための方策を示すなどが挙げられるが,これらはニコチン依存症の青年を治療する上で有効である。禁煙に対するこれらのアプローチに替わるもの,例えば催眠法および鍼療法などは研究が不十分でルーチンの利用は勧められない。

カウンセリング: カウンセリングの取り組みはAで始まる5つの言葉で表すことができる:来診のたびに患者にタバコを吸うかどうかを尋ね(Ask),その返答を記録する;喫煙している全ての患者にタバコをやめるよう,患者に分かるはっきりとした強い言葉で助言する(Advise);今後30日以内に禁煙する意志が喫煙者にあるかどうかを評価する(Assess);禁煙の試みに意欲的な患者には簡潔なカウンセリングおよび投薬で助力する(Assist);フォローアップの予定を,できるならば禁煙開始予定日から1週間以内に設定する(Arrange)。

禁煙に意欲的な人の場合,臨床医は禁煙開始日を可能であれば2週間以内に設定し,完全にタバコを断つ方が減煙よりも効果的であることを強調すべきである。過去の禁煙の体験を再検討し,何が有効で何が有効でなかったかを同定するのもよく,また,喫煙のきっかけとなるものや禁煙の妨げとなるものを前もって考慮に入れておくべきである。例えば,飲酒は喫煙再開につながるため,アルコールの制限または禁酒について話し合うことが重要である。また,禁煙は家庭内に他に喫煙者がいるとさらに困難になる;配偶者および同居者もともに禁煙することを奨励するとよい。全般的にいえば,禁煙の試みに対して家族や友人から社会的な支えを得るよう患者を指導し,臨床医は,禁煙の試みを支えるために受診の機会を増やし,支援を強化しなければならない。こうしたカウンセリングの方策は道理にかない,患者の重要な助力となるが,喫煙再開を防止するために有効であるという科学的な証拠はほとんどない。

米国の約40の州で電話での禁煙相談を受け付けており,禁煙を試みる人々をサポートしている。この電話相談の番号はそれぞれの州か米国癌協会(800-ACS-2345;www.cancer.org)で入手できる。

薬物: 禁煙に対して有効性および安全性が証明された薬物にブプロピオン徐放錠およびニコチン(ガム,トローチ剤,吸入器,鼻孔スプレー,またはパッチの形態; 禁煙: 禁煙のための薬物療法表 1: 表を参照)がある。ブプロピオンはニコチン置換療法よりも有効であると示唆する証拠もある。ニコチンはどの形態のものも単独療法として成立するが,ニコチンパッチと,ガムあるいは鼻孔スプレーの組み合わせが単独のどの形態よりも長期間の禁煙を可能にする。ノルトリプチリン25〜75mg,就寝時の経口による服用が抑うつのある喫煙者にとって有効な第2選択の代替薬になることもある。薬物の選択は,臨床医がその薬物に精通しているかどうか,患者の好みおよび過去の経験(よくも悪くも),および禁忌の有無によって決まる。

表 1

禁煙のための薬物療法

薬物療法

用量

期間

副作用

注記

ブプロピオン徐放錠

150mg,毎朝3日間,その後150mg,1日2回(治療は喫煙開始日の1–2週間前から始める)

当初は7–12週間;6カ月までは継続可能

不眠;口渇

処方箋のみ;禁忌には発作,摂食障害,および過去2週間以内のMAO阻害薬使用歴

ニコチンガム

1–24本/日の喫煙者は2mgのガム(最大24個/日)

25本以上/日の喫煙者は4mgのガム(最大24個/日)

最長12週間

口の痛み;消化不良

大衆薬のみ

ニコチントローチ剤

起床後30分以上経過してから喫煙する場合は2mg;起床後30分以内に喫煙するのであれば4mg

いずれの用量のトローチ剤も服用は,第1–6週は1–2時間毎に1個;第7–9週は2–4時間毎に1個;第10–12週は4–8時間毎に1個

最長12週間

悪心;不眠

大衆薬のみ

ニコチン吸入器

6–16カートリッジ/日を12週目まで,その後6–12週間かけて減らしていく

3–6カ月

口およびのどの局所的な刺激

処方箋のみ

ニコチン鼻スプレー

8–40回/日

1回に2吹き

14週間

鼻の刺激

処方箋のみ

ニコチンパッチ

6週間は21mg/24時間,その後の2週間は14mg/24時間,続いての2週間は7mg/24時間

10本以上/日の喫煙者は1回分の用量が21mgで開始;10本未満/日の喫煙者は1回分14mgで開始する

10週間

局所的な反応;不眠

大衆薬および処方箋

 

または

10本以上/日の喫煙者は15mg/16時間

6週間

   

ブプロピオンに対する禁忌には発作,摂食障害,および2週間以内のMAO阻害薬使用といった病歴が含まれる。ニコチン置換療法は心血管系疾患の一定のリスクをもつ患者(心筋梗塞を起こしてから2週間にならない,重症の不整脈がある,重症の狭心症をもつといった患者)には慎重に用いる。ニコチンガムは側頭下顎関節症候群の患者に禁忌で,ニコチンパッチは重症の局所性感作のある患者に禁忌である。これらの薬物は全て,妊婦,授乳期の女性,青年期の男女,および喫煙本数が1日10本未満の患者(ニコチン毒性の可能性があり,加えて有効性の証拠が乏しいため)には仮に使うとしても慎重を期すべきである。こうした薬物は体重増加を遅らせるが防ぐことはない。

有効性が証明されているにもかかわらず,禁煙のために薬物を用いる人は禁煙を試みる喫煙者の25%未満にとどまる。その理由として,健康保険の適用率が低い,喫煙とニコチン補充が同時に行われることでその安全性に関して臨床医の側に懸念がある,過去の禁煙の失敗で落胆していることなどが挙げられる。

現在研究が行われている禁煙療法に,ニコチンがその特異的な受容体に達する前にニコチンを阻害するワクチンおよびカンナビノイドCB1受容体の拮抗薬であるリモナバンがある。

予後

米国で禁煙にチャレンジする年間約2千万人の喫煙者のうち,90%以上が数日,数週間,または数カ月のうちに喫煙を再開する。半数近い人が,一気にタバコを断つやり方かその他の方法で前年に禁煙を試みたがうまくいかなかったと報告している。禁煙のためにカウンセリングか薬物を利用した人の成功率は20〜30%である。

その他のタバコ

紙巻タバコがタバコの中では最も有害な喫煙方法であるが,パイプ,葉巻,無煙タバコの喫煙も同様の悪影響をもたらす。パイプだけの喫煙者は米国では比較的まれであるが(12歳以上の1%未満),パイプの喫煙は中高生の間で1999年から増加している。12歳以上の約5.4%の人が葉巻を吸う。割合は2000年以降減少しているものの,18歳未満のグループが新たに葉巻の喫煙を始める人の中で最大の集団である。パイプおよび葉巻の喫煙のリスクには心血管系疾患;慢性閉塞性肺疾患;癌(口腔,肺,喉頭,食道,大腸,膵臓);歯周病および歯の喪失がある。

12歳以上の約3.3%が無煙タバコ(噛みタバコおよび嗅ぎタバコ)を使う。無煙タバコの毒性は銘柄によって違う。リスクには心血管系疾患,口腔の障害(例,癌,歯肉の退縮,歯肉炎,歯周炎およびその結果起こる障害),および催奇形性がある。無煙タバコ使用者およびパイプや葉巻の喫煙者の禁煙は紙巻タバコの喫煙者の禁煙と変わらない。成功率は無煙タバコ使用者が高い。しかしながら,パイプや葉巻の喫煙者の禁煙成功率については記録が整っておらず,また,成功率は,紙巻タバコの同時使用および喫煙者がタバコの煙を肺まで吸い込むかどうかに影響を受ける。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ
イラスト
個人情報の取扱いご利用条件