アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)

執筆者:Victor E. Ortega, MD, PhD, Mayo Clinic;
Frank Genese, DO, Wake Forest School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 7月
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アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は,Aspergillus属(一般にA. fumigatus)に対する過敏反応であり,ほとんどは喘息患者に限定的に,またはまれに嚢胞性線維症の患者にみられる。アスペルギルス(Aspergillus)抗原に対する免疫応答が気道閉塞を引き起こし,治療しなければ気管支拡張症および肺線維症を引き起こす。本症の症状および徴候として,喘息の症状や徴候に加え,湿性咳嗽ならびに,ときに発熱および食欲不振がみられる。診断は病歴および画像検査に基づいて疑われ,アスペルギルス(Aspergillus)皮膚テストおよびIgE値,血清中沈降抗体,ならびにA. fumigatus特異的抗体の測定により確定される。治療にはコルチコステロイドを用い,疾患が難治性の場合はイトラコナゾールを用いる。

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は,喘息または嚢胞性線維症の患者の気道にAspergillus属(土壌に遍在する真菌)が定着することで発生する。

ABPAの病態生理

理由は不明であるが,上述の患者で定着が起きると,アスペルギルス(Aspergillus)抗原に対する抗体反応(IgEおよびIgG)および細胞性免疫応答(I,III,IV型過敏反応)が活性化し,喘息の増悪が頻繁に繰り返されるようになる。時間の経過とともに,免疫反応はAspergillusの直接的な毒性作用と相まって拡張を伴う気道の損傷を招き,最終的には気管支拡張症および線維症を引き起こす。この疾患の組織学的特徴は,気道の粘液栓子,好酸球性肺炎,形質細胞および単核球の肺胞中隔への浸潤,ならびに細気管支における粘液腺および杯細胞の数の増加である。

まれに他の真菌類,例えばPenicilliumCandidaCurvulariaHelminthosporium,およびDrechsleraなどの菌種が,喘息または嚢胞性線維症の基礎疾患がない状態で,アレルギー性気管支肺真菌症と呼ばれる同じ症候群を引き起こす。

Aspergillusは管腔内に存在するが,侵襲性はない。そのため,ABPAは以下と鑑別しなければならない。

  • 侵襲性アスペルギルス症(易感染性患者にみられる)

  • アスペルギローマ(すでに空洞性病変または嚢胞性の気腔を有する患者におけるAspergillusの蓄積)

  • アスペルギルス(Aspergillus)肺炎(まれな疾患であり,低用量プレドニゾンを長期服用している患者[例,慢性閉塞性肺疾患の患者]にみられる)

区別は明確でありうるが,オーバーラップ症候群が報告されている。

ABPAの症状と徴候

症状は,喘息または嚢胞性線維症の増悪症状に加え,くすんだ緑色または褐色の粘液栓子を伴う咳嗽,およびときに喀血である。発熱,頭痛,および食欲不振は重症例でよくみられる全身症状である。徴候には,気道閉塞の徴候,特に喘鳴および呼気延長があり,これらは喘息の増悪と区別がつかない。

ABPAの診断

  • 喘息の病歴

  • 胸部X線または高分解能CT

  • アスペルギルス(Aspergillus)抗原を用いた皮膚プリックテスト

  • 血清中アスペルギルス(Aspergillus)沈降抗体

  • Aspergillus属(または,まれに他の真菌)に対する喀痰培養陽性

  • IgE値

  • 血中好酸球数

喘息患者において,繰り返す増悪,胸部X線上の移動性または消失しない浸潤影(しばしば粘液栓子および気管支閉塞による無気肺のため),画像検査での気管支拡張症の所見,A. fumigatusの喀痰培養陽性,または著明な末梢血好酸球増多があれば本症が疑われる。

診断には複数の基準が提唱されている(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の診断基準の表を参照)が,実際には全例において全ての基準を評価するわけではない。

本症が疑われる場合,アスペルギルス(Aspergillus)抗原を用いた皮膚プリックテストが最良の第1ステップであるが,血清中アスペルギルス(Aspergillus)沈降抗体の測定の方がより実用的な最初の検査である可能性がある。ABPAのない喘息患者の最大25%で皮膚テストが陽性となりうるため,即時型の膨疹・紅斑反応があれば,血清IgE値およびアスペルギルス(Aspergillus)沈降抗体の測定を行うべきである。IgE値 > 1000ng/mL(> 417IU/mL)でかつ沈降抗体が陽性であれば診断が示唆され,抗アスペルギルス(Aspergillus)特異的免疫グロブリンの測定により診断が確定する(健常な患者の最大10%に血清中沈降抗体がみられる)。ABPAが疑われる場合,ABPAのない患者の少なくとも2倍の濃度のA. fumigatus特異的IgGおよびIgE抗体が認められると診断が確定する。

喀痰および気管支鏡下採取液からのAspergillusの培養は,ABPAの診断を下す上で感度および特異度が低く,診断基準に含まれない。

検査結果が分かれた場合(例えばIgEが上昇しているがA. fumigatus特異的免疫グロブリンが陰性である場合)は必ず再検査を行い,ABPAの診断を確定または除外するまで,患者の状態をモニタリングすべきである。

表&コラム

ABPAの治療

  • プレドニゾン

  • ときに抗真菌薬

治療は病期に基づいて行われる(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の病期の表を参照)。

I期ではプレドニゾンを0.5~0.75mg/kg,1日1回経口で2~4週間投与し,その後4~6カ月かけて漸減する。胸部X線,血中好酸球数,IgE値が改善しているかを年4回確認すべきであり,改善は浸潤影の消失,好酸球の 50%の減少,およびIgEの33%の低下と定義される。II期に達した患者は年1回のモニタリングのみ必要である。

II期の患者が再発した場合(III期),プレドニゾンの試験的投与を再度行う。I期またはIII期の患者がプレドニゾンでは改善しない場合(IV期)は,抗真菌療法の対象となる。プレドニゾンの代替薬として,およびコルチコステロイドを減量するための薬剤として,イトラコナゾールを200mg,1日2回経口で16週間の投与が推奨されている。

イトラコナゾール療法では,薬物濃度のチェック,肝酵素ならびにトリグリセリドおよびカリウム濃度のモニタリングが必要である。

表&コラム

全ての患者は基礎にある喘息または嚢胞性線維症に対する最適な治療を受けるべきである。さらに,長期間コルチコステロイドを使用している患者では,白内障糖尿病,および骨粗鬆症などの合併症をモニタリングすべきであり,またできれば骨の脱灰およびPneumocystis jiroveciiの肺感染を予防するための治療を処方すべきである。

ABPAの要点

  • 喘息または嚢胞性線維症の患者において,原因不明の頻繁な増悪がある場合,胸部X線で移動性または消失しない浸潤影がある場合,画像検査で気管支拡張症の所見がみられる場合,血中好酸球増多が持続する場合,または喀痰培養でAspergillusが認められる場合は,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)を考慮する。

  • アスペルギルス(Aspergillus)抗原を用いた皮膚プリックテストから検査を開始し,通常続けて血清学的検査を行う。

  • まずはプレドニゾンで治療する。

  • プレドニゾン投与にもかかわらずABPAが持続する場合は,イトラコナゾールなどの抗真菌薬で治療する。

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